「マジかよ!?」
向日の声がコートの片隅で響いた。
(ん?)
忍足が目を遣ると、可憐と向日が何やらテンション上げて騒いでいる。
あの2人は本当に仲が良い。向日も小柄な方だし、並んできゃっきゃしていると妹と弟のやりとりを見ているような気持ちになる。
「何や楽しそうやな。」
「あっ!侑士聞けよ!此奴大手柄だぜ!」
「えっへん!」
珍しく胸を張って偉そぶるフリをする可憐。
「どないしたん?」
「実はねっ!私昨日湘南に行ったでしょ?その時に、立海に見学に行ってデータを取ってきたんだっ!」
「ホンマ?」
何気なく聞く忍足だが、内心では結構ガッツリ驚いている。
立海と言えば常勝を掲げる関東の王者。その事は忍足や向日もちゃんと知っている。
その見学に行けたというのは、確かに手柄だ。
「よう入れたな。」
「何か、他にも他校の奴らいっぱい来てるらしいぜ?」
「うんっ!それに、紀伊梨ちゃんが制服貸してくれたのっ!グリーンのスカート、可愛かったなあ・・・」
グリーンのスカート。
それは確かに、雰囲気がガラッと変わるかもしれない。氷帝の制服は基本色がベージュだから。
(・・・ええな。)
頭の中にシュヴァルツバルトのスカートを翻す可憐を浮かべていても、そんな事顔にはおくびにも出さない男。
その名は忍足侑士。
「結局時間の都合で1時間位しか居られなかったんだけど。門限さえなければ、もっともっと色々良く見たかったなっ。」
「お前良く頑張るなー。」
「ううんっ!マネージャーとして、やりたかったからやっただけだよっ!」
ごく自然にそう言う可憐に、忍足と向日は顔を見合わせて笑う。
可憐は本当にこの部が大好きなのだ。
「ほんなら俺、跡部に言うとくわ。今日のミーティングに可憐ちゃんも参加してもろて、その時に・・・」
「あっ!大丈夫だよ、もう言ってあるからっ!」
「おお!用意良いな!」
「えへへ・・・やっぱりこういう事は、跡部君に誰より先にお話しないとだよねっ!」
別にルールでそう決まっているわけではないが、報・連・相の優先順位としてはこの部では跡部の上に立つ者など
居ない。他の誰がなんと言おうと、跡部が決めた事は覆らないのだから。
「・・・そうやな。」
「うんっ!だから忍足君も、今日のミーティングはよろしくねっ!」
「おん。」
「可憐ーーー!ごめんこれちょっと教えてーーー!」
「あっ!はーーい!今行きまーす!じゃあね2人ともっ!」
「おう!」
「転ばんときや。」
「う・・・はーい!」
ちょっとスピード控えめに、ぽてぽて駆けて行く可憐。
それでもなんとなく、辿りつくまで目で追ってしまうのは忍足も向日も一緒。
「ハラハラするなあ。」
「まーな。」
「知り合って一月になるけど、未だに目離されへんわ。」
「・・・・・・・あて。」
「?」
向日は手に持っていたラケットで、自らの側頭部を小突いた。
「何やっとん。自分の頭どついて。」
「何でもねーよ。」
危ない所だった。
跡部から、思う所が何かあっても言うんじゃないと言われているのだから。
でも結構難しいかも、なんて思いながら向日は練習メニューに再び加わるのだった。