Daily conduct 1 - 5/5


氷帝テニス部は休日練習の際昼休み直後にミーティングを行う。
メンバーは部長の跡部、マネージャーリーダーの網代、それから副部長は居ないけどなんとなく皆との橋渡し役みたいになってしまってる忍足の3人。

今日は此処に、可憐が加わる。

「・・・よし、何時もの連絡事項は大体以上だ。本日のメインイベントに移るぞ。」
「はいっ!ええと、4人分コピーしてあるか、ら、とと!」
「はいな。」
「有難う!」

取り落としそうになる可憐。もう毎度の事。

「ええと、昨日なんだけど私は湘南に遊びに行ってきましたっ!で、その時に立海に入れたので1時間見学して、メモしてきたんだけど・・・」

可憐の説明を聞きつつ、資料に目を通す3人。

(・・・成程、ね。)
(こんなんなんやな向こうは)
(・・・ふむ。)

「一個一個行くねっ!先ず、立海の部員としては、大体こっちの半分以下って感じかな。それでも他校よりは多いと思うけど、やっぱりうちは他所と比べて人数が多いんだなって思います。」
「人数多いのは選手層の厚みにもなるさかい、一概に悪い事とは言われへんけど・・・」
「人数が多いと一人一人の練習の密度が薄くなりがちね。」
「ああ。こればっかりは正攻法で責めても限界がある。効率を上げるなら腰を据えて考えねえとな。」

設備がどう、とかいう話ではない。
人間というのは集団になるにつれて動きが鈍っていくもので、どんなに気を付けていても小回りという点では限界があるのだ。
テニス部に於いてそれは、例えばメニューを回す速さだったり。
コートに立っている時間の長さだったり。

「それから、設備だねっ!見た所、変わったものは屋外にはなかったかな。でも、屋内練習設備はあるって言ってたから、雨天でも練習を欠かしてないって事になります。」
「屋内は見てねえんだな?」
「うん・・・」
「別に責めてるわけやあらへんよ。見られへんくて当たり前や、他校生なんやから。」

立海生に扮していたらしいから、或いは見る事も可能だったかもしれないが忍足は黙っておくことにした。

「・・・でも本当に、スタンダードな設備しかないみたい。」
「ああ。屋内もおそらく似たようなもんだろう、とは思うがな。」

跡部は考えを巡らせる。
屋内練習場はあるが、設備面では此方のが有利。
回転率という意味であちらが有利。

その上で、立海が脅威として立ち塞がる場合、つまり立海の強みというのは。

「それからスケジュールだけど、朝練は毎朝6時から。午後は18時まででこの辺はうちとあんまり変わらないけど、その代わり・・・」
「その代わり?」
「・・・あっちは、日曜日でも毎週休みとはなりません。第一、第三日曜日がお休み、かな。」
「休みが月に2回だけかいな・・・」

氷帝は日曜日は毎週原則休みである。つまり月に4回休みがあるから、立海はそれの約半分。
2回は少なすぎるとしても、4回でも大して変わらなくね?と思うのは大きな間違い。
毎週休みがあると思うのとそうでないのとは大きな違いである。

更に更に。

「・・・実はね忍足君、月2回じゃないんだ・・・」
「ん?」
「どういう事可憐ちゃん?」
「・・・毎月第一、第三日曜日が休み。そういう事だろ、桐生。」
「・・・・ああ!分かった、そういう事、ね?」
「本気かいな。」

可憐は、月に2回休みとは言っていない。
第一、第三日曜日が休み、と言ったのだ。

それはつまり、第一、第三日曜日に大会などが入って休みが潰れても、振替などないという事である。
実質月に1回になる月があってもおかしくないわけだ。

「あ!で、でも流石に祝日はお休みらしいよっ!学校が閉まっちゃうからって・・・」
「当たり前やん・・・」
「ブラック部活ね・・・」
「その通りやわ・・・跡部?どないしたん?」

「・・・・・・」

ブラック部活。
確かに、世間的にはそう言って差し支えあるまい。
下校時間こそ常識の範囲内だが、祝日を除いた休みが月に2回以下。
しかも今回のGWで分かる通り、大型連休になると祝日だろうが問答無用で練習が入るのは予想がつく。
夏休みなどになると流石にもう少し休みは増えるだろうが、それを差し引いたとしてもだ。

という事はやはり。

「跡部君?」
「・・・いや、後で話す。続けろ。」
「そ、そう?ええとじゃあ次に・・・私が、立海を見てみて、一番怖いなと思った所を、話します。」

この場合怖いと言うのは、勿論迫力とかそういう話ではない。
氷帝にとって脅威となるポイント、侮れないと感じた点の事だ。

「先ず、すんごくレベルが高くて指導上手な部員が・・・・」
「・・・部員が?」
「・・・3人、居ます。1人なら兎も角3人居るから、他の部員は何時でもコーチに見て貰ってて、指導を受けられるのと変わらない状態で練習してます。」
「チッ。」

嫌な材料が増えた。
跡部は思わず舌打ちしてしまう。

「・・・すごくって、具体的にどれくらいかしら?」
「本当に凄いよ。私見てたけど、その3人の内の誰かに指導を受ける前と後じゃ、動きが全然違うもん。」
「見て分かるレベルか。」
「そら凄いな。」

そういう人間の存在は、組織全体のレベルの底上げに直結する。
1人でも居ればそれなりに効果は上がるが、それが高いレベルで3人居て、おまけに部員数は此方より少ないから対応し易い。

