『98、99、100!良し、左右を逆にしろ!もう4セットだ!』
練習場に響く王の声を聞きながら、部室で可憐と忍足は目下作業中である。
「気張っとんなあ、跡部の奴。」
「・・・・・・」
「・・・可憐ちゃん?」
「・・・えっ!?ご、ごめんなさい!何っ!?」
(こら結構キてるな。)
たかが3日、されど3日。
つい先日までまったく馴染みの無かった物を一から勉強し、覚える前に全部纏めろというのは、なかなか辛い注文ではある。
「なあ、可憐ちゃん。しんどいんやないか?」
「え・・・」
「草案言うて、もうほぼほぼ出来てるんやし。これで出してもうて、今日はもう休んだらどないや?」
忍足は何気に驚いているのだが、可憐と作ったマニュアルは、草案のレベルを既に超えている。
流石に微修正は必要なので最終案はもう少し詰めねばならないが、十分と言えば十分ではないかと忍足は思っている。
「跡部は今手離されへんけど、なんやったら俺が渡しとくさかい、保健室で多少寝てても・・・」
「・・・ううん、駄目だよ。」
「そう言うけどやな。」
「だって・・・私ドジなんだもん。」
一瞬、可憐の手が止まった。
しかし物思いに耽っている時間がない事を即座に思い出し、またペン先は走り出した。
「私ドジだから、活動が始まってお仕事するようになったら、きっと皆に迷惑かけちゃうよ。茉奈花ちゃんはなんでも出来る子だし、他の子達なんて、きっと私より出来るのに面接受けて入って来てくれる。それなのに私、此処で頑張らないでマネージャー業もお荷物なんて事になったら、本当の役立たずだよ。跡部君に追い出されちゃう。」
そんなのは嫌だった。
嫌だったが残念な事に、嫌な事であると同時にいかにも起こり得る事でもあった。
でもテニス部に居たい。
こんな所でピリオドを打たれたくない。
まだ何にも始まっていないのに。
(可憐ちゃん・・・)
「だから大丈夫。まだ出来るよ。あ・・・えと、此処は・・・」
「・・・其処はこっちの事も書いたらええわ。そしたらこれにも目行くやろから。」
「あっ!そっか、そうだねっ!有難う忍足君!」
パッと笑顔になる可憐を見て、忍足は苦笑して溜息を吐いた。
(ほんまに・・・頑張りやさんやなあ)
さて、ご褒美は何時買いに行こうか。
日の暮れ出す空を、忍足は部室から見上げたのだった。