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地元から程近い駅で降りた5人。
此処からは自転車移動になるが、ビードロズ4人にはある考えがあった。

折角海が売りの我が地元なのだし、海沿いルート通りたい。
が、ドジな可憐にそんな事をしたら、景色に目が行って転ぶ可能性がある。

其処で棗が引っ張りだして来たのが、タンデム4輪車である。

「凄いよねー!タイヤが4つあるー!」
「初めて見ました・・・」
「何処から持って来んのよ。」
「知り合いに頼んでねwまあ目立つのが難点っちゃあ難点なんだけど、桐生ちゃん、平気?」
「全然大丈夫だよ!寧ろ楽しそうだけど・・・本当に私、景色見ていて良いの?」

タンデム自転車という物は、1番前の者しかハンドルを預からない。だから後ろの者は基本的に足だけ動かして捕まって居れば、多少余所見をしても平気なのである。

「お任せお任せw手だけ離さないで居てくれたら良いよw」
「でもバランスとか・・・」
「こういうのは、棗君お得意ですから。」
「だいじょびだいじょび!さ!行っくよー!しゅっぱーつ!」

紀伊梨のかけ声と共に、5人は一列になって自転車移動を始める。

先頭に紀伊梨。後ろに棗と可憐。更に後ろに紫希が居て、最後が千百合。

「でもまだ暫く市街地だけど、我慢してねw」
「ううん、全然!」
「あっ!じゃあさじゃあさ、私達の歴史観光ルートで行こーよ!」

「何言ってんの彼奴は・・・」
「あはは・・・でも、楽しそうじゃありませんか?」

後ろで千百合と紫希がそう言ってる間に、紀伊梨はもう既にすっかりその気になっていた。

「ようしっ!じゃあこっち曲がりまーす!」
「はいよw」

すいすいと道を走って行くと、ちょっと大きい如何にも広そうな敷地と建物が見える。

「・・・あ!ねえねえ紀伊梨ちゃん!これって・・・」
「ご明察だよ、多分w」
「右手に見えますのが、此処らへんでいーっちばん!でっかいテニススクールであります!」
「わあ、やっぱり!」

勿論、幸村や真田が幼少の砌より世話になっているスクールである。

「此処、学区外だから小学校の頃はあんまり堂々と行けなかったのよね。」
「そうなのっ?」
「そんなに遠く無いんですけれど、微妙に範囲外でして。」
「今はもう、皆だけで来れちゃうもんねー!」
「大人になると自由になる事いっぱいあるなあw」

言いながら今度は左折。
そして真っ直ぐ進むと、次に見えてくるのは紀伊梨のお気に入りポイント。

「左に見えますのがー、ビードロズの始まりの場所ー!ライブハウス・プリズムだよー!」

紀伊梨の言った通り左からに見えた小さなライブハウスは、それでも真っ黒い外観と無造作に貼られたポスター、スプレーで描かれた落書きで雰囲気たっぷりである。

「皆、小学校の頃にああいう所行ってたの?怖くなかった?」
「俺達だけじゃなかったよw」
「親も兄弟も皆ついてきてくれたしね。」

というかそもそもの話をすると、小学生をぞろぞろ引き連れてロックやメタルのライブ見せてやろうというのは、黒崎家の父、雄一の発想であった。
千百合は父と棗を並べて見る度、この親にしてこの子有りだと思ってしまう。

「でー、この道をずーっと行くと・・・今度は紫希ぴょんのおすすめスポットが見えるよー!」
「あ!分かったっ!図書館だ!」
「ふふ。正解です。」

見るからに重々しい雰囲気の建物は、此処ら一帯で随一の蔵書量を誇る図書館である。
この辺りまで来ると学区内に入るのを良いことに、幼い頃から通って通って通いまくっている紫希は、もう司書さんに顔を覚えられているレベル。

「さてさて!次はちょーっと上り坂であります!」
「あ、た、立ち漕ぎだねっ!」
「しなくて良いよw任しときw」

緩い坂を登って、アスファルトから石畳みになる道を進む。
その向こうが、千百合の憩いの場所。

「今から通り抜けするのが、お花の公園だよ!」
「ちゃんとした名前は違うけどね。」
「でも、いつ来ても何かしら咲いてるので、皆お花の公園って呼んでるんです。」
「へえ!良いなあ、きっと綺麗だねっ!」

(・・・実を言うと、千百合と幸村のデートスポットなんだよねw)
(あっ、そうなの?)

「ちょっと、何の話してるの。」
「何にもw」

別に自分がデートするわけでは無いのだが、可憐はちょっとドキドキしてきた。
石畳みを進み、植樹している木陰のエリアを抜けると、今はツツジが満開である。

「わあ!凄い凄い、綺麗!」
「皐月は今見ごろだから。」
「そうなのっ?あれって見頃があるんだ・・・っていうか、躑躅じゃないの?」
「白いのが所謂躑躅。あのピンクのは躑躅は躑躅だけど皐月躑躅で、略して皐月って言われてる別種のやつ。」
「わあ・・・千百合ちゃん詳しいね、凄いっ!」
「・・・・・」

厳密に言うと、千百合が詳しいのではない。
幸村が詳しいから覚えてしまった、というのが正しい。

「桐生ちゃん、あんまり苛めないでやってw」
「えっ!?な、何が、えっ!?私何か言った!?」
「言ってません言ってません、こっちの話です!可憐ちゃんは何も悪くありませんので、お気になさらず!」

(あのくそ兄貴、止まったらしばく)

可憐と紫希さえ間に居なければ、あの後頭部に何か投げてやるのに。

「皐月ってミツ吸うのが美味しいよねー!」
「花より団子を体言しとるw」
「あ、あはは・・・あ、可憐ちゃん。」
「うんっ?」
「そろそろ、左手を見て居た方が良いです。」
「左・・・」

棗に悪いな、と思いながら顔を左に向ける可憐。

「桐生ちゃん、これペダル連動してるからw」
「あ、ごめんっ!漕ぐね、」
「そうじゃなくて、漕がないで良いから足離して置いてw」
「でも・・・」
「可憐たん、なっちんは大丈夫だから海見ようよー!」
「その為に、この自転車に乗ってるわけですから。」
「そ、そう?」
「そうそう。そいつ只の運転手だから。」
「酷くないw」

左を見ると、歩道のガードレールの向こうに続く植樹。
でもその隙間から漏れ出す光が徐々に強くなってきて、
そしていきなりパッと視界が開けた。

「・・・・わあああ!凄ーい!」

綺麗。
綺麗だ。

青くて広くて、視界の端から端まで広がる水平線が何処までも雄大。

「凄い凄いっ!私こんなに綺麗な海見たの初めて!」
「桐生ちゃん、ハンドルは持っててよw」
「あ、はいっ!」
「えへへー!凄いっしょー!後で皆で遊びに行こーね!」
「うん、行くっ!」
「お天気で良かったですね。」
「ん。海も今日は穏やかだし、遊ぶには持って来いかな。」

立海生にとってはなんてことのない風景だが、東京生まれ東京育ちの可憐にとっては感動ものである。

照り返しを受けて輝く波が。
透き通った海のブルーが。
髪を巻き上げる潮風が。


湘南へようこそ、と言ってくれてる気がした。