その後すっかり打ちのめされた可哀想な瀬良中は、良いよもう・・・もうどうでも良いよ・・・な空気が蔓延し、一気に動きが悪くなった。
せめて1勝くらい、という気概は、柳に手も足も出なかった事で、すっかり失せていた。
おかげで真田と幸村の試合は、見られた事は見られたものの、もうこっちが勝って当たり前だよと誰もが思うほどの、向こうのやる気の無さで幕を下ろした。
「君の失ーくしーた♪えーがおーを♪見ーつけーにー行ーこう♪・・・およ?」
紀伊梨は試合が終わりきると、次の学校との試合までの隙間時間で手洗いに行ったのだった。
今その帰り道、観客席に戻るべく来た道を戻っている所。
だったのだが。
「・・・・・」
「・・・っく・・・・」
ベンチで俯いている、あの亜麻色のジャージの子は。
「・・・ねーねー。」
「・・・・!」
「どーしたの?どっか痛いの?」
上がった顔は、やっぱり試合前に食って掛かってきた瀬良中の彼だった。
「・・・別に、痛いわけじゃねえし。」
「そなの?」
「おう。」
「じゃーなんで?」
「・・・・・」
今しがた負けたばかりなんだから察してやってよ・・・というツッコミは紀伊梨には通用しない。
それが悪い所でもあり。しかし又、良い所でもある。
「負けたから?」
「・・・・・」
「うーん、それは悔しいけどー。でもしょーぶの世界は引き分けは無し!って決まっちゃってるから、しょーがないよね!よしよし、いっぱい泣け少年!そして負けた悔しさをバネに・・・」
「違う!」
ビクリ、と紀伊梨は伸ばしかけた手を引っ込めた。
「違う・・・」
「・・・違うの?」
「負けた事が悔しいんじゃない・・・!」
勝負の世界。
必ず勝者と敗者が生まれる世界なのは分かってる。
でも、違う。
「・・・俺達は!ちゃんと負けられなかった!」
「え・・・・」
「お前も見てただろ!最後のあの2試合!なんだよあれは!あの無様なやられ方は!」
「う・・・」
1度しか来ない1年生としての夏。
それなのに、ちゃんと負ける事すらも出来なかった。
「馬鹿みたいじゃないか・・・・!ダブルスもシングルス3も、負けはしたけどあんなに頑張ったのに・・・!」
「・・・・・」
「仲間の頑張りをあんな形で終わらせるなんて・・・あんな奴らを部長、副部長、って慕ってたなんて・・・・!」
「・・・・・」
彼はすっかり涙で色が変わったジャージで、涙を拭った。
「・・・有難う。」
「うえ?」
「・・・ちょっとすっきりした。」
「・・・そっか!」
「おう。」
はーっと息を長く吐く彼は、確かに少しだけ明るい表情になっていた。
「もう行くわ。集合あるから。」
「うん。」
「お前立海の応援ならまだ見るんだろ?急いで戻らねえと始まっちまうぞ。」
「おお!ありがと!」
それを聞いて紀伊梨はサッと体を向かいたかった方に向けた。
しかし再度、くるりと元の方を向き直った。
「・・・・」
「・・・なんだよ。」
「・・・元気で行こうね!」
「・・・!」
彼はちょっと吃驚した顔になったが。
「・・・おう!また会おうな!」
「うん!」
そう言って手を振る彼は、やっと笑顔になった。