Local 2 - 6/7


湘南の浜の一角。

そこでビードロズと可憐は、幸村の予想通り築城に勤しんでいた。

「いやはや、久しぶりだわw」
「冬は寒くて出来ないしね。」
「ううん!腕が鳴りますなあ!もちょっと高くしちゃおー!」
「貝殻取って来ましたよ。」
「ありがと。」

(す、凄い・・・!)

サクサクと作られて行く砂の城。
城というか、山しか作った事の無い可憐にとって、こんな本格的な城は初めてである。

「あの、私何もしない方が・・・」
「えー!なんでー!?」
「わ、私ドジだから、崩しちゃいそうでっ!」
「そんなの良いよー!崩したら、もっかいやれば良いんだよ!」
「気にしない気にしないw一緒にやりましょうやw」
「見た目程脆く無いです。多少の事は大丈夫ですよ。」
「そ、そう・・・?」

そう言われても、だって砂だぞという念がイマイチ拭えないのだが。

「大体、紀伊梨の方が基本崩しまくるんだから。」
「なぬ!?・・・って、あーー!」
「もう崩しとるw」
「高くし過ぎだって。」
「だってー!可憐たんに高いとこに住んで欲しいんだもーん!」
「え?私?」

唐突に出て来た自分の名前。

「昔から、良くこうやって遊ぶんです。お城の中で、どんな職業で何処に住みたいか、って。」
「わあ・・・!ロールプレイだねっ!楽しそう!」
「ろーるぷれい?」
「ええと、役割演技という意味でして、」

(ロールプレイかあ・・・)

可憐は砂の城に貝を飾りながら思いを馳せる。

(紀伊梨ちゃんは華やかだし、きっとお城中の人の目を引くお姫様だよね!紫希ちゃんはおっとりしてるから、深窓の令嬢って感じのお姫様になりそう。千百合ちゃんはクールでかっこいいから、いつもちょっぴり大人っぽいドレスで生活してたりして、)

ごくごくナチュラルに全員お姫様にする可憐。
同じように棗も王子様にしようとして、熱中するあまり手がお留守になる。

「・・・・・」
「桐生ちゃん?」
「えっ!?あ、え!?ごめん、何!?」
「どうかした?」
「あ、ううん!今ちょっと、皆がお姫様だったり、棗君が王子様だったら、どんな感じなんだろうって考えてたんだけど・・・」
「棗君が王子様ですか。」
「何その、気持ち悪いったらありゃしない響き。」
「酷くない?」
「あ!そーだ、可憐たんに聞きたい事あったんだった!」

砂の城の間から、紀伊梨が顔を出した。

「私?何かなっ!」
「あのねーえ、可憐たんって、好きな人居る?」

ドシュ。
と音がして、スコップが城に突き刺さったのは、可憐だけを責められまい。

「あああ!ご、ごめんなさい!ごめんね、ごめんね、穴が空いちゃった、」
「いや、今のは其処の馬鹿が悪い。」
「えええー!?私そんな悪い事聞いた!?」
「不用意に聞く事じゃねーわw」

女の子がこれだけ集まっているのだから、恋バナの流れになってもおかしくないと言えばおかしくない。
只、デリケートな話題でもあるのだから、もう少し様子を見つつ切り出して欲しい・・・などという要求は、紀伊梨には通らない。

「い、居ないよっ!そんな人居ない居ないっ!」
「本当にー?」
「本当だよっ!居ないもんっ!」

其処まで振らなくても、と言いたくなるほど首を横に振る可憐。

「むー・・・そーなのかー。」
「何よあんたは、いきなり。」
「えー?だって、私好きな人とか居ないんだもーん!だから可憐たんがもし居るんなら、どんな感じか教えてもらおーと思ったの!」

千百合に聞いたってにべもない反応しか帰って来ないであろう事は、紀伊梨もよーく知っている。
紫希に今好きな人が居ない事も知っているし、だから可憐にと思ったのだ。

「おっしーは駄目なのw」
「おっ・・・・!?違うよ違うよ!確かに忍足君は仲良しだけど、あくまで友達だし!それに、忍足君は茉奈花ちゃんが好きなんだから!」
「あ、そなの?」
「そっちか。」
「今日も、映画に行ってらっしゃるんでしたっけ?」
「うん!忍足君はデートじゃないって言ってたけど・・・でも絶対デートだよっ!」
「まあそうでしょうなw」

小学生とかなら兎も角2人とももう中学生で、しかも2人きりで、昔からの友達とかそういうわけでもない。
誰が聞いても、まあデートであろう。

「ねえねえ、じゃあべ様はー?」
「跡部君は違うよ・・・」
「何、急に大人しくなってw」
「だって、跡部君って何かこう、そういう噂をする事自体いけない気がしちゃうんだよねっ!規格外過ぎてっていうか、雲の上の人過ぎてっていうか・・・」
「確かに、跡部君とお付き合いするとなると、色々想像が出来ませんね・・・」
「馬鹿みたいに金かけるんだろうなって事は分かるけどね。」

