Reason 1 - 2/7


さて、件の土曜日。
午前10時、駅前にて、待ち合わせの30分前に到着してしまっている紫希だが。

(お家に帰りたいです・・・・)

がっちり人見知りが発動して、心臓が口から出そうである。

考えてもみてくれないだろうか、2人だぞ。
自分と丸井だけ。他に誰も居ない。
その状態で、今日一日ずっと過ごすのだ。超怖い。

何か気に障る事言ってしまったり、してしまったりしたらどうしよう。
一緒に居るのつまんないとか思われたらどうしよう。
来るんじゃなかったとか思われたらどうしよう。
だってこんなに長時間、2人きりで過ごした事ないんだ。

ああ、どうしようどうしようどうしよう。
でも今更引き返せない。

(が、頑張りませんと・・・今日を実りあるものにしませんと・・・)

そう。
今日はやりたい事もあるのだ。
ちゃんとしないと。

ああでも、今日を無事に過ごさなければと使命感に駆られれば駆られるほど。

まだまだ丸井は来ないのに、こんなんで大丈夫だろうか。
持って来た本は早々にしまった。目が滑るばかりで、中身なんて頭に入って来ない。
泣きそう。助けて。

「・・・・・・」

用事の確認。
今日は土曜日だから、営業してる。
ちゃんと10時から開いてる。
お金は1人500円だから、2人で1000円。持ってる。
持参しないといけないものはないから、忘れ物は無し。

服装。

(これで良いんでしょうか・・・)

ちょっとベンチから立って、目線を下ろして自分を見つめてみる。

多分大丈夫なのだが、いかんせん自信が無い。
普段こういう格好はあんまりしないし。

(不備があったらどうしましょう・・・)

なんて、ビードロズや幸村相手にはしない心配を悶々としているから。


「わっ!」


「ひゃああっ!」
「ははは!悪い悪い、そんな吃驚すると思ってなくてよ。」
「丸井君・・・・!」

可笑しそうに笑う丸井は、いつの間にかベンチの真後ろに立っていた。
頼むから心臓に悪い事は止めて欲しい。普通にしてても心臓に悪いのに。

「お早う御座います・・・」
「おはよ。早いな、まだ15分前だぜ?」
「遅れたらいけないと思うと、つい。」

待つのは全然構わないが、待たれるのは申し訳ない。
その心理が、紫希を何時も待ち合わせの一番乗り人間に仕立て上げる。

「あの、今日はよろしくお願いします。」
「おう、シクヨロ!・・・で、何処行くんだ?何か、用事あるんだろい?」

昨日、紫希は丸井を選んだ時に言った。

やりたい事があるから、それに付き合って欲しい。
バイキングの後でも先でも構わないから、と。

別に何の用事でも構わなかったし、なんだか言いたくなさそうだったから突っ込まなかったけど、結局これからどこ行って何するのか、丸井は全然知らないのだった。

「ええ。その、用事というか・・・」
「?」
「・・・正直、付き合って頂くというより、お願いしたい事があって。」
「・・・おお。」

お願い。
なんという、紫希の口から出てきにくい響き。
一生に一度のお願いを週に1回は教室で叫んでいる紀伊梨にも見習ってほしい。

「あ、あの!嫌なら無理にとは言いませんので遠慮なく言って頂いて、」
「分かってるって。そんで、俺は具体的に何したら良いの?」

紫希は深呼吸をした。

「・・・さわりだけで良いんです。テニスを教えて下さい。」