Local 3 - 6/7



18:30分。片付けが完全に終わり、ぞろぞろと部員が部の敷地から退出し出す。

「なあなあ、コンビニ寄ってこうぜ、コンビニ!」
「奢らないからな!」
「まあまあジャッカル君♪そー固い事言わないで・・・お。おーす!」
「よ。」
「ブンブン、桑ちゃん!お疲れちゃーん!」

出口の所で、幸村待ちの紀伊梨と千百合。
日中散々遊んだのに、今になってもピョンピョン跳ねてぶんぶん手を振る元気は、流石紀伊梨。

「あれ?お前らだけ?後3人は?」
「可憐が、門限があるからって。」
「そーそー!でももう暗いし危ないからって、紫希ぴょんとなっちんが送りに行ったの!」
「ふーん。」

然程の距離でないとは言え、わざわざその為に東京迄行ってデンして帰るような真似をするとは、マメな奴ら。

そう思う丸井は、自分達部員とマネージャーの関係について棗がわざわざ時間を取る為に動いてるのを知らない。

「そうか・・・春日に礼を言いたかったんだが。」

桑原は小さく嘆息した。

「おれー?何のー?」
「東京バナナだよ。昨日も一応言ったけどさ。」
「あー!あれ美味しかったよねー!あっという間になくなっちゃったよー!」
「お!俺んとこもだろい。」
「無くなるの早くない?」

昨日の夕方貰った物なのに、今日の朝には無くなっているとはどういう了見か。折角だから、とそこそこ大きいサイズを買っていた筈なのに。

「しょーがねーだろい?兄弟居ると、あの手のお菓子は直ぐ無くなるんだよ。」
「あ!ブンブンとこも兄弟居るのー?」
「おう。下に2人な。」
「3人だー!私も一緒ー!やっぱりお土産の会社は3人兄弟の為に、も少しおっきいサイズを用意するべきだよね!」
「普通はアレで十分よ。」
「えー!?なんかその言い方だと、私達が普通じゃないみたいじゃなーい!?」
「「普通じゃない」」

千百合と桑原が声を揃えて言うのとほぼ同時に、待っていた声が聞こえてきた。

「千百合、五十嵐。ごめんね待たせて。」

にこにこ穏やかに手を上げる幸村は、ついさっきまでコートで駆けずり回っていたとは思えない表情の涼しさである。
後ろの真田や柳も大概だが。

「ん。」
「お疲れ様ゆっきー!」
「うん。あれ?春日と棗は?」
「可憐たんの事送って行ったよ!」
「送って・・・?」

それなら棗だけで良いんじゃないか?
そう思う幸村は、流石に鋭いと言うべきかなんと言うべきか。

「・・・そうか、分かったよ。」
「可憐というのは、今日一緒に居た氷帝生の事か?」
「うん!」
「それ元気良く答えて良い所か・・・?」

柳の質問にハキハキ答える紀伊梨だが、要は偵察者を連れてきてましたと堂々と言ってるようなもので。
それ本当はいけない事なんだよ分かってる・・・?と危惧する桑原だが、それを察せられる程紀伊梨のIQは高くない。

「このたわけが!」
「えー!?何が!?何で怒られるのー!?っていうか、たわけって何?」
「馬鹿という意味だ!敵に塩を送るような真似をして、一体どういうつもりだ!」
「まあまあ弦一郎。俺が良いって言ったんだよ。」
「幸村!?」
「幸村君・・・」

通常、人というのは付き合いが長くなるに連れ段々その人の人となりが分かっていくものだが、この幸村精市という男は共に過ごせば過ごす程分からなくなる。
何考えているんだろう。
表情1つ動かさないのは柳くらいのものである。

「許可したのか。」
「うん。別に構わないかと思って。」
「構わないだと!?」
「だって、そうでなくても偵察は山程居るじゃないか。カメラの回る音を聞きながらの練習も、もう慣れちゃったよ。」
「それはそうだが、彼奴らと氷帝学園を一緒にする事等出来ん!都大会優勝の常連になりつつある学校なのだぞ!」
「そうだね。柳の分析結果から見ても、今年は確実だ。」
「なら、」

「でもそんな事は俺達の勝利を揺るがす程の事じゃない。そうは思わないかい?」

相手に対策を取られる事に怯えて、情報をひた隠しにして。そんなせせこましい戦い方、立海に相応しくない。

見るなら見ろ。
来るなら来い。
対策を講じられるものなら、やってみるが良い。
こんな程度の事でいちいち気を張っていて、何が常勝か。


自分達は、王者になる者達。
相手が力を付けたのなら、その2倍、3倍の力で勝てば良い。


それだけの話だ。

(・・・精市?)

