Reason 5 - 2/5


さてさて。
行きたい所とは言いつつ、丸井の行きたがる所って何処?となると大概の人間はお菓子屋さんと答えるであろう。
お菓子に限定せずとも、まあ少なくとも飲食店の何がしかとか。
後はテニス絡みでコートとか公園とか。

だから、紫希は辿りついた先に少々驚いた。

「・・・本屋さん、ですか?」
「おう。」

本屋。
紫希にとっては良く行くスポットだけれど、丸井にとってはまあそこそこ。

「本当は明日1人で来るかと思ってたんだけどな。」
「そうだったんですか。何か買いたい本でも?」
「んー、買いたい本があるって言うか、本が買いたい。」
「?」

何のこっちゃ、と思いながら丸井の後をついて行く紫希。

(・・・あ。)

この方向。
あっちのコーナーは確か。

「・・・あの。」
「ん?」
「ええ・・・おめでとう、御座います?」
「はははっ!おう、サンキュ♪」

此処は絵本コーナー。
幼児から大凡小学生辺りまでを対象とした本が纏められている所。
となると弟絡みで、もしかしたらプレゼントかと思ったが、どうやらビンゴだ。

「上の弟の方が、明後日誕生日でさ。」
「ええと、6つになるんですか?」
「そ。最近絵本がプチブームみてえだから。」

だからプレゼントは絵本にしようかな、と思って日曜にでも行くかと思っていたのだ。
予定が変わったけどこれはラッキー。

「で?」
「はい?」
「どれが良いと思う?」

どれが良いと思うか。
6才の男の子のプレゼントに。

「・・・そうですね。」

サッと全体に目を走らせる紫希。

「・・・一先ず、傾向を掴む方が良いかと思います。普段どういう本が好みかとか、その辺りを踏まえて。」
「普段ねえ。んー、大概はこういうのとか、こういうのとか・・・」

良く引っ張り出されているのが、スタンダードに嵌ってるコンテンツ関連のもの。
ポ/ケ/モ/ンとか、ウルトラのあの人の本とか。
それから大凡の子供に人気があると思われる絵本達。
動物が出て来る、乗り物が出て来る、後は色遣いが綺麗だったり、音が出たり飛び出て見えたり。

「本はどう読まれますか?」
「へ?どうって、どうも何も、普通だぜ?」
「1人で読みますか?誰かに読み聞かせされたりしますか?下の弟さんも居るので、その辺りの兼ね合いもありますが。」
「ああ!」

確かにそう言われると子供の本の読み方と言うのはバラつきがある。

「・・・結、構・・・」
「結構?」
「・・・取合いになる?」
「うふふふっ!」

丸井が取合ってるわけではないだろうに、ちょっと気まずげにする丸井が可愛くて、紫希は笑ってしまう。

「元気で良いですね。」
「取合いっつうか弟2人で引っ張り合いだな。下のチビが本取り上げたがるんだよなー。彼奴も本が好きなら多少はマシになるんだろうけど。」
「お嫌いなんですか?」
「本が楽しいって感覚が薄いんだよ、上と比べて。でも、上の兄ちゃんが好きだから遊んで欲しいだろい?なのに、その上の兄ちゃんが本読んでたりなんかすると、構っては貰えねえし、自分は本がつまんねえもんだから一緒に読んだりする気にもなれねえし。」
「・・・・・・」

本が楽しい。
という感覚が薄い。

「・・・お話を味わうのが好きではないんでしょうか?」
「ってわけじゃねえんだけど、飽きるんだよ多分。文字を追うのに。テレビは好きだし、ビデオも見られるから、本を読むって言う形式が苦手なんだろうな。上も上でもう6つだし、読むんならそこそこ長くねえと楽しめなくなってきてるから尚更なんだよ。」
「成程・・・」

目で字を追う。
ページを捲る。
その作業に飽きるから、その楽しさを知っている上の弟と喧嘩に縺れ込む。

でも、上の弟とて好きで引っ張り合いしているわけではあるまい。
弟は可愛い。
本は嫌いじゃない。
それが両立すれば一番良いのに、そうでないから目下いざこざが度々起こっているのである。

