「・・・ところで、詩織ちゃん?」
「は、はい・・・」
「言いたくなければ良いんだけれど・・・詩織ちゃんと、ええと千歳ちゃんだったわね。クラスメイトだと言ってたけれど、それは本当なの?」
「おい、本当ってどーいう意味だよ?」
「疑ってるわけやあらへんよ。嘘ついてるとも思うて無いし。ただ、ほんまにそれだけなんかっちゅう話や。」
「・・・・・」
詩織は俯いた。
話す気は無かったが仕方がない。
「・・・クラスメイトなのは、本当です。」
詩織は顔を上げて話し始めた。
だが、目は忍足達の方は向かない。
「木崎さんは、その・・・はっきり言うと、私の事嫌いなんです。私も、木崎さんの事は好きにはなれません。」
「あら。それはまたどうして?」
「・・・私が言った、って秘密にしておいて欲しいんですけれど、木崎さんには好きな男の子が居て。」
(そっちの話か・・・)
聞くんじゃ無かったかなー、と向日はちょっと後悔した。今忍足周りの話で手一杯なのに。自分的には。
「もしかして、好きな人、かち合うとるとかそういう話?」
「半分正解です。」
「半分?どういう事なの?」
「かち合ってはいないんです、実際。でも木崎さんはかち合ってると思ってるんです。」
「どうしてそうなるんだよ・・・」
「ええと・・・先ず、繰り返し言いますけれど、木崎さんは好きな男の子が居るんです。私にも居ますけれど・・・それはそれぞれ別な男の子なんです。」
だから、本来いがみ合う必要など無いのだ。
本来は。
「だからつまり、今回の件で男の子は2人出てきますよね?その2人は仲が良いんです。テニス繋がりで。それで私、好きな人の事を知りたくて、でも恥ずかしくて本人にはなかなか近づけないから・・・」
「・・・その友達の方と先ず仲良くなる、というやり方を取ったという事かしら。」
こく、と頷く神宮。
ああ、という溜息が、忍足と向日から同時に出た。
「ほんで、木崎さんから見たら、自分の好きな男子と神宮さんが仲良うしてる図・・・っちゅうのが出来上がってもうたわけやな?」
「はい。」
「お前、違うって言わねーの?」
「いえ、言ったんです。あくまで相談に乗って貰ってるだけで、私は別に好きな人が居るし、その子もそれは分かってるからって。なのに・・・」
だから?それがなんなのよ。仲良くしてる事には変わりないでしょ!
普通に笑って挨拶したり、なんでもない話したり、それをしたいのは私の方なの!あんたじゃないの!
なんなの?人の欲しいもの取っておいて、取るつもりじゃないのー、って言いたいの!?
ずるい!なんであんたばっかり!
ずるい!
ずるい・・・!
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「私も初め、悪いって素直に思いました。そりゃあ相談に乗ってくれてた子にも、誰か片思いしている女子が居ても不思議じゃないし。その子が頻繁に相談に行く私を不愉快に思うのも、当然だって思います。私だって、同じ事をされたら嫌ですから。でも、あんな・・・全部が全部、1から10まで私が悪い、みたいな言い方されると・・・」
「まあ・・・そうやろうな。」
「半分は八つ当たりでしょうね。」
「その、木崎?って奴は、そいつにアタックみたいな事はしねーの?」
「してます。ただ、あんまり上手くいってないです。」
「あー・・・」
「そういうとこも気に入らんのやろうな。」
「はい。私もそう思ってます。」
多分、アタックが上手くいってない事には複合的な要因があるのだろう。
木崎の性格とか、その子に対する振る舞いとか、神宮の存在とか、諸々が合わさって今の状況になっている。
それを全て神宮が悪い、神宮が離れてくれれば解決するのにとかいう話にするから、ややこしくなるのだ。
「100%詩織ちゃんの所為、っていう事にしておきたいんでしょうね、そっちの方が楽だから。本当は本人も、原因の一つではあるけれど全てではないって、何処かで分かっているんじゃないかしら?」
「はい。だから余計折れる気が失せるというか・・・私が一切関わらなくなるまで文句言われるんだろうなと思うと、馬鹿馬鹿しくなってきちゃって。」
「え、待って。お前、今でも全然気にしねーで相談してるって事?」
「いえ、やっぱり多少控えめにしないととは思ったんですけど・・・そしたら今度は、その男の子の方が気を使って、私に自分から色々教えてくれるようになっちゃったんです。」
「絵に書いたような悪循環やな。」
全てが神宮の所為と言いきれない様に、木崎に対しても全てが自業自得とは言い切れない面もある。
どっちかが全うき悪者で、そいつが成敗されたら済むとか、そういう話にはなれないのだ。
「兎に角私、木崎さんの事は知ってますけど折り合い悪くて。本当言うと会いたくないし、関わり合いになりたくないんです。だから木崎さんが向かってるって聞いて、えっ、って思っちゃって。」
「そういう事だったの・・・」
「・・・なー。」
「はい?」
「そんなんだったらさ、お前もう相談とか止めて、その好きな奴とやらにべたべた引っ付いてったら良いんじゃねー?」
「え・・・・」
向日の言葉に、神宮はポカンとした後真っ赤になった。
「なっ!な、な、なんでそんな話に!」
「だってそれなら、本当に相談してただけで好きとかそういうのじゃないんですよー、って向こうにも分かるだろ?」
「そりゃあそうだけど、」
「それに、相談に乗ってくれてるって事は、そいつも協力しようとしてくれてんだろ?お前が本命と仲良くしてたら、アドバイスは要らなくなるから、近づいて来られる事も無くなるわけじゃん!」
「確かに!やるわね向日君、それは良い案だわ。」
「網代先輩まで!」
向日の言う事は、正論である。
正論であるが。
「でも岳人、実際それは難しいで。」
「あ?」
「本命にアタックとか簡単に言うけどやな、やれ言われて出来るもんでも、」
「でも木崎ってやつはそれをやってるんだろ?」
「・・・・・!」
神宮は目を見開いた。
「岳人・・・」
「だってそーじゃん!さっき上手くはいってないって言ってたけど、上手く行かなくても自分より仲良い女子が居ても、それでも頑張ってんだろ?同じ事したら良いだけじゃねーかよ!」
「・・・・・」
「大体相談って言うけど、何時までも相談だけしてても何にもならなくね?そもそもその内アタックに移る為に相談してんだろ?」
「岳人、ちょお。こっち来(き)い。」
「おい、なんだよ!」
「後頼むわ、茉奈花ちゃん。」
「ええ、任せて。」
忍足は向日の襟首を掴んで、離れて行った。