もしあの人と付き合う事になったら・・・という想像は、その気のあるなしに関わらずある程度は出来るものだが、跡部に関しては想像力が全く働かない。

「デートの時は、リムジン出しそうだよねっ!」
「ジェット機飛ばして海外行くんじゃないすかw」
「テーマパーク貸切とかもしそう。」
「跡部君って、もしご結婚なんかの話になったら、どういう所で式を挙げるんでしょうか?」
「「「宮殿?」」」
「あ、あはは・・・」

言われたい放題である。
が、実際合宿も修学旅行も跡部の力で海外になる身としては、言い過ぎだよとはとても言えない。

「がっくんとかジロちゃんとか亮ちんは?」
「その3人もそんなんじゃないよ!3人共とっても親切だし、お友達だけど・・・好きとかそういうのじゃないなあ。」
「向日と宍戸は置いといて、芥川と可憐が付き合うのは私怖いわ。」
「こないだみたいな事が頻発するわけですなw」
「あう・・・!」
「か、彼女になったら流石に、芥川君ももう少し落ち着くのでは・・・」

残念ながらその推測は外れだ。
彼女が相手となると、芥川はいつもよりはっきりと起きてテンション高く行動するから、余計に暴走するだろう。

「と、とにかく!私、今別に好きな人とか居ないから!」
「そっかー。可憐たんの恋バナは当分お預けですな!」
「・・・逆に、紀伊梨ちゃんは今好きな人居ないんだね?」

可憐的には、少し意外だった。

紀伊梨は、可憐が今迄の人生で出会ってきた女の子の中で、飛びぬけて可愛らしい見た目である。網代もモテるし、紫希や千百合の事も可愛いと思うが、紀伊梨はなんというか別格だ。
だからそれこそ彼氏がどうのと言う話になれば、紀伊梨は引く手数多だろうと思っている。
だが紀伊梨は、彼氏どころか好きな人が居ないと来た。

「此奴、初恋もまだだからね。」
「そうなの!?」
「うん!友達は男子でもいっぱい居るけど、なんか、好き?って言われるとピンと来ないんだよねー。」
「恋愛とか、興味ないってわけじゃないんだよねっ?」
「きょーみはあるよー!千百合っち達とか見てると、カレカノって良いなー!って思うし!でも、じゃあ誰?ってなると全然なんですよーこれが!」

興味はあるが、興味しかない。
恋愛は2人居ないと出来ないのに、じゃあ自分と、後もう1人誰を選ぶという話になると、急にそこで話がストップしてしまう。

「小学校の頃、クラスで一緒になった人とかは?」
「居ないなー。」
「じゃあ、今クラス一緒の人とか・・・後、テニス部にお友達いっぱい居るよねっ?」
「んー・・・だってさ、だってさ、好きってドキドキするんでしょー?私皆と居るとたのしーけど、ドキドキとかした事ないもん!」

強いて言うなら、柳生にいきなり登場された時は驚いて心臓が跳ねたが、あれは違う。
流石にいかな紀伊梨でもそれは分かる。それじゃない。

「そうなんだ・・・」
「そー!千百合っちは教えてくんないしー!」
「あのね、恋ってどんな感じとか聞かれても、こんな感じって返せないわよ。」
「まあ口で言うの難しいよねw」
「でも紀伊梨ちゃんは何時も自分に正直ですから、もし恋をしたら、ご自分で直ぐに分かると思いますよ?ああ、これが恋なんだな・・・って。」
「・・・そーお?」
「ええ。」

紫希の言った事は全員の総意でもある。
紀伊梨は自分の感覚に常に素直だ。いつも感情に従って行動しているから、自分を誤魔化したり嘘を吐いたり、悪い意味で考え過ぎたりしない。

だから大丈夫。
その人が紀伊梨の前に表れさえすれば、紀伊梨はきっとその人を見逃したりしない。

「ま、焦らない焦らないw」
「そっかー。」
「ねえ、紫希ちゃんは?」
「はい?」
「誰か好きな人居ないのっ?こないだ、ヘリから降りる時手伝ってくれてた人とか?」

ヘリから降りる時手伝ってくれてた人。
丸井の事であるが。

「あ!それ、私も聞きたかった!」
「私も。」
「俺もw」
「ええええ!?千百合ちゃん迄・・・なんなんですか、皆して・・・」

紀伊梨と棗は置いておくとして、千百合まで乗っかるのは珍しい。
皆から一斉に視線を向けられて、紫希はもうしどろもどろだ。

「だって、紫希ぴょんブンブンの事大好きっしょ?」
「大好きですけど、そういう意味合いでは・・・」
「ないの?マジでw」
「・・・・・・・」

段々と微妙な顔になっていく紫希。

恥かしいという照れでも、もしかしてという自問自答でも、止めて欲しいという嫌悪感でも無い顔。

「・・・考えてみた事ないの?」
「ありません。し、なんと言いますか、こう・・・」
「こう?」
「・・・今考えてみようとしましたけれど、あんまり考えたくないです。丸井君が好きかどうかとか。」
「えー!?なんでー!?」

