Reason 1 - 3/7


「ぃようしっ!行ってきまーす!」
「紀伊梨姉ちゃん、チャリの鍵!机の上!」
「おおおう!ごみんごみん、忘れてたー!」

黄色い音符のストラップがついた自転車の鍵を引っ掴んで、紀伊梨は外へ出た。

「えーと・・・うおっ!?熱い!熱いーぞー!」

日光の光を存分に浴びている自転車のハンドルは早くも温度を上げている。
今からこんなんで夏はどうなってしまうのか。

「よしっ!しゅっ、ぱーつ!」

5月の風に髪を靡かせて、紀伊梨は自宅を出た。

背中には、かなり丈夫なケースに入ったエレキギター。
因みに名前をレベッカと言う。

「ソーダ水の色ー♪向日葵のー♪揺れてる道ー♪」

今日は行きたい所がある。
先週通ったあそこ。

始まりの場所。

「Please♪don’t♪take away♪my summer・・・お!」

前方に見えている人影。あれは。

「さーなだっちー!」
「む!誰・・・五十嵐か。」

走っている真田の隣に着いて、紀伊梨は並走する。
余り褒められた事じゃないが、この辺は歩道が広いし人通りも少ないし。

「自主練すかー?いやあ大変ですなあ!」
「大変などというわけではない。あらゆる鍛錬は、己の為にするものだ。」
「ほーん?」
「お前とて楽器や歌の練習は自分の為にやってるのだろう。」
「あー、そうだねー。確かに、言われてみればそーかも。」
「無論、勉学も例外ではない。学校で教えてやった事は、身についているのだろうな?」
「う!え、えううう・・・」
「-5の絶対値はなんだ?」
「・・・・えええと・・・・5?」
「よし。一先ずは正解だ。」
「ふいー。」

良かった。まだ教えて貰った事は脳味噌にある。
頭の上に味噌汁乗っけてるような、揺らしたら中身が出そうな危なっかしさだけど。

「お前は何処かで練習か?」
「ううん!今日はねー、行きたい所があるんだよ!もしかしたら演奏する気分になるかもー、と思って持ってきてるのー!」
「ほう。遠いのか?何処へ行くのだ?」
「4丁目の方でーす!ライブハウスへ行くの!」

GWの時に、皆で前を通ったあのライブハウス。
プリズムを、紀伊梨は目指す。

「・・・そうか。」
「そうなのです!」
「良し。」
「ん?」

真田は前方に見えていた自販機の前で立ち止まって、ペットボトルのアクエリアスを買った。

「やろう。」
「え?」
「餞別だ。持って行け。」

良くは知らないが、1人で、演奏するかどうかも分からないのにライブハウスへ行くという事は、何かそれなりの理由があるのだろう。
勉強は出来ないけれど、音楽に関して紀伊梨は真摯だ。

だから餞別。お互い頑張ろう、の意を込めて。

「有難う!」
「ああ。」

紀伊梨はとても嬉しそうに笑った。

「ところで、せんべつってどーいう意味?」
「・・・たるんどる!」