一方その頃宍戸と可憐は、道々木崎の行方を尋ねつつ探して歩いていた。
「彼奴何処に居るんだよ・・・・」
「もしかして、もう諦めて会場から帰っちゃってるかなあっ?」
「それはねえと思うけどよ。諦めて帰るような性格なら、最初に揉めた時点で帰ってるだろうから。」
宍戸的には寧ろ、見付けた後でどうやって引っ張っていくかが問題であると思われる。
自分はああいうつっけんどんな態度を取られると、やり返してしまいがちだから尚更。
「あ!人が居たよっ!あのう、ちょっと良いですかっ!」
「うん?」
「あの、この辺で、金髪にリボンでサイドテールの女の子を見かけませんでしたっ?連れなんですけど・・・」
「ああ、見たよ。」
「「見た!?」」
此処はテニスコートとは逆方向である。
こんな所まで来ていたとは。
「どっちへ行きましたっ?」
「あっち。」
「あっち!?」
「遠ざかってどうするんだよ・・・」
宍戸が天を仰いで溜息を吐くと、話しかけたお兄さんは眉間に皺を寄せた。
「実はその子、テニスコートに行きたいとか言って、道を聞いて来たんだけどね。」
「けど?」
「それが教えてやってたら、途中で「分かんない、もう良い!」とか言って、勝手に怒って向こうへ行っちゃったんだよ。」
「ええあ・・・ご、ごめんなさいっ!」
「馬鹿か彼奴は!激ダサだぜ・・・!」
此処は先述したとおり、テニスコート方面から遠い。
道案内がその分少々複雑になるのは仕方がない事だし、途中で分からなくなってしまってもおかしくはないが、そこでどうしてわざわざ事態の悪化を招くような、子供じみた振る舞いをするのだろうか。
これではまるで、躾のなっていない幼児ーーーー
「ーーーーーー」
「・・・?宍戸君っ?」
急に真顔になる宍戸の顔を、可憐は覗き込んだ。
「・・・いや、後で話す。取り敢えず、行こうぜ。」
「あ、うんっ!有難うございましたっ!」
見つかると良いね、と言う声に背を押され、2人は木崎が向かったと言う方へ歩き出した。
何かぼんやりと、頭の中に霧がかっていたのだ。
それが何故なのか、ずっと分からなかったけど。
「宍戸君、さっきの話だけど・・・」
「ああ。さっき思い出したんだけどよ、俺彼奴の事知ってたんだ。」
「へっ?」
可憐は目をパチクリさせる。
「知ってたって・・・」
「幼稚舎に居た時の話なんだけどな。ある日隣のクラスに居た、テニスとか全然関係無い友達に帰り際に会ったんだけど・・・」
宍戸が一緒に帰らないか、と言うと、その子はふう、と大きくため息を吐いて、今日は駄目なんだごめんと言った。
そして女子用の手提げに入った、その週1週間分のプリントを力なく笑って宍戸に見せたのだった。
「それって、お休みの子とかに持って行く、」
「ああ。病院に持って行く所だったんだ。普段はそいつの従兄妹が持って行ってたんだけど、その日偶々そいつすらも休んでて。」
そして日直だった宍戸の友達に白羽の矢が立ってしまったのだが、正直行きたくなくて堪らないと彼は頻りにぼやいた。
正義感の強い宍戸は面倒がらずに持って行ってやれよと言ったが、彼は面倒だからという理由じゃないんだと答えた。
「で、その病院に居る持ってく奴っていうのが・・・」
「・・・木崎、千歳ちゃん?」
「おう。」
会った事は無かった。
その時一度、名前のみ聞いたきりだったので、今の今迄完全に忘れていた。
「その子はどうして持って行きたくなかったのっ?」
「性格悪いから。」
「え”・・・」
「同じクラスの奴らには、結構有名だったみたいだけどな。結構重い病気で、学校に全然出て来なくて、一回も顔見た事無いって奴もそこそこ居た。」
木崎は心臓の病気だった。
何時発作が起こるか分からず、発作のタイミングによっては手遅れになる可能性も高かった。所謂「峠」も何度か超えた。
だからいつ死ぬか分からないという事を念頭に、木崎の家族や周りの者は、木崎の好きにさせた。
我儘は何でも通したし、暴言も八つ当たりも全て許容した。
それが度を越したものになる事も何度もあったけれど、皆一番辛くて不安なのは、今正に命の危機である木崎本人だという事を重々承知していたから、誰も何も言わなかった。
そして、今。
木崎千歳と言う少女は、病が完治し、辛くなくなっても不安が無くなっても、病気だった時と変わらない振る舞いで日々を過ごしてしまっている。
「・・・・・・」
「勿論、病気だけが原因でもねえんだろうけどよ。世の中の病弱な奴、皆彼奴みたいかって言ったら絶対違うし、ある程度は彼奴の元々の性格なんだろうな。」
「ううん・・・」
「だからなんつうか、彼奴子供がそのままでかくなったみてえな事ばっかしてるだろ?俺も会うのは初めてだったけどよ、こう・・・ああ、こういう事かって感じしたんだよ、さっき。」
「あ、でもなんとなく分かるかも。」
どうも木崎の怒るタイミングと言うか、沸点に引っ掛かりを覚えていたのだが、合点がいった。
子供と一緒なのだ。
気に入らない事があると、それを言わないでは居られない。我慢して、胸の内に秘めておく、という事が出来ない。
八つ当たりしたくなったら自分を抑えられず八つ当たりしてしまうし、知らない人と一緒は嫌だと思ったら、それをそのまま「あんた達と一緒なんて嫌!」と発言してしまう。
ある意味では裏表のない、非常に正直な性格と言えるが、流石にあの年になって思考と口が丸々直結しているようでは、そろそろ非常識のカテゴリに片足突っ込んでしまっている。
「あの男の子も放っとけ、って言ってたし・・・千歳ちゃんって周りに注意してくれる人居ないのかなあ?」
「本人が聞く耳持ってねえからな。ダセえな、激ダサだな。」
「ううん、でも病気してたんなら、普通の人達が体験出来ることをあんまり出来てないって事だし。」
「それでももっと人間出来てる奴は沢山居るだろ?まして元気になったんだったら、いつまでも病気が病気がって、病気を言い訳にすんなっつうんだよ。」
「宍戸君は男前だね・・・」
そこまでカラッとした性格だったらああはなっていなかっただろう。
「・・・あ!居たっ!」
前方の方、まだまだ距離があるが見通しの良い道の先で、木崎がきょろきょろと辺りを見回しながら歩いている。
「千歳ちゃ・・・」
「待て、桐生!」
宍戸は咄嗟に可憐の口元を抑えた。
「多分、今話しかけても又逃げちまうぜ。」
「ええっ!?あ、で、でもそうか、そうだよね・・・どうしよう。」
「・・・一応、考えはあるんだけどよ。」
「そうなのっ?」
「ああ。ただ、これだと肝心な所はお前1人に任せる事になっちまうというか・・・まあでも、俺が代わりは出来ねえし・・・」
頭を抱えて宍戸は悩むが。
「良いよ!それで行こうっ!」
「・・・良いのか?」
「うんっ!私で出来るかは分からないけど、かといって私何も浮かばないし・・・やるだけやってみるよっ!」
「・・・そうか!」
「うん!で、どうしたら良いかなっ?」
「あのな・・・」