誰も居ない部室棟。
もう殆どの者は帰ってしまったし、自分の他に誰か居るのか誰も居ないのか、それすらも分からない。
夕日の差す教室の一角で、可憐は溜息を吐いた。
「ふう・・・」
「あ、居った。」
くる、と振り向くと、忍足が扉から顔を覗かせていた。
「忍足君っ!まだ残ってたのっ?」
「おん。」
「どうして?まだ勉強するの?」
「せやで。可憐ちゃんと一緒。」
「あ・・・」
可憐の座る机の上には、テスト範囲のページの英語テキスト。
・・・ではなくて、スポーツ科学入門。
「あ・・・あははっ!つい、なんというか気になっちゃって?」
「分かるで。俺も似たようなもんやわ。テスト明けたら直ぐ、地区予選やしなあ。」
「なんかそわそわしちゃうよねっ!今の内にやれる事全部やりたいっていうか・・・」
そう、氷帝に限らず大凡どこの学校でも同じだが、5月中旬はテストシーズン。
それが終わると、間もなく地区予選の始まりである。
部活禁止だが、今だからこそ部活したいと思うのは、選手もマネージャーも同じ。
「・・・本当は、座学じゃなくて体を動かしたいよねっ。部員の皆は。」
「せやなあ。まあ、禁止なんは部活だけやから外の施設で練習とかなら出来るけど、」
ーーー♪
ーーー♪
「ごめんな、電話やわ。」
「ううん、全然っ!」
「もしもし?俺やけど。」
(又、従兄妹さんかな?)
はあ、はあ、そうなん、それで?とどこか気の抜けた軽いレスポンスは、なんとなーく身内かなと思いつつ様子を伺っていると。
「はあ・・・へえ・・・そらなんちゅうか、ええ根性やな。あ、貶してるんやないで?おん・・・」
「・・・?」
僅かに、微かにだが確実に、忍足の顔に気楽さが消えていく。
「・・・分かった。ほなそれで。・・・ああ、任しとき。」
ピ、と音を立てて通話を切った時には、忍足はすっかり真面目な顔になっていた。
「どうしたのっ?」
「可憐ちゃん、今日遅なっても構わへん?送るし。」
「えっ?良いけど・・・本当にどうしたのっ?」
話が全然見えない可憐に、忍足は携帯をしまいながら言った。
「道場破りが来たらしいわ。」