「丸井君と居るのに、この人を好きなんだろうかとか、延々考えながら過ごしたくありません。そんな勿体無い事出来ないです。丸井君と居るなら、丸井君に集中したいです。」

先日の散歩の時も思ったが、とかく丸井は紫希を振り回す。
そんな丸井と過ごす時、何か他の事をぐちゃぐちゃ考えたりなど出来ない。その悩みごとブン回されて、ポカンとしてる間に笑わせられたり泣かされたり、そういうオチになるのが目に見えている。
実際、今迄そんな事の連続だ。

だから丸井の事をちゃんと見ながら振り回されるには、自分自身が丸井にのみ集中していなければならない。
これが紫希の結論付けた、丸井との付き合い方だった。

「勿論、こういう場で考えてみろと言われたら出来ない事はありませんけれど・・・本人の目の前で考えない恋愛の結論は、結論では無いと思いますし。」
「生真面目かよwもうちょっと世間話の一環として軽く考えても良いのにw」
「そんなわけにはいきません!いつもお世話になっているんですから、軽々しく好きかも嫌いかもなんて、そんな扱いは。」
「・・・・・・」
「千百合ちゃんっ?」
「どったの、千百合っちー?」

恋愛に関する結論は、本人の目の前でしか出せない。

その考え方は、千百合と幸村を見て紫希が考えた答えなのであろう事は、紫希がそういう答えを出すのは、千百合と幸村をずっと見ていたからである。
それを千百合は知っているので、ちょっと恥ずかしいのだ。

「そういえば、棗君は?好きな人とか居ないのっ?」
「募集中でーすw」
「こんな奴好きとか言う奴が居たら、問答無用で病院に連れて行くけどね。」
「もうちょっと兄に優しくしてくれても良くない?」
「なっちんはいい男なのにねー!」
「でもお前も俺にときめいたりはしないでしょ?」
「うーん・・・確かにそう言われるとときめいたりは一切しない、っていうしかありませんなー。」
「涙で前が見えねえ・・・!」

フォローが追い打ちになる時もある。
棗はその事を今改めて思い知った。

「・・・・・・・」
「何紫希、黙っちゃって。」
「あ、いえ・・・」

ちら、と棗を伺うと、棗は紫希の視線に気づいて、泣き真似を止めて優しく微笑んだ。

「良いよ言ってもw」
「何をー?」
「・・・棗君、実は結構告白されてたんです。小学校の時。」
「「えええええ!?」」

可憐より、紀伊梨と千百合の方が吃驚する。

「そ、そんなにおかしな事かなっ?」
「おかしいってゆーか、聞いてないよ!なっちん!」
「言ってないもんw」
「逆に紫希はなんで知ってんの?」
「偶々、居合わせてしまった事があるんです。道を塞がれてしまってたので、立ち去るに立ち去れなくて・・・」

事故とはいえ、良く覚えている。
好きです、と言う知らない女生徒の姿。
ごめん、と断る棗の声音。

「彼女は、作らなかったの?」
「作った事無いねー。そんな失礼ぶっこくような真似出来ないから。」
「失礼って何がよ。」

「だって俺、お前達や幸村より大事にしたいと思うような女の子居ないもん。」

もし、紫希も紀伊梨も幸村も居なかったら。
そしたら或いは、誰かとお付き合いしてみる事もあったかもしれない。
でも、例えそれが友情に端を発しているものでも、今の棗にとって誰より大事なのは、他の4人なのだ。そんな状態で女の子とお付き合いしても、多分その子の思うような甘やかし方はしてやれない。

だから棗は断り続けてきた。

「ある意味では紀伊梨と一緒かなw」
「ご自分から近づきたいと思う女の子が居なかった、という事ですものね。」
「それはそれで寂しいけど、まあ我々、これからが思春期だからw気楽に見つけるって・・・と。」

棗が最後の貝を貼り付けた。


「完成だーーー!」


湘南の浜に、5人で作った砂の城。

「わああああ・・・!」
「どすか?どすか?可憐たん!」
「凄い凄い!皆でやると、こんなお城が作れるんだねっ!」
「ま、なかなかかな。」
「なかなかじゃないよ!凄いよ!」

大きさもそこそこだが、矢張り手のかけ具合が違うと可憐は思う。
如何にも城らしくて、こんな所本当にあるなら住んでみたい。
お姫様が住んで居るんだよと言われたら思わず納得してしまいそうで、ロールプレイしたくなる気持ちも分かるというものだ。

(・・・お姫様か。)

いつか自分にも来るのだろうか。
その人に会う日が。



自分だけの王子様に出会う日が。