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休憩!
の号令が響くと、取り敢えず思うのはいつも同じ事。

「腹減ったー。」

丸井は呟いてガムを膨らました。
現在11時。昼休みが始まるまで後1時間30分。きつい。

「お前はガム噛んでるだろ?」
「美味いけど腹は膨れねえの。弁当食いてえな・・・」

ついつい目が鞄を置いてある部室の方へ行ってしまう。
お菓子も好きだけど、こういう時はお菓子と同じくらい普通のご飯が恋しい。


「カレーか・・・良いなあ。」


その言葉にサッと顔を向けると、其処に居たのは携帯を見ている幸村だった。

カレー。
なんというタイムリー且つ胃袋を直撃する響き。

「何の話だ?」
「いや、今日はほら。昨日ヘリで見た、氷帝の女の子が遊びに来てるらしいんだけど、お昼ご飯がね。」
「カレーというわけか。しかし、この近辺でカレーが美味い所等あったか?」

真田の記憶の限りでは、COCO壱番屋くらいしか思いつかない。
ファミレスに行けばあるけれど、わざわざカレーを食べに?という感じもするし。

「違うんだ。そうじゃなくて、春日が作るんだよ。」
「振舞うのか?」
「そう。言った事無かったかな?俺達、昼を跨いで遊ぶ時は、大抵お昼は春日のご飯だよ。」

聞いたら余計腹が減ると分かっているのに、丸井の耳はしっかり幸村と真田の会話を拾ってしまう。

良いなあ。
美味しそう。
丸井家では兄ちゃんのご飯美味しい、という理由で自分が作る事も多いし、人のカレーを久しく食べていない。

「何の話だ?」
「柳。いや、今日の千百合達のお昼ご飯の話をね。」
「何時も春日の手料理だそうだ。」
「ああ、良いな。ある意味では外食よりも贅沢だ。」
「付け合せは無いんか?」

仁王が口元に笑みを浮かべながら会話に参加する。

「大体カレーならポテトサラダの事が多いかな。スクールでの試合が近かったりすると、タンパク質が大事です!って言って、ゆで卵とベーコンのポテトサラダにしてくれたりもするよ。」
「他には?」
「そうだね・・・今日はカレー、って前以て決まってる時は、ちょっと時間のかかる物を出してくれたりするよ。野菜の焼き浸しとか。」
「ええな。福伸漬は。」
「あるよ。」
「次の日も食い方変えて食えそうじゃ。」
「そうだね。次の日も会う時は、出汁と合わせてカレーうどんにしてくれるし、トッピングとか・・・」

「なあ、そろそろ止めてやってくれないか?」

とうとう待ったをかける桑原。
丸井がジト目でそっちを見やると、仁王は如何にも面白そうな含み笑いをした。

わざとだ。絶対わざとだ。
こっちの腹が減ってる時に、余計腹の減る様な話を広げやがって。

「何を不機嫌になっているのだ?お前は食う事が好きではなかったか?」
「腹が減るんだよ!カレーってだけで胃袋に来てんのに、さっきから付け合せだとかアレンジだとか、美味そうな話ばっかり・・・!」
「もっと聞いてやってもええぜよ。」
「お前な!」
「ふふふ。あ、じゃあカレーそのものの話をしようか?」
「幸村君!?」

クスクス笑う幸村は、意外とこういう冗談や悪戯が好きである。
真田はその事を知っているが、他のメンバーにはまだまだ珍しい光景だ。

「聞きたくない?」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・」
「ならするね。今日みたいな暑い日は、トマト缶を入れてチキンでさっぱりした感じにしてくれることが多いんだけど、偶にルーに辛口のを混ぜて、逆にピリッとした感じにくれる事も「やっぱり止めて貰えねえ?」

「プリッ。」
「面白そうだな、仁王。」
「面白いぜよ。」
「新手の飯テロだな・・・」

食いしん坊の親友にこれはキツかろう。
苦笑する桑原の隣で、真田はカレーか・・・と呟いた。

「どうした?」
「む?いや、大した事ではない。ただ、子供が喜ぶなと思っただけだ。」
「・・・子供。」
「今、家に兄が帰省していてな。甥が泊まっているんだが、食事の時によくあれが嫌いだのこれが食べたいだのと喚く。」
「ああ。」

良くある。
非常に良くある現象であるが、真田の中ではそれは「良くある」の内に入らない事が、その険しい顔から
見て取れた。

「全く、偏食などと・・・たるんどる!」
「まあまあ、幾つだか知らないけど、小さいんだろ?多少の好き嫌いは仕方ねえって。」
「年は今4つだが。」
「その年は逆に叱るの可哀想だろ・・・」

齢4つの幼児に向かって、偏食するなと説教する12才。
なかなかアレな絵面である。

「その年だと、我慢っていう概念も身につききってないし、もうちょっと広い心で見てやったらどうだ?」
「そういうものか?」
「そういうものだと思うぜ?その子にしても、折角のGWで、折角の他所へのお泊りなんだし。」
「・・・・」

そう諭されると、成程一理あるかと思わない、でもない。
実際家で、滅多に会えない祖父に相手をして貰っていたり、近所へ出かけたりしてめいいっぱい遊んで、
楽しそうな姿を見て居るし。

(・・・そういえば、明日にはもう東京へ戻るのだな、彼奴は。)

朝から何処かへ遊びに出て行って。
帰って挨拶だけしたら、そのままその足で帰る。

そういうスケジュールだった事を思い出したら、真田にしては非常に珍しい寂寥感がちら、と顔を覗かせた。