「・・・これは、真似出来へんなあ。」
「あれ・・・そうかなっ?外部からコーチを呼ぶとか、と思ったんだけど・・・・」
「駄目だ。向こうは3人共部員なんだから、基本的に一枚岩で且つ何時も部員と一緒に過ごしてる。指導の食い違いも少ないだろう。外部から呼んでも、同じ働きは出来ない。」
「でも・・・かといって実際、うちにもこれは出来ない、ね。」
「おい、何だその眼は。」
「なんでもありませーん?」

氷帝テニス部の組織形態は、ご存じ縦社会である。
勝てば官軍負ければ賊軍、敗者に用などない!を地で行く。
これは勿論、競争意識を高めてプレッシャーを以て練習に打ち込めるという意味では非常に効果的だ。

だが反面、お互いに手を貸しづらくなるという副作用も発生する。当たり前だ、人の面倒なんて見てたら自分が引き摺り下ろされかねないのだから。

「言っておくが、俺様は今のやり方を変える気はねえぞ。」
「分かってるわ。」
「心配しなくても、誰もそんな事言いません。ねえ、可憐ちゃん?」
「うん。」

下の人間の底上げ、という概念が跡部は大嫌いである。
上に行きたいなら自分で上がって来たら良い。それが出来ない奴に、それこそ用は無い。

「で?その3人の個人データはあんのか?」
「あ、えっと、ほんのちょっとだけどっ!先ず、一番強い人が幸村精市君。千百合ちゃんの彼氏さんの人だよっ!」
「あれ、彼奴なん?」
「うん。」
「・・・待って頂戴、それってつまり、1年生って事?」
「皆1年生だよ!」
「は・・・」

マジかよ。
と3人全員思った。

「でも、実力はお墨付きだよっ!3年生の部長さんとも試合して勝って、今年はレギュラーとして出て来るって!後の2人も、3年生の人達より強いよ。」
「・・・どっかで聞いたような話やけど。」
「つまりは、うちの部長様みたいな人が3人居るって事、ね。」

跡部みたいなのが3人。
なんという恐ろしさか、強すぎて逆に気持ち悪い。

(幸村精市、か・・・)

跡部は忌々しげに頭をクシャッっと掻いた。
こういう時に帰国子女と言う奴は不利だ。国内の要マーク選手にどうも疎くなっていけない。

「2人目が、真田弦一郎君。この人もこの前ヘリの時に居た、ええと・・・き、厳しそうな顔の人、ですっ!」
「そう言えば、なんや居ったな。」
「ああ、あの矢鱈に老けた顔の奴か。」

言われてしまった。一生懸命他の言い方探したのに。

「さ、3人目が柳蓮二君!この人だけ、テニスの傾向を教えて貰えてて、データテニスが得意なんだって!」
「へえ!うちには居ないタイプね。」
「それで3人か。」

強豪校には、1年生の時点で既に上級生を凌駕する実力を持つ者。
所謂スーパールーキーという奴が得てして集まりやすいものだが、それが3人一度に入るとなると手強いのは確実。

「今回分かったのは、そんな感じかな。」
「どう思う、跡部。」

忍足に振られ、跡部はふう、と息を吐いた。

「やり方が王道だ。シンプルでストレートで、それ故に隙が無い。」

今聞いた情報を通して見えてきた、王者立海の姿。
それは、何処までも死角を作らないやり方だ。

アホのように長い練習時間。
スタンダードな設備。特筆すべき点の無いメニュー。

これらが指し示すものは、つまり徹底した地力の強化である。

奇をてらわない。変な事はしない。
形振り構わず、兎に角パラメータを上げていく。

体力はあるに越したことはない。
足は速い方が良い。
筋力が強くて困る事などない。
基本の形が身についてない奴は強くなんかなれない。

そういう立海の方針が、このデータからは透けて見える。

じゃあ個人のプレイスタイルからくる個性はというと、おおよそ放っておかれてるようにしか見えない。
自分のやりたい事は、スペックが整ってからやれやという事だろう。

いや、そうだったのだ、多分。今迄は。

今は違う。
3人の指導者が居るからだ。

「桐生、その3人が指導していた場面は見ていたんだな?」
「うん!」
「誰か、指導に詰まっていた奴は居たか?」
「・・・居なかった。」

という事はつまり、こういう時どうしたら良い?と聞かれたら3人全員淀みなく答えられるという事である。
引いてはそれは、他の部員にとって目指したいプレイスタイルを身に着ける為にどうしたら良いのか?という事の答えが何時でも出て来るという事だ。
思考錯誤しなくて良い。目指したいゴールへの最短ルートがすぐ分かる。
そういう時短が出来ている状態で、他の学校よりも長い練習時間を積み上げて行くと。

強い筈だ。

「一先ず、現段階で方針の変更は無い。」

跡部を除く3人は頷いた。
そう言うと思った。我らが王は人の振る舞いを見て決めた事を曲げたりしない。

「だが、良い発破にはなる。もう少しデータを固めて、本番のオーダーを考えてレギュラーの練習に取り入れよう。」
「分かったわ。」
「それからもう少し後にするかと思っていたが・・・仕方ねえ。メニューの内容と回転の変更について、考えて固めて行く。」

今のメニューのシステムは、先ず滞りなく回る事を優先した上で出来る限り無駄を省いたものである。
もう1ヶ月経った。そろそろ微修正していかねばなるまい。

「先ず、プレイヤーのデータ収集。これは網代、お前が主軸だ。」
「分かったわ。」
「次に今のメニューの修正だな。これは網代と桐生と共同でやれ。その上で、今言った業務をやるとなると、網代のルーチンは完全に滞る。従って・・・」

アイスブルーの瞳が、可憐の方へス・・・と動いた。

「明日の部活からだ。今言った作業が一区切りつくまで、桐生。お前が網代の代わりだ。」

可憐は頭の中で、今のセリフをリピートした。

桐生。
お前が。
網代の代わりだ。

「・・・・・・え?」