Reason 3 - 2/6


今でも覚えている。
初めてそれに触れた時の事。



「紀伊梨!黒崎さんが、皆をライブハウスに連れて行ってくれるって!良かったね♡」
「らいぶはうす・・・?」
「音楽を聞くんだよ。」
「ピアノは眠いからやだなー。」
「ふふ。ピアノじゃないよ紀伊梨、バンド。ギターとかドラムとか・・・歌もあるから、きっと楽しいからね♪」
「???」

その当時、紀伊梨の世界にある音楽は童謡とポップス、精々クラシック。
母、皐月は紀伊梨が良ければピアノを習わせたかったらしいが、クラシックを聞くとおやすみ3秒の我が子を見て止めた。

兎に角当時の紀伊梨にとって、「ロックバンド」というのは美味いのか不味いのかも分からない未知の物だったのだ。

わけが分からないまま、皆で出かけるというから連れて行かれて、ライブハウス「プリズム」に赴いた。


そして、出会った。
いいや、自分はこれに出会う為に生まれて来たのだと思った。





「こんちわーす!」
「やあ、紀伊梨ちゃん。暫くぶり。」

「プリズム」の店長小田桐睦は、紀伊梨の姿を見ると穏やかな笑みでひら、と手を振った。

「おや、1人かい?他の皆は?」
「今日は1人だよー!ギターもねーえ、いちおー持って来たけど、あんまり弾く気は無いんだー。」
「あら、珍しい。弾かないなら1人で見学かい?」
「見学・・・うーん、まあそんな感じ!」
「?」

よう分からん、な顔の小田桐が居るカウンターに、紀伊梨はちょこちょこ寄っていく。勝手知ったる他人の家、もとい店。

「あのねー、今友達がゴルフ部に居てー。」
「ほう。良いねえ、ゴルフ。昔は出来たけど、今は腰がねえ。」
「そなの?」
「そうなんだよ。それで?」
「そーそー!でも、他の友達がその子の事テニス部に入れたがってるんだー!」
「テニス部・・・幸村君かい?」
「ううん、違うー!あ、でもねでもね、中学入って、テニス部の友達いーっぱい出来たよ!」
「そうかい。」

そりゃあ良かった、と微笑む小田桐は天然寄りの性格をしている。バンド組んでるのになんでテニス部の友達が出来るんだおかしいだろ、とは突っ込まない。

「そんでそんでー、その子を入れる為になっちんがどーしてバンドやってるのか考えて来いって言うから!」
「ああ、だから此処に来たんだね。」
「そー!」
「懐かしいねえ、初めて来た時は皆小学校2年生の時だったっけね。」

小田桐は思わず遠い目になる。
本当に懐かしい。

「もう5年も前になるねえ。」
「あり?そんなに経ったっけ?」
「そうだよ。私もおっさんになるわけだ。」
「小田桐のおっちゃんって、初めて会った時からずっとおっちゃんじゃなかった?」

こら!と言って止めてくれる他のメンバーは今居ない。
目から出てくる汗の所為だろうか、カウンターに顎を乗せて此方を見てくる紀伊梨が、5年前の光景とダブって見えた。