Local 3 - 7/7


「それで、棗君。」
「んー?」
「お話があるのではないですか?」
「バレてましたかw」

可憐を送って別れた帰り道。
紫希と棗は2人で湘南へ向かう電車に再び揺られていた。

可憐を送って行くとなったら、復路の事を考えると男子の棗に白羽の矢が立つのは残当である。
しかし棗は何時もなら自分一人で良いとへらへら笑って言うのに、今日に限って紫希にも一緒に来てくれと頼んだのだ。

「やー・・・何から言おうかな。」
「何からでも。棗君のお話しやすいように。」

そういう紫希に棗は苦笑しか出ない。

「取り敢えず俺はお前のそういう所が一番心配なんだよw」
「どういう意味ですか・・・」
「今から言う前提はifって事で流してくれても良いけどね?千百合はまあ置いといてさ、お前も紀伊梨も、誰かを好きになるのなら結局男子テニス部の誰かなんじゃないかって俺は踏んでるんだよw」
「どうして其処まで限定的に考えるんです。」
「勘?」
「・・・・・」

その返答は、つらつらと根拠を並べ立てられるより恐ろしく聞こえる。
棗の勘は得てして良く当たる事は、幼馴染なら皆知っている事だ。

「でさあ、俺紀伊梨に関してはあんまり心配してないんだよ。彼奴正直な性格だし。」
「寧ろ紀伊梨ちゃんを心配すべきではないかと、私は思いますけれど。紀伊梨ちゃんは確かに明るいですし素直な子ですけれど、恋はまだした事が無いんですから、思っている事を上手く伝えられない事だって・・・」
「そうだとしても彼奴は堪え性が無いわ。思いを胸に秘めて・・・っていうのを長く続けていられるようなタイプじゃないし。」
「ううん・・・」
「でもお前は違うじゃん?その気になればずっと黙ったままで居られるでしょ?変な気回して、相手に譲ってばっかりじゃ、他の事は兎も角恋愛は駄目だわ。何もすっきりしないよ。」

何故そうまで言い切れるのか、というとやっぱり千百合と幸村の存在が大きい。
あの2人を見て育っているから、恋心と言うのは本気であればあるほど、隠しきれるものではないのだという考えが深まる。

そして隠しきれるものではないのに本人が隠そう隠そうと頑張る物だから、中途半端に周りにバレて面倒くさい事態になる。
友人としてそんな展開はなるべく避けて欲しい。誰も得しやしない。

「棗君は勘違いしてらっしゃいますよ。」
「何が?」
「棗君、私の事を我儘を通さない性格だと思っていませんか?大きな間違いです。私は我儘ですよ。」
「どこがよw」
「本当ですよ!私、人に譲ってるように見えるかもしれませんけれど、それは私がそうするって決めたからそうしてるだけなんですよ。千百合ちゃんにも、「私達の喜ぶ事ばっかり考えてないで」って言われますけれど、私は皆が笑うのが好きだからそうしてるんです。私はエゴイストです、自分のやりたいようにしかやってないんですよ。」
「ええええええ・・・」

エゴイスト。
自己中心的な人、の意。
じゃあ仮に自己中心的に希望を考えた結果他人を中心に据えるという結論が出た時、その人はエゴイストと言えるのだろうか?

「いかん、パラドックスってきたw哲学止めてw」
「矛盾はしてません、私は我儘なんです。ですから、もし棗君が仰るように好きな人がいつか出来て、その人が人気者でモテていて私が諦めたとしても、それは私がそうすると決めたんです。ですから、大丈夫です。心配しないで下さい。」
「むちゃくちゃ言いよるw」
「それよりも、紀伊梨ちゃんと・・・それから千百合ちゃんの事を考えましょうよ。」
「・・・千百合?」
「千百合ちゃんの事も、お話したかったんでしょう?」

違いましたか、と尋ねてくる紫希はやはり人を良く見ている。
そうだ、その通り。

「・・・ごめんなー。マジで悪いとは思ってるんだよ。ならすんなよって感じだけどさ。」
「何を仰るんです。どんな事でも喜んでお手伝いいたしますよ。

私、千百合ちゃんのクラスメイトですもの。」

今年、1年。
その間に、何がどれだけ自分達を変えるのかなんて、推し測れる人間は居ない。

これまでと比べて飛躍的に多く濃く、玉石混合になっていく数多の人間関係の中で、あの幸村に惚れぬいている妹は。
あの素直じゃなくてぶっきらぼうな妹は、何処まで傷つかずにあの姿勢を貫いていられるだろうかと思うと心配になってしまう。
幾ら兄弟で双子と言えど、同じクラスじゃないし見てるのにも限界があるから、だから。

「それに、千百合ちゃんはなかなか悩んでる事をお話してくれませんから。当てにして頂けるのなら嬉しいですし、喜んで相談に乗りますよ。」
「ありがと、頼むわw」
「いいえ。」

いいえ、と言って優しく微笑んでくれる紫希。
それから今頃湘南で、元気いっぱい騒いでるのであろう紀伊梨。
この2人に対して千百合が如何程信頼を寄せているか、本人達は知らない。

どうかこのまま。
皆で笑って居られますように、なんて。

「恥っずw」
「はい?何がです?」
「いや、こっちのお話w」