「・・・なんだったんじゃ。」
「あの人誰ー?」
「彼女は華村葵。」
全員がノートを開く柳を見た。
「柳、知っているのか?」
「ああ。次の対戦相手・・・城成湘南学園テニス部の顧問だ。」
「顧問!?」
「先生だったのかよい。」
「・・・・・・・」
顧問。
確かに、そう言われるとこの場に居る大人の説明としてはとても自然だが、なんというか。
こう。あんまり言葉にし易くはないけれど。
「先生にしてはエロ過ぎないw・・・あだっっ!!」
「棗君!」
「放っとけ、紫希。」
「えええ・・・」
「えー?そーかな?」
「おい、掘り下げるな・・・」
正直、ここに居る全員が程度の差はあれ、ちらと思った。
スタイル抜群だし、そのスタイルが誰の目にも分かる様な、シンプル且つ体にぴったりしたラインの服を着ているし、美人だし眼鏡だし口元に黒子だし。
でもそんなセクシーな美女に幸村が連れて行かれたという事実が、なんともいえないもやもやを生み出すから、一生懸命「敵校の監督なだけ」「それがたまたま若い美人の女性だっただけ・・・」と必死で気を逸らしていたのにこの兄は。
「・・・ゴホン。でも、実際幸村君に何の用事なんだ?」
「確かにな。敵校の監督が、こっちに用事なんて思いつかないし。」
「あ!もしかしてもしかすると、ゆっきーがあんまり強いから苛めに来たのかな!?」
「え、ええええ!?そんな事して良いんですか!?」
「落ち着け。おそらく、スカウトだ。」
すわ助けに行かねば、と立ち上がりかけるビードロズ達を、柳は手で制した。
「スカウトだと?」
「ああ。彼女のチームの組み方の特色の1つに、スカウトをまめに行い、外部の手を借りる事を厭わない事が挙げられる。おそらく先の赤潟第三との試合を見て、幸村をマークしたに違いない。」
「ほー・・・なかなか面白いぜよ。」
「えー!じゃあゆっきー、立海の選手じゃなくなっちゃうのー!?」
「たわけが!そんな誘いに、幸村が乗るわけがなかろう!」
「別に強制でもなんでもないですから。スカウトなら断る権利がちゃんとありますし、その点は大丈夫ですよ。」
「そなの?それなら良かったー!」
そう。
分かってる。
幸村は真田の言う通り、スカウトされたからと言って立海を捨てる様な真似はしないと知っているし、声をかけて来たのが若い美女だろうと御爺さんだろうと、幸村はついて行って話を聞くに違いない。
分かってる。
分かってるさ。
ただ、それはそれとして不愉快だ。
「千百合ちゃん、お茶をどうぞ。」
「あ・・・ありがと。」
「いえ。」
あったかいほうじ茶を飲むと、ちょっと落ち着いた。
安心おしよ、とこの温かみが諭してくれるよう。
紫希は本当にいつも良いタイミングでさりげなくフォローしてくれる。
「・・・紫希、おにぎり食べてる?」
「え?いえ、まだ。」
「梅あげる。好きでしょ?」
「えっ?いえ、良いですよそれは千百合ちゃんので、」
「良いから。」
「えええ・・・」
「あー!良いな良いなー!ねーねー千百合っちー!私にもチーズおかか・・・」
「鮭寄越したら考えてやっても良い。」
「ぐっ!き、究極の選択・・・!」
「にしてもスカウトか。流石は幸村君って感じ?」
「でも彼奴、スクールの時からうちに来ないかとは色んな学校から言われてたけどねw」
「モテとるのう。」
「まあねw真田もそうっしょ?2人纏めて来いよってよく言われてたじゃん。」
「ああ。何度か言われたな。」
「立海以外も考えた事とかあるのか?」
「勿論、参考にはさせて貰ったが・・・やはり最終的に決め手になるのは、自分の目で見て、耳で聞いた事だ。」
「真田らしいな。」
「己を信じるのは当たり前の話だ。思考だけではなく、五感の全てを使って出した結論こそが、本当の正解に決まっている。」
そしてその事を、ついて行った幸村だって知っている。
だから真田は、幸村が間違ったりしない事を知っている。
それ故に、なんで千百合が彼女に選ばれたんだろうかと訝しんだ事もかつてあった。でも、今はやっぱりこれが幸村なりの正解だったのだろうと腑に落ち始めていた。
だから千百合ももっと、どんと構えて置いていい。
誰にどうスカウトされようが、幸村を動かす事なんて出来ないのだから。