この植物園は規模が大きい。
それに伴い、展望台や土産や、ちょっとした書籍コーナーなどのオプション的施設も充実している。
勿論、昼食を摂れる場所も。
「座れて良かったね。」
「ん。結構ギリギリだったけど。」
千百合と幸村が入って間もなく、急に混みだした園内のレストラン。
時間的には昼手前だったので、もう少し遅ければ混雑に引っかかっていただろう。
「お待たせいたしました、Aランチお二つです。」
頼んだメニューが運ばれてきて、それが目の前に置かれるのを千百合は何気なく見ていた。
が。
「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
「はい。有難うございます。」
「・・・・!で、ではごゆっくり!」
ちょっと顔を赤くして、そそくさとその場を立ち去るバイトらしきお姉さん。
はーーーーーー。
と溜息吐きたくなるのを千百合は堪えた。
恋人が整った容姿だとこういう所でいちいち引っかかる物を感じるから困る。
(大体、中学1年生のくせに年上のお姉さん誑し込めるっておかしくない?いや、精市が悪いわけじゃないけどそれでもこう・・・)
「千百合?」
「いい、なんでもない。食べよ。」
厳密に言うとなんでもなくないのだが、幸村と外を出歩く時にこんな事をいちいち気にしていたら何も出来ない。
千百合はその事を早くも理解し出している。
「それより、電車での話の続き。」
「ああ。勧誘の決め手の話だね。」
「そう。私、ビードロズになんで入ってるんだろって考えてみたんだけど。」
柳生と自分を重ね合わせたとした時、柳生にとってのテニス部が自分にとってのビードロズになれば、入ってくれる筈。
千百合はそう考えていた。
「・・・私やっぱり、紀伊梨と紫希がビードロズに居るから。だから此処に居るんだと思う。」
千百合は何かに熱中する事が少ない。
少ないというか、ほぼないと言って良い。
一生懸命は面倒くさい。
努力とか怠い。
でも、大好きな親友達がやろうよと自分の手を引くから。
「そうなんだ。」
「あんまり驚かないわね。」
「ううん、正直千百合がそう言うだろうなとは思ったから。」
「マジ?」
「ふふっ。だって千百合、ポジションをベースにするって決めた時も「楽そうだから」って言ってたじゃないか。」
「あー・・・」
バンドを組もう!と紀伊梨が言いだした時、千百合は真っ先にベースが良いと言いだした。
ボーカル面倒。ギターも面倒。ドラムも面倒。
ベースも面倒だが、他と比べたら楽そうかなと思った。だから出来れば其処に納まりたかった。
実際やってみるとベースはベースで大変な事が沢山あって、楽どころではない事を間もなく思い知ったが。
「千百合はずっと、其処は変わってないね。バンドそのものにはあんまり興味がないし、音楽が何を置いてもという程好きなわけじゃない。」
「まあね。ベースもライブも嫌いってわけじゃないけど。」
嫌いってわけじゃないけど、それそのものを其処まで好きなわけじゃない。
紀伊梨も紫希もおそらく棗も、それぞれ今やっている事をそこそこ好んでいるだろうが、自分は違う。
自分がベースを弾くのは、自分がビードロズのベーシストだからだ。もしなんらかの事情でバンド活動をしなくなったら、多分自分は自主的にベースを触らない。
「でも練習は一生懸命やるし、この前みたいにフェスの話をしたら聞きたがったりもするだろう?それはやっぱり、五十嵐や春日と何かするのが好きだからなんだろうな、って。」
「・・・よく分かるわね。」
「千百合の事だから、これくらいはね。」
サラダが喉に詰まりそうになった。
「・・・一応、念押ししとくけど。」
「?」
「今の言わないでよ。絶対誰にも言わないでよ。」
「ああ・・・ふふふ。良いよ。でも、五十嵐や棗はともかく、春日には言っても良いんじゃないかな?きっと喜ぶよ。騒ぎ立てないだろうし。」
「嫌。絶対駄目。」
「そうかい?なら、言わないけど。」
こんな事思ってるとか知られたりしたら、今後顔を合わせる度に気恥ずかしい思いをする事になってしまう。
大体、恋人でも親友でも、好きと思ってる気持ちをいちいち口に出して言うキャラじゃないのだ、自分は。
「話戻すけど。だからつまり、今回の件に当てはめるなら、やっぱりテニス部には良い奴いっぱい居るからねっていうアピールを柳生にしたら、ちょっとは考えてくれるかもと思って。」
「そうだね・・・確かに、人間関係が上手く行くかっていうのは、コミュニティに入る上で大きいかもしれないな。周りは皆初対面じゃないから、余計に。」
人間関係なんて良いに越した事は無いのだが、既に出来上がっている輪の中に後から1人入るというのは多かれ少なかれ影響が出る。先日の溶け込み具合を見るに大凡大丈夫だとは思うが、引き込むことを前提に話をするのなら、多少気が合うくらいでは弱い。
此奴らと一緒に何かしてみたい、そう思わせるレベルで気に入ってもらわねば困るのだ。
「・・・とりわけ、仁王をってのが頭痛い。」
「ふふ。そうだね、仁王はテニス部の中でもアクが強い方だし好き嫌いは分かれるだろうから。でも、歓迎会の日に見た限りじゃ柳生は仁王をかなり好意的な目で見ていたし、その点はそんなに難しくはないんじゃないかな?」
「そお?」
「うん。確かに、似ているタイプとは言えないかもしれないけど、ああ見えて結構気が合うんじゃないかと俺は思うんだ。」
「そう・・・?」
どうもその辺怪しいのだが、幸村の言う事は当たるので、そうなのかもしれない。
あれと気が合うってどういう事、と思わないでもないが。
「ただ。」
「?」
「良い友人になれるかどうかと、ダブルスを組めるかどうかは又別の話だから。其処は分けて考えないといけないかな。」
「やっぱし?」
思わずため息を吐く千百合に、幸村は苦笑する。
幸村とてピンときにくい。あの個人主義の仁王がダブルスを組みたがっていたなどとは。
「友達で居るのと、仲間になるのとは些細とはいえ違いがあるからね。柳生がその点を気にしなければ助かるんだけど。」
「確かにね。・・・ま、兎に角そういうわけだから。花でも見ながらちょっと友人関係の事を改めて考えて見ようかなと思って。」
「花を見ながら?」
「花を見ながら。」
此処なら色んな花がある。
大きさも色も形も、全部違う花達が千百合と幸村を迎えてくれる。
「チューリップじゃないけどね。」
口元に笑みを浮かべてそう言う千百合に、幸村は思わず微笑む。
「もう、チューリップじゃ収まらないさ。」