「何かお腹立ちな事でもあったようでw」
「彼奴いつもお腹立ちじゃない。」
「どしたのかなー?喧嘩?じゃないよね?」
「喧嘩とは違うようですけれど・・・」
不幸中の幸いな事に内輪で揉めてるような印象は受けないが、何かが有った事は間違いあるまい。
深刻なトラブルでなければ良いのだが、と観客側が気を揉む中、決勝戦が始まった。
「それではこれより、湘南地区地区予選決勝戦を始めます!両校、礼!」
「「「「「「お願いします!」」」」」」
全員整列して頭を下げる。
華村の宣言通り、レギュラーは居なかった。
柳のデータで、各校のレギュラーになるであろう選手の顔と名前は皆覚えていたが、1人として該当しない。
フラストレーションが真田を襲う。
(弦一郎、押さえて。)
(ああ・・・・!)
分かってる。
分かってるけどいざ目の前にするとやっぱりムカつく。
ベンチに戻ると、ダブルス2の和久野、野入ペアが準備を始める。
「ま、レギュラーじゃないとはいえ、実力の程はやってみるまで分かんないからな。」
「ああ。勿論こっちは全力でやろう。」
和久野と野入だけじゃない。
皆心のどこかでまだ疑っていた。
本当に地区予選優勝の肩書を座したまま流すつもりなのか。
疑惑を胸に抱いたままに、ダブルス2の試合は始まった。
「はーん。」
「うわーw」
「ねーねー、なんかあっち変じゃない?なんかやる気なくない?」
華村は真実を告げていた。
現在、ダブルス2は立海の完封で終わりダブルス1の試合に移っているが、いずれも城西湘南側の選手にびっくりするくらいやる気が感じられない。
テニスを知らない4人にもこうしてハッキリ分かるレベルである。
「なくない、っていうか実際ないんでしょ。」
「立海が強いからー?諦めてんのかなー?」
「他の理由があるのかもしれませんけれど・・・いずれにしろ、好ましいとは言えませんね。真田君辺りは、こういうの特にお嫌いでは・・・」
「それ思うわw多分さっき叫んでたのもこれでしょw」
お腹立ちになるのも分かる気がする。
こっちは真剣なんだからお前も真剣になれやという心理は誰にでも分かるだろう。
ただ。
真田を怒らせてただで済むと思っているのなら大きな間違いだなあ、とも4人は思うのだった。
「それではこれより、シングルス3の試合を始めます!」
ダブルス2は勝った。
ダブルス1も勿論勝った。
このシングルス3で勝利すれば、立海の地区予選1位通過が決定する。
「・・・おい。」
「あ?」
城西湘南のシングルス3。
桜庭悠馬は真田から声をかけられて足を止めた。
「念の為に聞いておくが。貴様、この試合、俺と真面目に戦う気はあるのか。」
桜庭はキョトン。
とした。
「・・・ぷっ。はははははは!あははははは!」
「何がおかしい!」
「そりゃおかしいさ!あーあ、笑った笑った。」
桜庭はラケットで肩をトントンと叩きながら、如何にも怠そうな姿勢で言った。
「あのね?逆に聞くけど、俺達が本気でおたく達の相手して、何か得な事あるの?」
「何・・・?」
「だって黙ってたって予選通過出来ちゃうんだよ?それなのに頑張る意味とか別になくない?」
「貴様!」
「おー、怖い怖い。」
大袈裟に上体を逸らす桜庭。
「こっちからすりゃあさあ、あんたらの方が不思議だよ。何熱くなっちゃってんの?お互い通るのに。」
「そんなーーー」
「あ!それともアレ?王者のプライドとか言う奴?うっは、面白ー!たーいへんだねい、王者って奴あー!あっはっはっはっは!」
真田弦一郎12才。
今まで生きてきて、未だ嘗てこんなに腸煮えくり返った事はない。
「・・・もういい。」
「あ?」
「本心ではお前も戦いたいと思っている。だが顧問の意向でそれを禁じられていて、止む無くと・・・そういう可能性もあると思い、堪えていたが。」
もう勘弁ならない。
叩きのめしてやる。
「どーぞどーぞ、幾らでも?俺動かないからw」
「言ったな。」
「へ?」
「その言葉、違えるなよ。」
その意味を聞く前に、真田はもうサーブを打つべく向こうに行ってしまった。
「プレイ!」
トン、とボールを一度つく。
相手の位置。
あそこにいる。あそこから動かないと言っていた。
(角度からして、あの辺りを狙うべきだろう。)
当たりをつけたら、後は簡単。
トスを上げて、全力投球。
「・・・・うおおおおっ!!」
ガシャアアン!
「・・・・え?」
桜庭は放心した。
(今、サーブが、)
サーブを打たれた。
一応返そうと思ったけれどあまりに早くて、しかもバウンドしたそれが自分の顔をめがけてきて、今顔の真横を通って後ろのフェンスにめり込んでいる。
というか今。
頬からピッという、何か切れた音が。
「・・・・あああ!血!血が!血だ!血が出て・・・」
「自業自得だ。」
「はああああ!?」
「案山子になるといったのは貴様だ。次はじっとしていろ。動くと今度こそ顔に当たるぞ。」
今は若干身じろぎした程度だったから、ボールが掠めた所が切れたくらいで済んだ。
もし本当に返球しようと動くなら、次はそうはいかない。
「は・・・・」
「それが嫌なら本気を出す事だ。」
ちゃんと戦うか。
それとも死ぬか。
どっちか選べと言われた時、人は。
「・・・やります。」
「どうだかな。」
「やります!やります、やります、やりますから!お願いですから体は狙わないで下さい!」
誰だって、我が身は可愛い。
すっかり臨戦態勢になる桜庭に、顧問の華村は呆れて溜息を吐いた。
その20分後立海の、なんとも歯ごたえの無かった地区予選優勝が決まるまではもう少し。