不審者が警察に連れて行かれて、今日はもう遅いし詳しい話は明日以降ねと言われ、一同が全員解放されたのはもう19時をすっかり回っている頃であった。
「本当に良いのか弦一郎?皆を送って行かなくて。」
「どの道、幾らワゴンでも俺達全員は乗れません。」
「そりゃあまあ、そうなんだが・・・」
信行は今、大真面目に自分の情けなさを痛感している。
中学1年生にこんなに助けて貰って何もかもやってもらって、ろくすっぽお礼も出来ないとは。
「・・・いつか必ず、皆にお礼をするからな。必ずだ。」
「それは彼奴らにお願いします。俺は構いません。家族ですから。」
「親しき仲にも礼儀ありよ、弦一郎君。」
「義姉さん?」
「家族だからって、お礼したり謝ったりしなくていいなんて事ないわ。感謝するのも謝罪するのも、大事な人相手ならかかせない事ですもの。ねえ、左助?」
「・・・・・」
左助は伊奈の背中にしがみついて、後ろからそろりと真田を伺った。
「ほら左助、弦一郎君に言う事あるでしょう?」
「・・・・・・」
「・・・なんだ。言いたい事があるならはっきり言え。」
言いたい事は山ほどある。
おかげで順番が付けづらくて仕方がない。
「・・・ゲンイチロー。」
「ああ。」
「・・・ごめんなさい。・・・あと、有難う。」
「うむ。」
「あと・・・・」
「?」
「・・・ゲンイチロー、凄くかっこよかったよ!」
左助はにっこり笑った。
「・・・ゴホン。」
「うふふ。そうね、かっこよかったわね弦一郎君。お父さんよりかっこよかったんじゃない?」
「面目ない・・・」
「義姉さん!兄さんも何を真に受けて居るのです!」
「後ねー、ゲンイチロー思ったより友達いっぱい居たね!」
「なんだと!?」
「こらもう、左助!」
この現金さが子供の子供たる所以である。
「一番最初に会ったおねーちゃんが、ゲンイチローの事そんないう程嫌われてないって!」
「黒崎千百合・・・」
「でも、私は好きかって言われると微妙だけどって!」
「黒崎千百合・・・!」
褒めてるのか貶してるのか、どっちかにして欲しい。
いや、褒めてる気配が僅か感じられるだけ進歩だろうか。
「ねえねえゲンイチロー。」
「なんだ・・・」
「ゲンイチロー、あのおねーちゃんの事好きなの?」
左助は別に、真田や千百合からお互いに関する何かを感じ取ったとか、そういうわけではない。
ただ、怒りっぽくて友達居なさそうなゲンイチローに、理解を示す女の子が居ると言う衝撃が、もしかして好きだったりするのかなとかいう短絡的な思考に結びつくのだ。
真田は暫く言われた事の意味が分からなかった。
「・・・ふっ。良いか、左助。先ず第一に、彼奴の名は黒崎千百合だ。他の奴も今度教えておくから、ちゃんと名前を覚えていろ。」
「分かった。」
「良し、次にお前の推測は大きく外れている。俺は彼奴をそういう目で見た事は一度もないし、それに・・・」
「それに?」
「彼奴には、とびきり素晴らしい恋人がもう居るんだ。」