本日は日曜日。
病院は原則休日なので、此処には救急外来や見舞いに来た人等しか居ない。
それでも混んでいる時は多いが、この日は運よくそれほど混んで居らず、間もなく呼ばれるだろうからと言われた。
「ごめんね、忍足君・・・」
「俺は構わへんて。それより、大丈夫か?気分悪なってきたとか、さっきと変わった事あらへん?」
「・・・うん。」
忍足は本当に優しい。
『桐生さん、桐生可憐さん、3番の診察室にお入りください。』
「あ、はいっ!」
「急がんでええで。」
此処で又転ぶとか、本当に洒落にならない。
なんだかどこかで聞いた事のある声だったような・・・なんて思いながら可憐は診察室の扉を開けた。
「・・・あ!」
「こないだぶりやな、こんにちは。」
忍足の父、瑛士が微笑んでひらんと手を振った。
「助かったわ。近かったし、場所分かってるし。」
「お前、こっちは吃驚してんで。いきなり看護婦さんから、「忍足先生、息子さんが居ますよ」とか言われて。何事か思うたわ。」
「ごっ、ごめんなさい、忙しいのにっ!」
「いやいや仕事やし、可憐ちゃんは悪うないで。取り敢えず、其処座ってんか。」
「はい・・・」
瑛士はPCを叩く。
「・・・で、ごめんな悪いねんけど、受付で言うた事もう一回言うて貰える?どないして打ってんて?ドアにぶつかった?」
「はい。ええと、私外開きのトイレの前に居て、中に居る子と話してたんです。で、怒らせちゃって、その子が出ようとして扉を開けて・・・」
「真ん前に居って、ぶつかったんやな。ううん・・・頭揺れた感じはした?記憶が途切れたとか、他の所にもぶつかったとか。」
「大丈夫です。」
「ほんなら・・・そうやな、舌べーって出してみ。」
「べー・・・」
「俺の指の先、見とってな。動かすから目で追って。そうそう・・・」
「・・・・・」
こういう時、忍足は自分の情けなさを痛感する。
まだ痛感するような筋合いの年でも立場でもないと分かってるけど、それはそれとして何も出来ないのが悔しい。
「吸って。」
「すー・・・」
「吐いて。」
「はー・・・・」
「・・・うん。ええよ。」
瑛士は聴診器を耳から外した。
「まあ、多分大丈夫やろ。特に変な所はあらへんし。」
「そうなん?」
「言うてトイレのドアやからな。サッカーとかラグビーしててとか、交通事故でとかなら衝撃の度合いが違うから、又話変わって来るけど。」
「CT撮らんでええ?」
「・・・・・」
もし此処に可憐が居なかったら、瑛士は遠慮なく吹き出していただろう。
CTは別に良いけど、なんで患者よりお前の方がぐいぐい来るんだ。
「ほんなら撮ろか?って言いたいとこやけど、それは桐生さんと桐生さんの親御さんが決める事やからな。放射線も使うし。」
「せやけど・・・」
「でも桐生さん、なんやちょっとでもおかしい思うたら、遠慮のう来るんやで?親御さんが撮りたい言うんやったら、CT撮りに来てくれてもええし。」
「はいっ。」
「うん。・・・まあ、俺はCTよりどっちかいうとこぶの方が気になるわ。そのうち引くやろうけど、女の子やからなあ・・・」
顔に負傷するというのは、見て居る方も辛い。
女の子なら尚更である。
「だっ、大丈夫ですっ!傷は良くある事だし・・・」
「良くあったらあかんねんで、可憐ちゃん。」
「あう!」
「・・・・・」
ほんならお前が見といてやったらわ?と聞くほど瑛士は酷い父親ではなかった。
でも、ちょっと聞きたかったけど。