紀伊梨は公園のベンチで小休止していた。
別に休憩の必要がある程遠いわけではない。
真田がアクエリアスをくれたから、ゆっくり飲もうと思って止まっただけだが。
(なんだか1人って久しぶりだなー)
今日は幸村どころか、紫希も千百合も棗も居ない。
此処までぼっちなのは何時以来だろうか。
のんびりぼんやり、目の前の公園の風景を眺めていると、背後から自転車の音が聞こえてきた。
誰か後ろを通り過ぎようとしているな。としか思ってなかったのだけど。
「五十嵐?」
知ってる声。
「桑ちゃん!桑ちゃんだー!」
「おい、分かった、分かったから大声出すな!」
遊んでた子供が皆こっち見てる。
ああ恥ずかしい。
「桑ちゃん何して・・・お、れ?がの?」
桑原の乗っている自転車の籠には、ちょっと大きめの段ボール。
箱の側面に、オレガノと書いてある。
「ああ、そうだ。オレガノ。」
「オレガノってなーにー?」
「ハーブだよ。ほら。」
桑原が蓋を開けてくれると、成程中にはビニールに入ったハーブがぎっしり。
「おお、すごーい!こんなにいっぱい要るのー?」
「いや、普通は要らないけどな。」
「およ?」
「業務用なんだ。親父が仕事で使うから。」
「ほえー・・・じゃあお手伝いなんだねー!」
「ああ、まあな。」
本当は手伝いと言わず自分も何処かでバイトしたいのだが、なんせ中学生ではそれも出来ないので・・・と桑原は一瞬遠い目になった。
「桑ちゃん偉いなー!私お手伝いとかあんまりしないよー。」
「しろって言われないのか?」
「んー、おかーさんは偶に言うけど、弟が止めてくるかなー!」
「止める・・・?」
「そー!紀伊梨姉ちゃんにやらせたら仕事が増える、とか言って!酷くないー!?失礼なおとーとなんだからー!」
多分失礼じゃないのだと思われる。想像でしかないが。
ただ思ってはいても口には出さないのが、桑原の優しさだ。
「お前は何してるんだ?何処かで演奏でもするのか?」
「あ、今からライブハウスに行くんだよー!演奏の予定は無いけど、弾きたい気分の時に弾けないのはやだなーって思うから、一応!」
「へえ・・・」
こういう所は本当に熱心な努力家だと思う。
幾ら自転車だからってギターを背負って移動なんて、重いし大きいし難儀だろうに。
「その1割でも勉強が好きなら、もう少しテスト前は楽になるんじゃないか?」
「もー!その話止めよー!もう、やなぎーより真田っちよりゆっきーがいっちばん厳しいよー!」
「ははは。でもお前、本当に音楽が好きだな。」
「うん!大好きだよ!」
そう。大好きなんだ。
何より譲れないんだ。
そしてそれを今から、確かめに行くんだ。
「さて!それじゃあ紀伊梨ちゃんは再び旅立ちます!」
「ああ。気をつけてな。」
「うん!有難う!」
「ギターぶつけないようにな?」
「それはもう何回かやった!」
「やったのかよ!」
だからこうして頑丈なケースに入れてあるのだ。
多少ぶつけたり擦ったりしても、中身に傷がつかないように。
あっはっは、と笑う紀伊梨の笑顔はやっぱり明るくて憎めなくて、桑原はつられて笑ったのだった。