「良い映画だったわね。」
シネマ内のカフェの一角。
其処で網代がカフェオレを前にして言った。
ヤマトナデシコさん北への上映が終わり、ちょっとお茶でもしながら感想トークでもしようかという事で入った此処は、おやつの時間でそこそこの人の入りだ。
「せやな。当たりやったわ。」
「ね。なんだか、期待してたもの全部見せて貰った、って感じ。」
「ハッピーエンドやったしな。」
やっぱり其処が重要なのか。
網代は忍足の拘りを1つ見つけて、クスッと笑った。
「何笑てんのん?」
「ううん!ね、1番好きなシーンって何処だった?」
「好きなシーンなあ・・・」
映画を一本見ると、印象深いシーンというのは何箇所か出て来る。
その中でも好きな所と言うと。
「・・・やっぱり、」
「あ、待って!」
「ん?」
「やっぱり待って!当てさせて、ね?」
ねだる網代の瞳に、自信のようなものが見て取れる。それが可愛らしくて、忍足は微笑んだ。
「ええよ。当てれたら、来週のミーティングの資料手伝うわ。」
「あ、やった♪嘘は無しよ?」
「勿論。」
うーん・・・と言いながら、それでも楽しそうに考えを巡らせる網代。
(・・・なんて言うてくるやろか。)
こういう時、大凡回答としては3つ考えられる。
パターン1。如何にも皆が気に入りそうなメジャーなシーン。
パターン2。忍足が気に入ったであろうと推測するシーン。
若しくは。
「んー・・・うん!決めた!」
「もうええん?」
「うん!あのね、ズバリ!」
「「撫子が再会した大和君の腕に飛び込むシーン」!って、あれ?」
驚く網代の目の前で、忍足は頬杖をついて綺麗に笑っている。
「言うと思たわ。」
「え~~~?なーに、当てられちゃったのは私、ってわけ?」
「そういう事になるな。」
「・・・どうして分かったの?」
「ん?茉奈花ちゃんが好きそうなシーンやな、て思たから。」
選択肢のパターン3。
それは回答者自身の好みのシーンである。
網代なら3かな、と思ったらどんぴしゃりだ。
「なんだ、其処から読まれちゃってた、ってわけね?」
「茉奈花ちゃん、結構自己主張しよるからなあ。」
「あ!そ~やって人聞きの悪い事言うんだから!」
「ほんまの事やん?エクレア好きやって教えて貰た時もそうやったし。」
「もう・・・でも。私が自分の好きなシーンを出す所までは分かったとしまして。どうして其処がそうなんだって分かったの?」
「俺も好きなシーンやから。」
奥床しい性格の撫子は、思いを寄せる大和に対してあまり積極的にアプローチが出来ない。
しかしだからと言って撫子の思いが軽いものというわけではなく、表に出さないだけで撫子は何時も大和を強く思っている。
突然始まった、大和が学校に来ない日々。
その真偽を確かめるべく北の大地へ旅立ち、ドタバタを経てやっと再会する。
そしてその時初めて撫子は、思いを自分で抑えきれずに遮二無二抱きついてしまう。
忍足はあのシーンを一目見て気に入った。
「・・・それじゃあ。」
「勝負は茉奈花ちゃんの勝ちやな。」
勝利条件は、忍足の好きなシーンを答える事。
網代は言い当てた。
「な~んか、負けた気がするのは気の所為?」
「気の所為やろ。」
「なら、来週は甘えちゃおっかな♪折角だし、ね。」
「おん。でもそれはそれとして、甘えるのはいつでも甘えてくれてええで。」
「それ、どういう意味かしら?」
「どういう意味でも。」
この、どうとでも取れる物言い。
深読みしようと思ったら幾らでも出来る言い回し。
崩れない忍足の微笑みが、余計にそれを煽ってくる。
でも、こういうのは網代も嫌いじゃない。
嫌いじゃないし、それに悪くない。
「・・・そーお?」
「おん。」
「そ。なら、思いっきり私の都合の良いように解釈しちゃおう、かな。」
「食べ過ぎはあかんで。」
「奢らせたいわけじゃ、ありません!」
この思わせぶりな態度こそが、忍足の考えるアプローチのやり方。
それが分かるから、悪くない。
うん。
悪くない。