Daily conduct 2 - 6/7



現在、信行は左助を探しに行って居るが、伊奈は迷子センターに止まっている。
いざ見つかった時に親が1人も居ないなんて事にならない為だ。

(左助・・・左助・・・)

1分1秒が死ぬ程怖い。
どうか早く見つかってくれ。


「義姉さん!」


伊奈が顔を上げると、朝顔を見たきりの義弟が居た。
その後ろに、幸村達の姿も。

「弦一郎君・・・!」
「義姉さん、左助は!?見つかりましたか!?」

フルフルと首を横に振ると、真田達は沈んだ顔をした。

本当に情けない。
真田達にも、左助にも。

「本当にごめんなさい・・・!」
「しっかりして下さい!今は謝っている場合ではありません!」
「弦一郎の言う通りです。俺達も探しますから。」

「ええと、写真がこれで・・・」
「プリッ。これが服装じゃな。」
「見取り図は・・・ふむ、これだな。丸井、どう思う?」
「此処で居なくなったんだろい?って事は行きそうなのはこっちか、こっちか、」


「おーーー!皆居るー!お疲れー!」


こんな時でも明るさを忘れない声。

「五十嵐、棗。お疲れ様。」
「おーっすwお前ら皆来たのね、丁度良かったわw」
「丁度良かった?」
「俺達今からちょっと、足で探すの止めて他の事するからお前ら代わりに探しててよ。」
「他の事・・・?」

伊奈が顔を上げた。
他の事と言うが、放送はかけて貰ってるし方々探して貰ってるし、これ以上何をどうする気なのだろうか。

「えーと、あ!ねーねー、さっき放送してたのってこれー?スイッチどこー?」
「ちょ、ちょっと貴方達!一体何、」
「まーまーまーまー、ね?ちょっとだけ、ちょーっと借りるだけだから、ほら。何事も先ずやってみる事からじゃないすか?」

恵比須顔と口八丁で放送席のスタッフをどかす棗。
紀伊梨は空いた席にトコトコと近寄り、空いた所に座った。

各種設定を弄る機械を、ほう?とか言いながら眺めまわす紀伊梨に、柳は思わず近づいていってしまう。
放っておくと壊す未来しか見えないからだ。

「えーと、これが電源?マイクはこれ?音量は何処ぞや?」
「こっちだ。」
「あ!やなぎー!」
「電源はこれじゃない、これだ。マイクのスイッチはその白いボタンで、これは音量じゃない。周波数の設定だな。このボタンが対応スピーカーで、このボタンが・・・」
「おー!やなぎーすごーい!」
「一体何する気ぜよ。」
「あ!そーそー!」

紀伊梨はクルッと椅子を回して後ろを向いた。

「ねーねー!左助君の一番お気にの曲ってなーにー?」
「一番の・・・」
「お気に入りの曲・・・」

真田と伊奈が揃って考え込みだす。

「・・・お星さマン・マーチ、かしら。」
「あー!それなら知ってる!」
「知ってどうするのだ。」

「歌うの!」

は?
と全員が口を開ける中、棗はすっかり言い包められて大人しくなってしまった女性スタッフから向き直った。

「正直さー、こんだけ探してて箸にも棒にも引っかからないって事は、方々移動してると思うんだよね。で、困る展開で尚且つ有りそうなパターンが、公園の外に出られるって展開じゃん?」
「まあ、外へ出られるとキリがねえからな。」
「そう、ブンブン君の言う通りキリが無くなってしまうんだ。これを一挙に解決できる、かもしれないのが紀伊梨に歌って貰う事。」
「はーい!」

紀伊梨は元気よく手を上げる。

「言葉が聞こえてなくても、子供はメロディには敏感な筈だよ。知った曲を聞いたら少しは安心して、放送とか呼びかけが分かる程度の落ち着きが戻ってくるかもしれない。それに曲に惹かれてスピーカーに寄ってきてくれれば御の字だ。公園に止まっておいてくれるって事だからね。」

