Learn 1 - 4/4


「えーと、だからこういう場合にはサーブのリターン練習が必要で、」
「そや。でそうすると大凡の感覚掴んで慣れるまでに要る平均回数が、」

部室棟にてシャーペンを忙しく走らせながらガリガリ勉強する2人。
今、可憐の頭の中は高速でフル回転している。

(つまり、この練習メニューをやりきるにはどんなに短縮しても大凡このくらいはかかるから、短縮するくらいなら他のを詰めるか次に回した方が良いのであって、そうすると弱くなるのが此処の・・・)

PIPIPIPIPI

「え?」
「俺や。アラームしといてん。」
「えっ?えっ?もうお昼終わり?」
「終わりちゃうけど、どっかで一区切りして時間取らへんと。お昼食べ損ねるで?」
「あっ!」

ふと気が付くと、蓋を開けるだけ開けられてそのまま放っておかれた弁当がちょーんと机に鎮座している。
心なしか憮然として見えるのは気の所為だろうか。

「わ、忘れてた・・・!」
「そやろな思たわ。食べよ。」
「うんっ!何だか思い出したらお腹空いちゃったっ!頂きます!」

最初は、お昼食べてからにしようと思っていた。
でも、本を読むだけならページを捲るのは利き手じゃなくても出来るからと思い本を開いたら、忍足が色々注釈を付けてくれたからついついメモを優先してしまって、あっと言う間に箸を持っていた手はペンを持つ手になっていた。

「思うてたんやけど。」
「ん?」
「可憐ちゃんって成績ええねんよな。」

成績の話とかはした事が無い。
でも、以前虎の巻を作る時に跡部から可憐の入試の結果、つまり学力が如何ほどかはもう聞いて知っている。

「そ!そんな事ないよっ!茉奈花ちゃんの方が、小テストとか何時も満点だしっ!」
「茉奈花ちゃんはなんちゅうか、別格やから置いとくとしてもやん。少なくとも悪くはないやろ?」

言われた事を飲み込む能力、記憶力、集中力。
それらが可憐にはあるから、何かを教える際に先生役としてはとても楽なのだ。

「うーん、確かに勉強は嫌いじゃないかなっ?やったらやっただけ、成果が出るから、楽しいよねっ!」
「せやな。当てにしてるで。」

(ん?)

当てにしてる。
当てにしてるって何が?

思案していると、忍足がに、と笑った。

「実はこないだ跡部と話しとってんけどな。」
「うん?」
「正直、うちの部にも何人か居るやろ?今度の中間テストでえらい事になりそうな奴。」
「・・・・!」

かなり失礼極まる話だが、居る。
今忍足に言われて、脳裏をサッと過った人間が何人か。

「跡部も悩んでんねん。」
「そうなのっ?跡部君、個人の成績とかは割とどうでもっていうか、放置というか・・・テニスに関係ないし、気にしないかなと思ってたんだけど。」
「直接には関わらへんけど、あんまりアレやと補習で時間取られてまうからな。」
「あ!そっか、そうだねっ!」
「それに、幾ら人数多いとは言うても、そない何人も赤点出しとったら名誉な事とは言われへんし。」
「そ、それもそうだね・・・」

確かにどうでも良いと言えば良いのだが、学業は学校生活の一環。部活も又一環。
それとこれとは別でしょ、と切り離しきれないのが頭の痛い所なのだ。

「せやから、ヤバそうな奴にはなんか考えた方がええんちゃうか、言うててん。自分でもう、ヤバいわて自覚してるのも居るしな。宍戸とか。」
「あ、宍戸君・・・」
「後岳人とか岳人とか、それから岳人とか。」
「や、やっぱり?」

ちょっとそうじゃないかなとは思ったが、どうやら正解だ。

2人とも、もうどうしようもない程まずいとかいうわけじゃないけれど、兎角勉強が嫌いなのである。
それに加えて連日部活部活だと、ついつい疲れに甘えて授業中に居眠りしたり、宿題に身が入らなかったり、予習復習に回す時間をサボったり。

