「・・・・・・・」
能面のような顔でパトカーの後部座席、真ん中に座る紀伊梨。
「笑える展開じゃき。」
「何が笑えるんですかー!もーーー!なんでブンブンあんなにじゃんけんつおいのー!?」
案の定というかなんというか、紀伊梨は負けた。
同じクラスになって友達になって、今迄幾度となく丸井とはじゃんけんしてきたが、紀伊梨は勝てた試しが殆ど無い。
「昔っからだ。ブン太のああいう所はな。」
「ジャンケン勝つんか?」
「運が良いんだ。ジャンケンに限った話じゃない。」
「あー!分かるー!ブンブンくじ引きとかサイコロとかで、大ハズレとかピンゾロとか出さないもんなー!」
所謂リアルラック値が強いという奴だ。
親友である桑原辺りは、運という意味ではちょっと丸井に自分のそれを吸われてるような気がしない、でもないが。
「私も結構運良い方なのにー!ブンブンが強過ぎだよー!」
「ああ・・・お前が運悪い方じゃないのは、なんとなく分かる。」
「ね!そうっしょ?」
「ノリと勢いだけで世の中渡っていけるタイプじゃな。」
「えへん!・・・あれ、もしかして今の褒められてない?」
「ポチッ。」
「ねーニオニオ?ニオニオさん、こっち向いて否定しよーよ、ねー?」
ペシペシ紀伊梨に叩かれている仁王は、その実面白がっているのが窓に映った顔から見て取れる。
「ねーってばー!もー、皆紀伊梨ちゃんの扱いが酷くなーい?今日は頑張ったんだよ、これでも!」
「いや、お前が頑張った事は皆知ってるさ。な?」
「だよねだよね!で、その流れで屋台の権利はブンブンが譲ってくれても良かったんじゃない?って私は思うわけですよ!」
「無理だ。」
「無理じゃな。」
「ですよねー!」
「まあまあ、ほら。屋台なんて、暫くしたら夏祭りで幾らでも出るだろ?」
「夏祭り!」
ぴょこ!と耳が飛び出る勢いで反応する紀伊梨。
「夏祭り行きたいなー!皆で行きたいなー!ねーねー、皆お休みあるのー?今度こそ皆で遊ぼうよ、皆で!」
「あると思うてるんか?」
「多少はあるだろうけど・・・休みと被るかって言われると微妙だな。」
「練習の後とかで良いじゃーん!夏祭りは夜が本番なんだからさっ!」
「しんどいナリ。」
「えー!そんな事言わずにさー!皆で夏祭りとかって、せーしゅんじゃないですかせーしゅん!浴衣とか着てー、ご飯食べて花火見てさー!」
「一応言っておくけど、男は皆浴衣持ってるわけじゃないからな?」
「女子だって、全員は持っとらんじゃろ。」
「えー!?ゆっきーとかなっちんとか持ってるけどなー!」
「「・・・・・」」
言われてみれば確かに、今の面子は浴衣を持ってる奴らが大半な気がする。
真田とか柳辺りは絶対持ってるだろう。
「ただまあ、持ってても着る気は無いダニ。」
「だよな。」
「なんでー!?」
「部活帰りに浴衣着て来いっていうのは辛いんだよ・・・」
「えー!良く知らないけど、男用ってすぐ着られるんでしょー?こう、サッと着てシュッとしてパッて!」
「それが面倒なんだ。」
「大体、男の浴衣なんか見てどうするんじゃ。」
「どうもしないけど、それっぽいじゃーん!」
どうもしないってハッキリ言いおった、此奴。
つくづく色気が無いと言うか。
「そんな理由なら尚更お断りじゃ。」
「えー!」
「まあ、仁王の言う事も一理あるぜ?男の浴衣姿なんて得する奴の方が少ないしな。」
「そういう事じゃ。浴衣じゃなんじゃいう話は、お前さんに彼氏でも出来た時そいつに頼んだらええじゃろ。」
「そんなー!大体彼氏なんて、何時出来るかも分かんないのにー!」
「でも、お前ならその気になればすぐ作れるんじゃないか?」
「むん。」
紀伊梨はくる、と桑原の方を向いた。
「桑ちゃん、それは私のぽりしーに反しますぞ!」
「ポリシー?」
「彼氏とゆーのは作るものにあらず!なって欲しいと思う人になって貰うものなのであーる!」
例えば、それこそ夏祭りやクリスマスの時に恋人が居ないのは寂しいからと言って、無理して作ってみたりとか。
恋人居ないなんてかっこ悪いとか、はたまたこの人とお付き合い出来たなら自慢できるなとか。
そういう理由で恋人作っても、長くは続かない。
それは千百合と幸村の傍にずっと居たら、なんとなく分かってくるものだ。
「・・・・・・」
「だから、恋人「作る」っていうのは紀伊梨ちゃんはしないお!いつかちゃんと好きな人が出来てー、
そしたらその人にアタックすれば良いんだよ!」
「言ってる事は立派じゃが、何時になるかのう。」
「それは言わないお約束なんですー!」
膨れる紀伊梨も、茶化す仁王も、隣の桑原も、誰も知らない。
何時か出会うその人が、立海の誇るスーパールーキーである事を。