ごめん。
今日の昼はちょっと用事がある。
千百合はその言葉通り、昼休みになったと同時にクラスを出て行った。
幸村とも一緒じゃないから、もし聞きに来たら居ないと言っておいてくれと言われて、了承した。
何の用事だかは知らないが、様子がおかしいわけでもなかったし、無理に聞き出す事もない。
「あれー?黒崎さん、今日居ないんだ。」
「それなら紫希ちゃん、一緒に食べない?」
「あ・・・有難うございます。でもすみません、私も今日、サッと食べたら少し用事が。」
そう。自分も、やる事がある。
(丁度、というのも妙な話ですけれど、千百合ちゃんも偶々居ませんし、今が良いですね。)
秘密の話がしたい。
棗に会わなければ。
・・・とか思って、E組まで来た紫希だったが。
「ええと・・・」
入口まで来てキョロキョロしていると、棗より先に桑原と、E組に遊びに来ていた丸井が見つかった。
ああ、良かった。知り合いの姿、ホッとする。
2人に手招きされて、紫希は教室まで入った。
「よ!」
「春日。どうしたんだ?」
「こんにちは。あの、棗君は・・・」
「ああ。彼奴、出会いを求めてお散歩、とか言って出て行ったけど。」
「居ませんか・・・」
前以て昼を空けてくれと言っていれば良かったのだろうが、千百合が昼を空けると知ったのは今日の話だったから、それも出来なかった。
どうしようか。
後日に回すか。
いや。
(・・・駄目です、延ばし延ばしにしていたら勇気が挫けます。今日こそお話するんです、今日こそ・・・)
「・・・有難うございます。」
「良いのか?」
「ええ。ちょっと、自分で探してみます。何処に居るか、分からないですけれど・・・」
「出来るか?本気で何処に居るか分からないぞ、彼奴?」
「ええ、良く知っています・・・」
桑原の念押しに、ちょっと遠い目になる紫希。
何処に居るか分からないと言って、棗のその範囲は常人のそれとは比較にならない。
そんな所になんの用事だよ、みたいな所に普通に居るから、隅から隅まで探さなければ。
一応携帯に会いたいと連絡も入れているけれど、直ぐ見られる状況かどうかは分からないし。
「黒崎だったら、見たぜ?」
偶々会話を聞いていた、E組の男子が言った。
「ほ、本当ですか?何処で・・・」
「階段の所。だから、上級生の所に行ったんじゃないかな。」
「上・・・」
人見知りには心臓に悪い響き。
先輩と言うだけでもう、ちょっと怖い。
おまけに1人。
「・・・大丈夫か?」
「大丈夫です・・・どうにか行きます・・・」
「そんな急ぎなのかよ?」
「なるべく今が良くて・・・頑張ります。教えて頂いて有難うございます。」
軽く頭を下げて、ちょっとよろしくない顔色で紫希は来た道を引き返した。
もとい、引き返そうとした。
「はい、ちょっとストップ。」
「へ?」
くん、と腕が引っ張られる感覚。
丸井が紫希の服の裾を引き止めている。
「・・・あの、」
「んぐ・・・待っへな。もうひょっほでふいおわふかあ。」
「?」
「そのパン食べ終わったらついて行くから、もう少し待って欲しいんだと。」
「え・・・」
何故よ。
「いえ、あの、良いです丸井君!そんなつもりで此処に来たわけじゃ、ご迷惑ですし、」
「ふいふい。」
「流さないで下さい・・・!」
「諦めろ、春日。」
「桑原君!?」
思わぬ方向からの追撃。
桑原は困ったような微笑みで紫希を見た。
「ブン太は基本的に我儘だからな。こういう時は言い出したら聞かないぜ?」
「そんな・・・」
「・・・ぷは!あー、食った食った。御馳走様♪」
食べ終えてしまった。
「で?俺のどこが我儘だって?」
「さっきから我儘しか通してないだろお前・・・」
「失礼な奴だなー。」
とか言いながら片づけしてる間に逃げられないかな、とか思って引っ張ってはみるけれど、
しっかと掴んでる丸井と伸びるかもと思って力を籠めきれない紫希では、勝敗は明らか。
「おし、こんな失礼な奴は放っといて、黒崎探しに行くか!」
「いえ、あの、本当に、」
「じゃあジャッカル、後でな。」
「わかった分かった。」
「待って下さい、本当に大丈夫、」
1人で行けるから、というような旨の事を言う紫希の声は、あっという間に遠くなった。
背を押すのはのは良いけど気を付けてね、と桑原は内心で親友に言う。
「やれやれ。」
「振り回されてんなあ、桑原。」
「ああ・・・まあな。」
何が質悪いと言って、その振り回されるのが結構楽しいのだ。
だからいつもなんだかんだ許してしまう。
「あの赤い髪の、丸井?だっけか?彼奴はあの子の事好きなわけ?」
「いや。」
多分、そこまではっきりと・・・というか、ちゃんと考えてないと思う。
丸井はあんまり重い話を考えたりとか、深刻に悩んだりとかしない。
出来ないわけじゃない。
出来るけど、必要に迫られない限り進んではやらないのだ。
だから紫希に対しても、自分は紫希を好きなんだろうかとかそういう事を考えて、その上で構ってるとかそういうわけじゃない。
構いたい人に、構いたいように構う。
丸井の基本スタンスはそれ。
今の丸井にとって紫希は多分、今迄周りに居なかった大人しいタイプの女子だから、反応が新鮮でいちいち楽しいのだろう。
なのに紫希はそれと知らず引いて行ってしまうから、今みたいに構うチャンスがあると余計構いたくなるのだ。
問題はそこからである。
今は新鮮かもしれない。
で、その後丸井が慣れた暁に、あの2人はお互いの事どう思うようになるのだろうか。
「彼奴飽き性だからな・・・」
「マジ?」
「あ、聞こえてたか・・・まあ。飽きっぽい方なのは本当だけど。」
「・・・浮気性だったりとか、すんの?」
「浮気性?」
「ほらあの、さっきの子に限った話じゃないけどさ。女子関連の話で。」
それを言われると。
それを言われると残念ながらだな。
「・・・そうだな、あんまり長くは続かないな。」
「マジか!?」
「あ、別に釣った魚に餌やらないとか、そういうわけじゃないぜ?浮気とか二股とかもしないし。ただ、小学校の頃も2人位付き合ってたけど、その内なんか前ほど楽しくなくなってきたとか言い出す様になって、別れて・・・」
「うーわ、軽。」
「いや、軽いというかなんというか、そのだな・・・」
なんと言ったら良いんだろうか。
確かに軽く見えるかもしれないけど、別に丸井だって最初からバイバイするつもりで付き合うわけじゃない。
楽しくなくなってきたと思うのも、確かに相手は可哀想だが、仕方がないじゃないか。
正しい正しくないに関わらず、人間が思う事に強制なんて出来ないのだから。
彼女と過ごして楽しいと思わないなんて酷い!そんな事思うな!って言ったって、人の心は変えられない。
どんなに言動とか行動を縛ったって、感情だけは誰にも操れない。
だから恋というやつはえげつない。
「・・・実はさあ。」
「ん?」
「このクラスにも何人か居るんだぜ?丸井ってちょっと良くない?とかって言ってる女子。」
「ああ。」
「そいつらも何時かそんな風になんのかなー。」
「大半はならねえよ、安心しろ。」
「あれ?そうなの?」
「好きにはなっても、告白まで出来る奴はそうは居ないからな。」