電車に揺られる事およそ40分。
千百合と幸村は予定通り、駅から徒歩15分の植物園に到着していた。
「久しぶりに来るね。」
「・・・・・」
「最近はなかなか時間も取れなかったし、来れて嬉しいよ。」
「・・・・・」
「今の時期はポピーやネモフィラが綺麗かな。薔薇はもう少し後だから。」
「・・・ねえ、精市。」
「ん?」
「・・・一応確認するけど。」
「うん、なんだい?」
「・・・これ、ずっとこのままなの?」
これ。
と言って千百合は自分の左手をちょっと振った。
それにつられて、優しく指が絡んでいる幸村の右手も揺れる。
「そのつもりだけれど。」
「・・・マジ?」
「嫌かい?」
「~~~~~!」
くそ。
駄目だ、もう我慢ならん。
「・・・あのね、精市。」
「ん?」
「前から言おう言おうと思ってたけど。」
「うん。」
「その聞き方止めない?」
「聞き方?」
「・・・その、嫌かどうか聞くのを。」
幸村は思ってもみなかった方から転がってきた話に、少し目を見開いた。
しかしそれも一瞬だけ。
「・・・プッ、はははははは!」
「ちょっと!」
「ごめんね千百合、笑うつもりじゃなかったんだよ。ただ嬉しくて。」
(くっそ・・・!)
何故嫌かどうかと問われるのが嫌なのか。
それは多くの場合、嫌か?と聞かれてはい嫌です、止めて下さいと返事出来ないからだ。
でも嫌な物は嫌と言う性格をしている自分が嫌じゃないという事は、それはつまり良しとしているのであって、でもこういう場合良しとしているって何をだ何を、と思うともう恥ずかしくてやってられない。
「言われてみれば、確かに狡かったね。ごめん。俺が望んでる事を千百合に押し付けてしまって。」
「・・・いや、別にそういうわけじゃ・・・」
「でも、そういう面は確かにあるよ。だから嫌かどうか逐一聞くのはこれきりにする。」
千百合は嫌な事は嫌と言う。
それは幸村も良く知っている。
知っていて、嫌かどうか聞くと言うのは確かに少々意地の悪い話。
「だから、これからはこうしよう。」
「・・・・・どうすんのよ。」
「俺がそうしたいからするんだ。」
ぎゅ、と繋がれている手の力が強くなった。
この手を離したくない。
「触れていたい。ずっと、こうして居たいよ。」
久しぶりに2人だからとか、中学に上がって飛躍的に忙しくなったからとか、折角のデートだからとかそういう理由じゃない。
例え久しぶりじゃなくても、時間がたっぷりあったとしても、これから先何回もデート出来るとしても、千百合が好きである限りきっとずっと
こう思い続けるのだろう。
「千百合がどう思っているのか、俺がはっきり知る術はないけれど。」
「・・・」
「でも、敢えてこういう言い方をするけれど、千百合がどうであれ俺は」
「もう良い。」
「え?」
「もう良い!喋らなくてよろしい!ほらもう、行くわよ!」
聞くに耐えない。
やっぱりこの男には恥の概念が無いに違いない。
「ふふふ。そうだね、入ろうか。」
「入ったら、ご飯だから!その後外周、後から温室!」
「うん。」
語気は乱暴なのに離されない手が愛おしくて、幸村は又笑ってしまうのだった。