これは紫希の発案だが、出来るのは抜群の歌唱力を持つ紀伊梨しかいない。
下手な歌を聞いても騒音と取られるだけだ。

「てなわけでー!お星さマン・マーチなら、私も知ってるよん!ソラで歌えちゃうかんねっ!」

音量を上げて。
流すスピーカーは、勿論全部だ。
序にちょっと喉を鳴らして、地声じゃなくて本当のアーティストに声でも似せよう。

音楽は無い。
アカペラだ。

紀伊梨は首だけで後ろを振り返った。

「任しといて!これだけは絶対絶対、誰にも負けないかんね!」

スイッチ、ON。






『・・・RA・RA・RA・僕らは、ヒーロー♪胸に輝ける光♪』

(紀伊梨ちゃんの声!)

という事はこれで引き止める事を試みる事に決めたのだ。
周りの人も、俄かに毛色が変わった放送に戸惑い、暫し立ち尽くして近いスピーカーを向いている。

(今、皆動きが鈍っています!今の内に・・・)

「左助君!」

紫希は又走り出した。
サンダルがすっかり血で汚れているのにも構わず。






『主役の、証は♪大きな愛、固い希望、秘めている勇気♪』

(紀伊梨の歌だ・・・・)

紫希の発案通りに事が進むとするならば、左助本人がもしかしたらスピーカーに近づいて来てくれるかもしれない。
少なくとも、音源が何処なのかは探そうとするはずだ。

それなら、スピーカーを中心に探したらぶつかる確率が高い。
思い通りに左助が動いてくれる保証はないが、やみくもに探したって見つかりっこないし。

(・・・よっしゃ!)

「左助君!」






「皆探してる♪自分の命、その使い方を♪
何時も求めてる♪この身を全て、捧げられるもの♪」



「お星さマン・マーチって今聞くと凄いな・・・」
「幼児向けアニメとは思えん歌詞じゃの。」
「はいはい!紀伊梨が歌ってくれてるから、後の奴は散会!探せ探せーい!」

パンパンと手を叩いて捜索を促す棗。

「柳は残っといた方が良いんじゃねえの?五十嵐じゃ機械の操作怖くねえ?」
「ああ。そのつもりだ。」
「おい仁王、変装は止めろ!」
「解せんのう。真田の恰好しとる方が、向こうから寄って来やすいぜよ。」
「お前の変装はそっくりすぎて怖いんだよ!小さい子がトラウマになったらどうするんだ!」
「桑原の言う通りだわw今ややこしい事は止めてw」
「プリッ。」
「・・・・・・」
「幸村?どうした?」
「棗。いや・・・これは、借りて行っても良いのかと思ってね。」
「ああ、良いんじゃない?山ほどあるし。」

(左助・・・・)

伊奈は目頭が熱くなった。
こんなにこんなに沢山の人が、我が子の為に尽力してくれている。
伊奈は真田の人徳に心底感謝した。

「弦一郎君・・・」
「義姉さん。俺達は探して来ます。暫し此処を離れますが、必ず見つけますので。」
「ごめんなさい、皆さん。弦一郎君も、左助があんな失礼をしたのに・・・」
「何を言うんです義姉さん。」

パイプ椅子で座りながら項垂れる義姉の元に、真田は跪いて目を合わせた。

「俺達は家族です。友人達は兎も角、俺が左助の為に何かをするのは当然の事です。」

どんなに嫌いだと言われても、あっち行けと言われても煩くても、左助は家族。
家族を本当に嫌いになったりしない。
真田家というのは、そういう家だ。

「さあ、行くぞ!・・・なんだ、その目は。」
「ピヨ。」
「いやあw」
「なあ、ジャッカル?」
「俺かよ!」
「ふふふっ。弦一郎は良いお父さんになるよ、きっと。」
「な!何の話だなんの!それより行くぞ!早く散会せんか!」


(俺も同意見だぞ、真田。)

クス、と背後で柳が小さく笑った気配を感じて、紀伊梨は微笑んだ。
歌にもより一層気合が入る。

(左助君!みーんな、左助君の事心配してるよ!)

どうか聞いていて。
そして帰ってきて。

皆、貴方を待ってるから。