昼休み。
今日も忍足と勉強だと思いつつ、部室棟に行くと。
「・・・あれっ?茉奈花ちゃん?」
「お疲れ様、可憐ちゃん♪」
網代が1人、座って手を振っていた。
「今日、侑士君用事があって。ちょっと遅れる・・・か、もしくは来れないか、みたいな感じらしいの。だから私が代わりに、ね?LINE入ってなかった?」
「えっ?あっ!通知気づいてなかった・・・!」
「ふふふっ!まあ、そういうわけだから。今日は私と、ね?」
「分かった!よろしくね茉奈花ちゃんっ!」
「ええ。」
いそいそと勉強の準備を始める可憐。
その額にガーゼを見る度、網代は痛々しい思いがする。
「・・・ごめんね。」
「えっ?」
「やっぱり、連絡を直ぐしておけば良かったのよね。木崎さんの事。」
可憐は、木崎と神宮がクラスメイトである、という情報だけを持って探しに行ってしまった。
2人の関係・・・仲が良いのかはたまた悪いのか、其処までは知らなかった。
あんな因縁めいた関係があるのであれば、発覚した時点で神宮の話題はタブーと連絡しておけば、こんな事にはならなかったかもしれないのに。
「そんなの、茉奈花ちゃんの所為じゃないよっ!」
「でも・・・」
「本当だよ!もし連絡を受けてたとしても私、私・・・」
「・・・可憐ちゃん?」
「・・・ねえ、茉奈花ちゃん?」
「うん?」
「恋って、なあに?」
網代はキョトンとした顔で可憐を見返した。
「・・・えっと、それはどういう意味合いで、かな?」
「うーん、あのねっ?私、初恋は誰?って言われると、小学校の頃、クラスで人気者だった男の子だった、と思うんだ。多分。」
かっこいいと思っていた。席替えなんかで隣になると嬉しかったし、友達未満の関係だったから会話とかは少なかったけど、挨拶を交わすだけでちょっとドキドキした。
でも、告白までしようと思った事はない。
彼女が居るという噂が流れた時も、そりゃあ少しはショックだったし残念だったけど、その事を連日引きずったりとか、相手の子が嫌いで堪らなくなったりとか、そこまで思った事は無い。
「でも、千歳ちゃんはその・・・私の初恋とかとは、多分違うんだよねっ?どっちも恋だけどそのう・・・程度が違うって言うか。」
「ああ、なんとなく分かったわ。そういう事、ね。」
網代はううん・・・と考え出した。
そのちょっと悩む横顔が綺麗で、可憐は思わずちょっと見惚れてしまう。
(・・・茉奈花ちゃんって、モテるよね。可愛いもん。恋の話とか詳しそう・・・)
「・・・可憐ちゃん、そんなに見つめられたらちょっと恥ずかしい、な。」
「えっ!?あああっ!ご、ごめんね、茉奈花ちゃん可愛いからつい・・・」
「ふふふっ、ありがと♪さっきの話だけど、そうね私の意見だけれど。先ず、可憐ちゃんの初恋も、木崎さんの恋も、恋には違いないと思うわ。」
「うんうん。」
「でもやっぱり、さっき可憐ちゃんが言ったみたいに程度と言うか・・・入れ込み方が違うのよ多分。」
「入れ込み方・・・」
「恋に限った話じゃないけれどね?何かに夢中になるのは良いけれど、あんまりそれが過ぎると視野は狭くなるし、形振り構わなくなるし。それが世界の全部みたいに錯覚しちゃうから、ね。」
「・・・成程・・・」
確かにそれは、木崎の様子を思い出すと的を射ている意見だと思う。
「だから、言っても詮無い事だけど。本当は木崎さんも、木崎さん自身の為に、もう少し周りを見た方が良いと思うんだけどな。」
「そうだねっ。要らないトラブルも少なくなるし。」
「うん。それに、カウンターも食らわないで済むから。」
(え?)
