Reason 1 - 7/7


一方、千百合と幸村は今電車に揺られていた。
人が居る所為で座れなくて、吊革に捕まるしかないこの距離が今の千百合には有難かった。

駅まで手を繋いで来てしまったけれど、あんなのがそう長い間続いたら、恥かしさのあまり振り切って走り出してしまうかもしれない。

「ところで、千百合。」
「・・・何よ。」

その愛想の無い返事に、幸村はついつい顔が綻んでしまう。
ほんのり赤い顔でそんな風に返事されても、可愛いとしか思えない。

おまけに言った本人がちょっと所在無げな不安そうな色の瞳になるから、尚更である。
しまった、やっちゃった。本当はもっと愛想よく返事したいのに、と思っているのが分かる。

(どんな返事でも、気にしないのに。)

それが千百合からの返事なら、愛想が良かろうが悪かろうが自分は。

「・・・ちょっと、話の続きは。」
「ああ、ごめん。今日行く所なんだけど。」
「嫌?」
「嫌なわけないさ。凄く楽しみだけど、千百合から言い出すのは珍しいからどうしてか聞こうと思ったんだ。何か理由があるんだろう?」

今2人が向かっている所は何処か。

植物園である。

場所のチョイスとしては何も不思議ではない。
国営ならお値段はリーズナブルだし、幸村は花が好きなので、デートの場所としてはかなり妥当だ。

ただ、今回植物園に行きたいと言い出したのは千百合の方だった。
普段から面倒くさがりで物事に強いこだわりを持たない千百合。だから千百合がああしたいこうしたいと言う時は、必ずどこかに理由がある。

「・・・んー。」
「言いたくないなら、良いよ。」
「や、言いたくないとかいうわけじゃないんだけど。」

千百合は隣の幸村に顔を向けた。
うん?と呟いて穏やかな目を向け返してくる幸村の顔は、何時見ても安心する。

(・・・精市には、良いんだったわよね)

「テスト終わったらその次の週ね。」
「?うん。」

「私達、柳生をテニス部に入れる作戦があるの。それ、やろうって話になってんのよ。」

これはGWの最終日から、ずっとビードロズの間で決まっていた事だった。

今の状況からして、柳生が即決でテニス部に入ってくれるという前提で物を考えるのは厳しい。
だから勧誘して、考えて貰って、それから入部となった時に、なるべく全国大会の空気には触れていて欲しいのだ。

その状況から逆算すると、決行のタイミングはテストの次の週。
此処が一番良い。

「棗が最近仁王と良く一緒に居るっていうのは、それが理由かい?」
「そ。多分だけど。後、これ仁王には言わないでね。」
「?仁王に、言わないで?」
「うん。私達も良く分かんないけど、兄貴は何か考えてるみたい。」

勿論棗は仁王に、柳生を入れるのに手を貸すという旨の話はしている。
ただ、それはそれとして、仁王にも全てを明かすつもりはないのだ。

「まあ、それで話を戻すけど、勧誘の作戦って具体的に何すんのって話になった時にね。各々、勧誘するに当たって決め手は何か見つめ直そうって話になったから。」
「決め手か・・・。」
「そ。私達だったら、どういう条件でテニス部に入るかっていう話。」

商売なんかでも一緒だけどね、と棗は言った。

何かを本気で人に受け入れて貰うなら、自分自身がそれを魅力的だと思っておらねばならない。
物でも、考えでも何でもだ。

「でも、それで千百合が出した結論が、植物園なんだね?」
「うん。もう直ぐ駅だし、理由は着いてから話すけど。」

でもね、と千百合は続けた。

「今日は一日、花だけ見て過ごすから。そのつもりで、覚悟しといて。」

悪戯っぽい顔で、ちょっと微笑んで。
その仕草は、幸村がそれを嫌がるどころか喜ぶであろう事をちゃんと分かっているからこそだ。

「・・・うん。喜んで付き合うよ。」

今日一日。
ああ、良い日になりそうだ。