ただまあ、自分でマズイと思ってるだけ良い。
もっと問題なのが居る。

「いっちゃん怖いのんはジローやな。」
「だよね・・・!」
「授業中起きてへんからなあ。今どの教科がどの単元やってるとかも知らへんのちゃうか。」
「えええ!?」

あまりの熟睡ぶりに、テニス部では跡部でさえも匙を遥か彼方へブン投げているが、それは実は各教科の担任も同じ事。
起こそうが指そうが廊下に立たせようが眠りまくる芥川に対して、「もう彼奴は起こそうとするだけ無駄なんじゃないかな」という気になっているのだ。

しかも向日や宍戸と違って、自分がヤバいという自覚もしてない。
幼稚舎上がりで内部進学なので、受験もした事が無く危機感に乏しい。

「それに、ジローはテニスは上手いし実力あるからな。そういう意味でも、勉強やなんや、そういう事で足引っ張られとうないっちゅうのんがあるわ。」
「そうだよね・・・もしかしてあんまり成績悪かったら親から、部活止めて勉強しなさい!って言われちゃうかもしれないし・・・」
「もしそんな事になってもうたら、氷帝テニス部の損失や。やっぱり、何か手は打たなあかんな。」

どんなに部活が優秀だって一芸に秀でて居たって、自分達は学生である。
勉学は義務であるし、親に庇護されているなら反面いう事を聞かなければいけないのも又当たり前。

まあ芥川の為には一度そのくらいピシャリと怒られた方が良いのかもしれないが、時間が勿体無い。

「ううん、やっぱりスタンダードな手としては、皆で勉強会とかかなっ?」
「せや。で、その時は可憐ちゃんにも教える側に回って欲しいねん。」
「わ、私っ!?」
「勿論他にも居るで?基本は教え合いやし、得意な科目だけでええよ。逆に苦手な科目は他にドンドン聞いたらええと思うし。ただ、得意科目とか苦手科目とか、そういうレベル超えてる奴をどないする、っちゅう話やから。」
「そ、そう、かなっ?頑張るねっ!なるべく沢山教えられるように・・・!」
「無理はしなや。又居眠りして、跡部に減点食らうで。」
「う!も、もうしないもんっ!起きてられるもん・・・!というか居眠りしてる所とか、あんまり見ないで下さいっ!」

くすくす笑う忍足に、余計恥かしさが募る。幾ら友達でも、居眠りの場面を見られると言うのは嫌だ。

「変な寝言とか言うかもしれないし・・・」
「そういえば、前の時もなんや言うてたような。」
「えええっ!?」
「嘘嘘、冗談や。」
「あー、良かった・・・」
「・・・・」
「・・・え!?嘘だよねっ!?冗談なんだよねっ!?嘘って言うのが嘘なのっ!?」

ねえ忍足くんっ!と言ってわたわたし出す可憐に、忍足はいかんと思いつつつい笑ってしまう。
もうこれで何度目だろうか、こうして吹き出してしまうのは。

「ねえっ!その笑いはどっちの笑いなのっ!?寝言思い出してるのっ!?それとも嘘なのにおろおろしてるのを笑ってるのっ!」
「ふふっ・・・ごめんごめん、嘘やて。ほんまや。何も言うてへんかったし、何も聞いてへんで?」
「本当にっ?」
「おん。ほんまに。」
「本当に本当っ?」
「ほんまにほんまや。ごめんな、つい揶揄いとうなってまうねん。」
「もーっ!」

忍足君なんか知りません!な態度で食事を再開する可憐だが、忍足は何でもないフリして内心ヒヤッとしている。

(・・・危なかった。)

うっかり口走る所だった。

「ふうっ!ご馳走様でしたっ!」
「・・・続きやろか。俺も食べ終わったし。」
「うんっ!引き続き、宜しくお願いしますっ!」
「・・・うん。」

何を口走ってしまいそうになったのか、可憐は知らない。