「All rightー・・・・!」
ジャン!
と小気味良いエレキギターの音がプリズムに響いた。
ステージに一人立っているのは、目黒。
そう、目黒は弾ききった。
自らの願掛け通り、観客の前で、とちらず1曲弾きとおしたのだった。
「ひゅーーー!彩乃おねーちゃんすごーーい!」
「うん、良いギタリストだ。大したものだよ。」
「凄い凄い!やったじゃない、彩乃!」
飛び跳ねて喜ぶ紀伊梨と翠。
小田桐は惜しみない拍手をしてくれる。
(・・・弾いた。)
弾いた。
弾けたんだ。
「・・・楽しい。」
なんだか懐かしいという気すらしてしまうこの感覚。
楽しい。
ギターが楽しい。
紀伊梨にお礼を言わなくては、と思い、彩乃が顔を上げた丁度その時だった。
「あーー!」
「どうしたい、紀伊梨ちゃん?」
「門限!5時に帰らないといけないのにー!」
「5時?中学になったから6時になったんじゃなかったのかい?」
「今日は駄目なのー!テスト前だから5時に帰ってべんきょーしないと、ゆっきーに怒られりゅううう!」
読んで字のごとく、死活問題である。
もしやれと言われてた範囲分の勉強を漏らしたりしてみろ。赤点とか取ってみろ。
幸村どころか真田も柳も、3人全員にそれはもう叱られる。
「えー!私もうちょっと紀伊梨ちゃんとお喋りしたかったのになー、残念・・・」
「ごめんねー!私も翠おねーちゃんとお話したかったなー!」
「まあまあ、時間が無いならしょうがないよ。紀伊梨ちゃん、気を付けてお帰りよ?」
「うん!では、紀伊梨ちゃんは一足お先に帰ります!皆バイバーイ!」
サッとレベッカを背負って、紀伊梨はプリズムを後にした。
「はーあ・・・紀伊梨ちゃん可愛かったなー!」
「えらくお気に入りだねえ。」
「だってだって、チョー可愛くないですか?さっきも「翠おねーちゃん」とかって・・・あーんもう!あんな妹欲しかったー!」
心の叫びに小田桐が苦笑していると、同じく苦笑した目黒がステージから戻ってきた。
「そんな事言ってると、本物の兄弟が泣くわよ翠?」
「だってー!彼奴可愛くないんだもんマジで!本当に生意気なんだから、彩乃は知ってるでしょ?」
「ううん・・・」
「問題多いわルーズだわ、紀伊梨ちゃんの1/10でも可愛げがあれば良いのに!」
「問題多くてルーズなのは翠ちゃんも人の事言えないと思うけどねえ。」
「小田桐さん?何か言った?」
「何も。」
目黒は眉尻を下げて笑った。
確かに翠は制服着崩したり遅刻気味だったり、そういう所がちらほら見受けられる。
ただそれでも翠の言う通り、翠より更にいろいろやらかし気味でルーズなのだ。
切原赤也。
あの、テニスに心血を注いでいる、切原翠の弟は。