何か何時もの幸村と比べて僅かに、ほんの僅かに生じているような気がする差異に、千百合は引っかかりのような物を覚えた。

「おおー!ゆっきー強気ー!」
「そうかな?まあそれに、単純に桐生さんが今日持って帰る情報量より、柳が日々蓄積してるデータの方が多いから。そんなに目くじら立てなくたって、情報面でも優位は揺るがないさ。」
「違えねえだろい。」
「それはそうかも知れんが・・・」

そういう意味でも、あまり躍起になって怒る方がせせこましいと思うのだ、幸村としては。

「なんじゃ、お前さんらまだ居ったんか。」
「あー!ニオニオお疲れー!」

お疲れというか、丸井が部室を後にしてから30分は経っているのだが、幸村達はおろか丸井と桑原さえまだ学校から出ていないとは。

「そうだ五十嵐、ほぼ全員揃ってしまったから聞きたいんだけど。」
「およ?」
「明日、皆で何かしたいって言ってたよね?どうするんだい?」
「あー!」

明日は校舎の構内整備の為、立海勢が追い出される日である。
15時前後には終わるから皆で何かやろーよ!と、グループLINEと個人LINE両方使って抜かりなく全員に告知しておいてるクセして、何するの?と聞き返したら「思いついたら言う!」ときた。
しかもその後とーんと音沙汰が無く、今晩連絡が無ければ、いい加減聞かないといけないと思っていた所だ。

「言い出しておいてまだ決まっとらんのか!」
「決まったよー!でも言うの忘れてましたっ!」
「威張るな。」
「あだ!」

千百合が紀伊梨の頭をはたいた。

「おい、止めてやれよ黒崎。」
「ブンブン!」
「これ以上馬鹿に磨きがかかったらどうすんだ。」
「ブンブン!?」
「それもそうね。」
「千百合っちまでー!もー、忘れてたのは謝るから許してよう!」

言いながら紀伊梨はゴソゴソ鞄を探した。

「あ!あったあった、ねー皆でこれ行かない?」
「・・・・・・!」

紀伊梨の手にしたポスターには、青空をバックに色とりどりの花がちりばめられた写真。
真ん中にはでかでかと、『横浜ガーデンフェスティバル』とピンクで印字されている。

「ほう。それは確か、都市の緑化を促進する為に企画されていたものだな。」
「としのりょくかをそくしん・・・・?」
「柳、もう少しばかり分かりやすく言ってやらんと通じんぜよ。」
「たるんどる!この程度の会話が出来なくて、どうやって授業についていくのだ!」

(そもそも授業について行ってる前提で話してんのが笑えるよなー)

普段からして授業について行く気0の紀伊梨を思い出しながら、ガーデンフェスティバルとはなんぞや?という事も同時進行で考え出す丸井。
各々考えを巡らせる中で1人、それこそ花が咲いたような顔でポスターを手に取って居るのは幸村である。

「嬉しそうね。」
「うん、凄く嬉しい。楽しそうだよ。」
「でっしょー?ゆっきーお花大好きだから、絶対喜ぶと思ったんだよね!」
「そうなんか?」
「うん。お花って、綺麗だろう?」

綺麗だけど、中1男子で花が大好きって流石になかなか居ないと思う。
しかし幸村が「ガーデニングが趣味です」とか言うと、不思議と納得出来てしまう不思議。

「お花もいっぱい咲いてるけどー、屋台とかもいーっぱい出るんだよ!イベントもあるし、アイドルとかも来るし!花火は無いけどー。」
「夏祭りじゃないんだから。」
「場所は横浜の・・・臨海公園か。」
「良いんじゃね?楽しそうだし。」
「やったー!」
「涼しそうじゃしな。」
「あんたの判断基準其処?」
「ふふふ。仁王が来るなら、全員参加かな。」

(臨海公園・・・横浜ガーデンフェスティバル、か・・・)

何か、此処じゃない何処かでつい最近、この単語を見聞きした覚えがあるのだが。
「自分も行く」と返事をしながら何処で聞いたんだっけ、と真田は記憶の引き出しを開け閉めするのだった。