「予算はどれくらいですか?」
「親からも金貰ってるから、まあ。5000円で、買えるだけって言われてるけど。」
「・・・なら、ちょっと検討して頂きたい本が。」
「どれ?」
「ええと、確かこっちに・・・」

(あ。)

丸井の着ている薄手のパーカー。
の、裾の端を紫希は抓んでいる。

本当に端っこをちょっぴりだし、引っ張るというにはあまりに微かな力の入れ具合だけど。
しかも本人はおそらく完全に無意識で、顔は全く丸井を見ておらずひたすら絵本コーナーの奥を目指している。

「・・・・」
「あれ?以前はこの辺に・・・あ、もうちょっと奥へ移動してますね。あっちで・・・丸井君?」
「ん?」
「どうし・・・えっ!?あっ!ご、ごめんなさい!」
「ははは!あーあ、バレちゃった。」

黙ってたら気づかないかな、と思ってたから静かにしていたのに、静かすぎて振り向かれてしまった。
失敗失敗。

「すみません!あの、本当にすみません、無意識で・・・!」
「別に怒ってねえよ?」
「でもその、なんというかあの、一言引っ張ってると言って下されば、」
「言ったら離すじゃん。」
「それで良いじゃないですか・・・」
「えー。なんとなくいや。」
「ええええ・・・」

紫希が丸井ってよく分からない、と思う時はこういう時である。

「んで?どれがその本?」
「あ、ええと、この辺です。これ、とか・・・」
「・・・・!」

分厚い背表紙。
嵩張る体積。
普通の絵本より明らかに貼る値段。
そう、それは正しく。

「・・・仕掛け、絵本?」
「はい。ご存じありませんか?」
「これどっか押したら音が出て来るとか、そういうのじゃないんだろい?」
「はい。もっとアナクロですが、個人的には此方の方が好きです。これはサンプルですけれど、例えば・・・」

紫希は見本として置かれていた1冊を開いた。
それと同時に飛び出てくる絵本の世界。
立ち上がる城。登場人物。エフェクト。

「おおお!すげえ!これとかなんだ?」
「ふふふ、引っ張って見て下さい。」
「どれ・・・おー!」

つまみを引っ張ると、背景が動く。
重なっている所を捲ると、脇キャラが見つかる。

「良いなこれ!面白い!」
「それなら良かったです。ただ、値段は高めですし、結構壊れやすかったりもするんですけど・・・」
「ああ。まあ、そうだよな。」

そりゃあそうだろうなとは思う。
普通の絵本より明らかにコストがかかっているし、仕掛けそのものもちょっと乱暴に扱ったら破れたり動かなくなってしまったりするだろう。

「ただ、普通の本より特別感は出ますから、プレゼントと言う意味ではお勧めしたいです。」
「だな!」
「それから・・・これなら、飽きないんじゃないかと。」
「え?」
「下の弟さんが、飽きると仰ってましたよね。だからもしかしたら、こういう本なら最後まで一緒に読んだり出来るんじゃないかなあ、と・・・」
「・・・・・・」

其処まで考えに入れてくれてたか。

「・・・サンキュ。マジで助かる。」
「いえ。でも、他にも絵本はありますから、他のも見ましょう。」
「いや、いいや。」
「えっ?」
「ピンときちまったんだよ。此処から選ぶ。」

きっと弟は気に入ってくれるだろう。
こっちの目論見が上手く行ったら、本と、下の弟と一緒に本を読めると言うダブルプレゼントが出来るかもしれない。
何より、丸井の中の第6感が「これが良い」と言っているから。

選ぶ基準は、それで十分。

「ってわけで、もうちょっと付き合ってくれよ?選ぶから。」

そう言う丸井の顔は、本当に優しい。大好きな弟を思う人の表情をしているから、紫希の方もつられてしまう。

「はい、勿論。幾らでも付き合いますよ。」

貴方のその顔が。
心の優しさがそのまま表れているその顔が、大好きだから。