Unearned win 2 - 7/10


「ただいま。」

「あー!帰ってきたー!」

皆が居る光景に幸村はひっそりと息を吐いた。
ああ、やっぱり此処が落ち着く。

「話は終わったんか?」
「うん。城成湘南に来ないかと言われたから、断ったよ。」
「やはりスカウトだったか。」
「柳の推測通りだろい。」
「良かったー!」

紀伊梨が卵焼きを頬張りながら言った。

「良かった?」
「ゆっきーが立海から出てっちゃったらどーしよーかと思ったよー!」
「たわけが!そんな事はあり得んと言っただろう!」
「まあまあ・・・やっぱり本人の口から是非を聞くのが、一番の安心材料ですから。」

そう、何事もそう。
本人が居ない所できっとこうだいやああなるに違いないなんて、所詮は推測でしかない。

「五十嵐は、俺がスカウトを受けると思っていたのかい?」
「だってー・・・もしかしたらがあるかもしれないしー。」
「あははっ。」
「それに、あの先生ちょーセクシーで美人だったじゃん?」
「うん?」

今、何人かご飯が喉に詰まりそうになった。
それそんなはっきり聞いちゃうのかよ、という思いゆえに。
当の幸村は何か話飛んでない?とキョトン顔だが。

「ごめん、ちょっと意味が良く。どういう事だい?」
「え、そのまんまだお?あの先生、綺麗だったっしょ?」
「うん、美人ではあると思うけど。」
「セクシーだったっしょ?」
「まあ、違うとは言い難いけど。」
「だからゆっきー、美人の先生が居る方が良いなって思っちゃったらどーしよーかなって!」

「その理屈で言うと、俺にとって一番の美人は千百合だから、寧ろ立海から出ないだろうっていう安心材料にならないかい?」

今飲み物を口に含んでなくて良かったと、千百合は心底思った。

「あ、そっかー!そーいえばそーだね!」
「そうだよ。忘れん坊だな、五十嵐は。」
「ごめんごめん、もう忘れないよー!・・・あれ?千百合っちどったの?」
「黙れ。」
「えええっ!?なんで!?私なんかした!?」

「ふっ・・・くっ・・・えほっ、く・・・!」
「丸井君・・・」
「ブン太、もう少し隠そうとしろよ・・・」
「してるっての・・・w」
「これは堪えるの難しいw」
「腹筋と口角に来るナリ。」
「・・・・・」
「真田、その我慢の仕方はすすめない。箸が折れるぞ。」

何故人のラブシーンと言うのはこう、ニヤニヤしてしまうのだろう。
別に馬鹿にしたいわけでもなんでもないし、笑う理由など無い筈なのに何か笑いがこみあげてしまってならない。
千百合が恥ずかしがるから余計におかしいのだろうか。

「ふは、駄目だ俺、ちょっと匿って、」
「へっ!?」

紫希は束の間幸村と千百合の件が頭から吹っ飛んでしまった。

丸井は紫希の両肩を掴んで、隠れるように背中を丸めて笑い出した。

肩にある丸井の手が、笑ってる所為ですごく震えている。
項の真下に丸井の額が当たる固い感触があって、どぎまぎしてしまう。

「あ、あの・・・」
「おいブン太、人を盾にするなよ?」
「そもそも女子供の陰に隠れるな!たるんどる!」
「だって、ここが一番安全じゃねえ?対黒崎的に。」
「合ってるけどさw」
「そうなんか?」
「千百合は紫希に荒っぽい事あんまり出来ないからなーw」
「ほう・・・」
「露骨に良い事聞いたみたいな顔すんなよw」
「それはそうと、丸井。そろそろ笑い止んでやったらどうだ。」

出来るもんならやってるって、と丸井が返事しようとした時、会場のスピーカーが鳴った。

『お知らせします。全日本テニス選手権中学生男子の部、湘南地区地区予選決勝戦は、午後、13:30分より行います。

城成湘南学園中学校、及び立海大附属中学校の選手は、遅滞なくコートに集合して下さい。』