今何か、唐突な単語が。
「カウンター?」
「ふふっ。要はしっぺ返しよ。入れ込んだら入れ込んだだけ、思い通りにいかなかった時辛いもの。特に恋愛は、ね。」
「・・・そうなの?」
「そうよ。勉強や仕事なんかと違って、自分一人の努力じゃどうにもならない事だから。」
「・・・・・・」
「あ。断っておくけど、私がそういう恋をしたわけじゃないわよ?」
「あ、そうなんだ・・・」
良かった。
過去に壮絶な恋愛をして、その古傷をまたも知らない間に抉ってしまったのかと思った。
ホッと溜息を吐く可憐に、網代はくすくす笑った。
「ごめんね、驚かせちゃって?」
「吃驚したよ~。」
「うふふっ。でも、そういう恋を見てきたのは本当よ?」
「見てきた・・・?」
「うーん、昔からなんだけど、ね。恋の相談って奴を、良くされるの。」
「あ、でも分かるなっ!茉奈花ちゃんって、頼りがいのあるお姉さんって感じっ!」
どんな恋の相談でも、網代ならドーン!と受け止めてくれそうだ。
現に自分が今こうして、自分の恋の事ではないにしろ、意見を伺ってしまっているし。
「有難う♪それでね、色んな子が一生懸命恋をするのを見てきたけど・・・やっぱり恋って、どんなにスムーズな恋でも、必ずどこかで一時は嫌な思いしなくちゃいけないのよ。」
「・・・そうなの?」
「ええ。最終的に両思いになるとしても、ね?例えば好きな人が他の異性と仲良くしているだけで嫌な気持ちになって、今度はそんな自分が嫌になってしまって。」
(あ・・・・)
ドキン、と心臓が嫌な音を立てた。
覚えがある様な、その感覚。
いや、違う違う。
あれは寂しかっただけ。
だってほら、今は平気じゃないか。
「そんなよくある悩みだけでも、皆とっても苦しむの。なのに、頑張った挙句振られちゃった時なんて、もう、ね。目も当てられないわ。」
「・・・・そっ、か。」
「そう。頑張ったら頑張っただけ、敗れた時辛いの。苦しくて、悔しくて、泣いても泣いても、まだ泣き足りなくて。」
それを、見てきた。
想像するだけでも、辛いのだろうとは窺い知れるけれど、耳で聞いて目で見てきた網代には、それが殊の外リアルに感じられていた。
「・・・私はあんな風になりたくない。」
「えっ?ごめん、何か言ったっ?良く聞こえなかったんだけど・・・」
網代はニッコリ笑った。
「何も言ってないわよ?気の所為じゃないかしら。」
「そう?」
「ええ。えーと、つまり結論としては、木崎さんはちょっと熱を上げ過ぎだから、って事ね。」
「うん・・・・」
でも。
「・・・でも、ちょっと羨ましいな。」
「え?」
「そんなにまで好きになれる人が居て、片思いしてるって、どんな感じなんだろうって。きっと、悲しい事だけじゃないんだよね?」
悲しい事だけじゃ、恋にはならない。
良い事が。
その人との間にしかない、とびきりの嬉しい事があるから、あんな風に恋が出来るのだと思う。
それは自分が何も知らないからかもとも思ってる。
どのくらい辛いのかも知らないで、みたいな風に思われてもしょうがないけど、それでも。
「恋してみたいなあ・・・そんな人と。」
可憐の瞳に浮かぶ夢の色に、網代はくすっと微笑ましげに笑った。
「今、止めた方が良いって話、したつもりだったんだけどな~?」
「あ!えと、違うの、あくまで私はっていうかっ!」
「うふふっ。良いのよ、可憐ちゃんの考え方なんだから。」
「そう、かなっ?私の方が、そういうの疎いって分かってるんだけど・・・」
「あら、私だって自分の経験っていう意味では、大した事ないわよ?」
「そう・・・?なの・・・?」
「うん。彼氏もね~、告白は何度かされた事あったけど、お付き合いは良いかな?って思う人ばっかりで。」
(告白何度もされるっていう時点で凄いと思うなあ・・・!)
可憐は生まれてからこの方、告白なんてした事もされた事も一度も無い。
「そうなんだ・・・」
「うん。うふふっ♪・・・そうだ。」
「?」
「ねえ、もしも、だけどね?」
「うん。」
「私に恋の悩みが出来たら・・・可憐ちゃん、相談に乗ってくれる?」
それが。
その問いが。
その問いに、Yes、と答える事が。
「うんっ!勿論だよっ!」
何を意味するのか、可憐はまだ知らない。