Reason 5 - 1/5



「っはーーー、食った食った!」
「はい。美味しかったですね。」

紫希と丸井はきっちり2時間、バイキングを堪能して退店していた。
店員からの「有難うございましたー」の言葉の裏に、「利益出ないからなるべくもう来ないでね」の気持ちがふんだんに含まれていた事を、2人は知らない。

「・・・丸井君。」
「ん?」
「あの、今日は有難う御座いました。テニスも教えて頂いて、ケーキも美味しかったですし。」
「そんなの良いって!ケーキに関しては、俺が我儘言った側だし。」

券の出所が丸井家なので勘違いしがちだが、紫希が誰と来るかは基本的に丸井でなくても全然構わないのだ。
丸井の母、直美もあくまで紫希に礼がしたいと思ったから紫希に、と言ったのであって、息子に対して春日さんと行きなさいね、などと言うつもりはない。

「・・・実はちょっと吃驚したんだぜ?」
「え?」
「ほら、五十嵐か俺か、どっちと行くか選べって言われてただろい?」

絶対紀伊梨が選ばれると思った。
幾らなんでも紀伊梨と天秤にかけられて自分が取られるわけがないと丸井は思ったし、あの時は他の全員がそう思った。

だから紫希が自分の名を呼んだ時、丸井はここ最近で1番と言うくらい驚いたのだ。

「あ、あの時はなんというかその!夢中でと言うか、必死で・・・」
「おう。テニスしたかったから、俺の方だったんだなって今は分かるけどさ。」
「・・・でも、私。」
「ん?」
「あの、私、私・・・」

頑張れ、いけ。
紫希は内心で自分にエールを送る。

「・・・私。」
「うん。」
「教わるなら、丸井君が良いなって思ってたから、丸井君を選んだんです・・・」

渡りに船以外の何物でもない、とあの時思った。
作戦の為に、誰かにテニスを教わりたい。
誰に、と考えた時に、紫希の頭に真っ先に浮かんだのは丸井だった。

幸村には頼めない。気心と言う意味ではテニス部の誰より知れているけれど、千百合が居るから頼んではいけない。
そしてそれ以外のテニス部でとなると、誰が相手でもまだ緊張する。他愛ない会話なら平気でも、捗らない事を教えて下さいなどと言えるだけの勇気が出ない。
まして、2人きりで長時間過ごせだなんて。土曜日の時間を自分の為に割けだなんて、そんな。

「私スポーツは苦手ですし、皆と居る時は大丈夫ですけれどテニス部の誰かと2人きりでずっと居ろって言われると、どうしてもまだ緊張が先に出てきてしまって。でも、丸井君は・・・丸井君となら、大丈夫かな、って・・・」

ああしんどい。丸井の方を見られない。

(どうしましょう、どうしましょう、言ってしまった・・・!)

迷惑かも。
いや、かもでなくて迷惑だろう。
人に頼るなよ、自分でどうにかしろよって思われる。

・・・でも、丸井は。丸井なら、良いよ、どういたしましてって言ってくれる。
友達だろって言ってくれる。他の事で助けてあげることが出来れば、それで許してくれる、かも、しれない、くもない。

いつものネガティブ思考と、駄目だ丸井を信じないとという感情の狭間でせめぎ合い。

「・・・・・・・」

内心でおろおろとしたまま黙りこくってしまった紫希に対して、丸井は暫し無言だった。

「・・・なあ。」
「はい・・・」
「お前、門限何時?」
「え?」

いきなり何の話、と思って顔を上げた。
丸井の顔は何か考えてるようだけど、少なくとも怒ってるわけではなさそうで、それが紫希の心をちょっと軽くする。

「ええと、18時、です。それまでに家に帰れば・・・」
「じゃ、今16時過ぎだから後2時間無いくらいだな。」
「はい・・・」
「家どの辺?」
「え、ええと、住宅街の・・・」

スマホの地図を見せられて、紫希は自分の家を慌てて探す。

さっきから丸井が何を言いたいのか全然掴めない。
不機嫌とかそういうわけではないようだが。

「此処です。」
「へー。で、今此処だから・・・」

何やらポチポチしだす丸井。

「・・・あの、」
「よし!決まり!」
「何がですか!?」
「ちょっとな。なあ、今日は18時まで帰らなくて良いんだろい?」
「はい、それは平気ですけど・・・」
「俺、行きたいとこあるんだけど。」

丸井はウインクを一つ飛ばした。

「行くなら春日とが良いから、今度は俺に付き合ってくんねえ?」

目を真ん丸にする紫希。

余裕の笑顔を浮かべる丸井だけど、実は内心ちょっと頑張っていたりする。

だってやっぱり多少は恥ずかしいじゃないか。
わざわざ口に出して、友達に向かって、他の人じゃなくて貴方が良いです、なんて。


でも。でも。
嬉しかった、自分を選んでくれた事が。
偶々その立場に居たからじゃなくて、他の人じゃ駄目で自分だから選んだのだという事が。

だから、今度は自分の番。自分が紫希を選ぶ番。
他の人じゃなくて、この子を。


「・・・はい!私で良ければ!」

そう返事する紫希は、表情が目に見えて明るくなりだした。
それは良いんだけど。

「俺の努力も、もうちょっと汲んでくれても良いだろい?」
「へっ?え、何?何がですか?」
「「で」の部分「が」に変えとけよ。」
「・・・??」

やれやれ、前途多難。
わけの分からない顔のままの紫希に、丸井は又笑った。