「恋かあ。」
滝は顎に軽く手を添えて思案し始めた。
今は部活中。
ドリンクを取りに鉢合わせた際、可憐は滝にも聞いてみる事にしたのだ。
「まあ、今回の怪我の件は極端な例としても、恋をすると周りが見えなくなるとは言うよね。」
「ああっ!そうだね、言うねっ!」
「後これは好きな人に対してだけど、恋は盲目とか痘痕もえくぼとか・・・ある意味では、常にパニック状態みたいなものなのかも。」
「パニック・・・」
「恋愛なんて脳が錯覚を起こしているだけ、って説もあるしね。何処か冷静じゃないんだろうね。」
「ううん・・・なんだか科学的だねっ。」
「ははは。ごめんごめん、ちょっとロマンに欠けちゃったかな?」
「あははっ!確かにロマンチックじゃないけれど・・・でも初めて聞く意見だったよっ!有難う滝君っ!」
「ううん、どういたしまして。」
「えええ・・・なんつうか凄え難しいぞ・・・」
「あ、あのっ、無理しないでっ!私が勝手に参考にしたいだけだからっ!」
次のご意見番、宍戸はこの手の話題が得意じゃない。
「っつうか、恋なんて好きだから、ってだけじゃ駄目なのかよ?」
「ううん、その好きっていうのにも色々あるんじゃないかな、と思ったんだけど・・・」
「だから、それだけ好きなんだろ?木崎は神宮に対してイライラするくらい、強く思ってるって事じゃねえのか?」
「そっか・・・」
非常にシンプルな答えである。
これもまた宍戸らしい意見だ。
「・・・あ。でも。」
「え?」
「木崎は病気してたから、それの絡みもあるのかもしんねえな。」
「病気の時に優しくしてくれたから?って事っ?」
「おう。ほら、病気の時って、やっぱり心細いじゃねえか。大きな病気なら治っても、本当に治ったのか?って不安にも思うだろうし。そういう時に優しくされたら、普通以上に好きになっちまうのかもな。」
「成程・・・」
これは木崎の側に立った意見である。
「・・・宍戸君って優しいよねっ!」
「はあ!?なんだよいきなり!」
「あははっ!」
あれだけ怒っていたのに、それでもその怒ってる人の立場になる事が出来る。
それってすごく宍戸らしい優しさだと、可憐は思うのだった。
「あ、わあっ!」
ガ、と可憐はベンチに蹴躓いた。
「・・・うん?あ、桐生ちゃ~ん、おはよ~。」
「あたた・・・おはよう、芥川君っ!」
こうやって衝撃で揺り動かされて、芥川が束の間目覚めるのも良くある話。
「・・・ねえ、芥川君っ?」
「うん~?」
「芥川君は、恋ってどんなものだと思う?」
あまりに予想外な方向から飛んできた話に、芥川は寝そべったまま、珍しくもパチンと目を見開いた。
「恋?」
「そう、恋。」
「桐生ちゃん恋してるの?」
「違う違うっ!私の話じゃなくってっ!」
なんだ違うのか~、と言って芥川は朗らかに笑った。
「ん~・・・でも恋ってさ、なんかきっと良い感じだC~。」
「・・・良い感じ?」
「うん!だって、好きな人が居るんでしょ?そしたらきっと、その人を見たり声を聴いたり、一緒に居るだけでワックワクになれるんじゃないかな~。」
「おおお・・・!」
何気に正統派且つ、今迄出てこなかった意見である。
物事の良い面が大きく見える、楽天家の芥川らしい感性と言えよう。
「じゃ、じゃあっ!」
「?」
「好きな人に、他に仲の良い人が居たら、やっぱり嫌かなっ?」
「え~、そりゃ嫌でしょ!」
「や、やっぱりそれはそう思う?」
「だってさ~、好きなんだから一緒に居たいのに、その人は見てる前で他の人と仲良くしてるって事でしょ~?そんなの絶対、俺の方見て!ってなっちゃうC。」
「・・・そうだよね、それが普通だよね。」
やはり少々度が強いだけで、木崎が神宮を面白くないと思う気持ちそのものには、正当性があるように思う。
幾ら友達だからと言った所で、面白くないと思う気持ちは止められはすまい。
「俺そんな風になったら、きっと我慢出来ないな~。」
「我慢?」
「黙って見てる我慢。多分、俺そんなとこ見たらすっ飛んでいっちゃうな~。で、構ってって言っちゃいそう・・・って、恥かC~!かっこ悪いかも俺~!」
「・・・ううんっ!そんな事ないよっ!」
「そお?」
「うんっ!いつか・・・いつか芥川君にそんな日が来たら、今言った通りにしたら良いと思うっ!」
それがきっと、1番良いのだ。
シンプルで、傷つく人も少なくて。
そして1番、勇気の要る選択。
「面倒くさい。」
向日はバサーッと言った。
「めっ、面倒くさいっ!?」
「いや、別に恋愛そのものがじゃねーぞ?俺だって基本的には、ジローの言ってた事に賛成。」
「そうなのっ?」
「おう。俺だって、可愛い彼女が出来てデートとかしてみてーな、楽しいだろーな、って普通に思うもん。でも!」
向日はジトッとした目つきになった。
「お前が今言ってんのって、木崎や神宮の話題だろ?」
「そうだけど・・・」
「彼奴ら、本っ当面倒くせえ!別に好きな奴被ってるわけでもねえのに、お互い勝手な事して嫌い合って、あんなイジイジした人間関係で良く生活出来んなって思うぞ俺は!」
「う、ううん・・・」
再三言うが。向日も気持ちは分からないでもない。
でも、それを差し引いても今の状況はあまりに重苦しくないかと思うのだ。
それならもうちょっとどこかで妥協しあって、シンプルで明るい環境の中で恋したら良いのにと向日は思えてならない。
放っておけば良いのだけど、今回は身内が巻き込まれてしまったからーーーー
「・・・・・・」
「・・・向日君っ?」
「ん、いや。なんでもねー。」
「そう?」
そうだった。
現在進行形でもう巻き込まれているのだった。
いや、まだそんなややこしい恋にはなってない筈。
網代が忍足を好きだと言うのは聞いた。
忍足は多分、網代が好き。
だから、可憐は。
(・・・極端な話、桐生が誰を好きだろうと、関係ねーんだよな多分。)
だって忍足と網代は、あっちだけで話が完結するのだから。
だから友人として可憐を気の毒には思うけど、可憐に出来る事は無い。
無い。
無い筈だ、多分。
そうだそうに違いないんだ、と言い聞かせる向日の心は、抜群の勘で警鐘を鳴らしている。
そんなシンプルに片付く問題じゃないぞ、と。