泥仕合ってレベルじゃねえぞ!
な収集のつかない千百合の自慢大会ゲームは、言うまでもなく千百合が勝利しパネルを落とした。
別にパネルなんて落ちなくても良い・・・その要らない力の抜けたコンディションが、却ってミラクルな返球の要因になったのだろう。
続く真田は3枚目。ラストボードの1番を落とし、紀伊梨も3枚目のボードの4番を落とした。
さて。
次である。
「あ、あのう、幸村君・・・」
「うん?」
なんだい春日、と応対する幸村はいつも通りの笑顔。
いつも通りの声音の筈なのに。
「あの、お気持ちは分かりますから、ゲームの間は冷静に・・・」
「大丈夫、俺は冷静だよ。寧ろいつもよりも頭が冷えて、冴えかえってる感じがするくらいだ。」
(冷静じゃありません!それは冷静じゃありませんよ幸村君!)
いや、ある意味では冷静なのかもしれないけれど。
ある意味では。
「あれ・・・幸村君、怒ってる?んだよな?」
「ああ。俺もあんなに怒りを露わにした幸村は初めて見る。試合でも見せた事が無い・・・」
「まあ・・・この手の怒りは、試合に負けたなどとの悔しさとはおおいに別物でしょうから。無理もありませんね。」
「・・・・・・・」
「柳、文句言わないの。そいつ腰にしがみついてるけど。」
「此処まで怯えていると、流石に引っ付くなとは言えない。」
「お、おい五十嵐?大丈夫か?」
「こあい・・・こあい・・・ゆっきーこあい・・・!」
「・・・・・」
「お前もいつになく静かだな仁王・・・」
「今生まれて初めて、本気で身の危険っちゅう奴を感じとるんじゃ。」
「・・・・・・」
勿論、GM棗も同様である。
冷や汗でキーボードがびちょびちょだ。
「棗。」
ああ、顔が上げられない。
怖いよ。
「どうしたんだい?準備は良いよ。」
「あ・・・はい・・・」
パシュ、と出て来るボール。
その軌道が、なんだか急にスローに見える。
なんて打ち頃なんだろう、打った後のボールの軌道まで見えるようだ。
9番。
9番が良いな。後続が助かるだろうし。
それに角度が丁度良い。
(・・・あれ?丁度良い?何が?)
幸村がハッと我に返った時にはもう遅かった。
バガァン!
仁王。危ないです。避けろ。
口々に色んな人がそう言ったのを仁王の鼓膜が拾った時には、もう遅かった。
ボードに当たって跳ねかえった返球は、シュゴォッ、という空を切る音と共に仁王の頬と髪を数本切り、更に後方にあった枯れた噴水に勢いよく跳ね返って跡を残した。
カラン、カラン、カラン。
1拍送れて何の音か。
衝撃の所為でパネルが他に3枚落ちた音である。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・!」
幸村は慌てて仁王を振り返った。
「仁王!」
「!な、な、なんじゃ、」
「ごめんね、大丈夫かい!?当たっていない!?」
「き、気にせんでええナリ・・・」
辛うじて直撃は避けたし。
ほっぺはちょっと切れたけど。血が伝ってるのが感触で分かるけど。
「本当にすまない、そんなつもりじゃなかったんだ。」
(じゃあどんなつもりだったんじゃ・・・)
「ただ、角度的に9番に当てればあっちへ飛んでいくなと思ったらつい、体が勝手に。」
(つい、で殺されかけたんか俺は・・・)
「ごめん。本当にごめんね。」
「い、いや、ええんじゃ。そもそもは俺が悪いダニ・・・」
すまながって、近づいて来て謝ってくる幸村だが、頼むから今こっち来ないで欲しい。怖い。
「ああ、仁王君血が・・・ええと、救急箱、救急箱は・・・棗君、救急箱はどこでしたっけ?」
「・・・・・・」
「棗君!棗君、大丈夫ですか!帰って来てください、棗君!」
「放っておけば良いって。寧ろ死ねば良い。」
「そ、そういうわけにも・・・」
「ほう。今の打球を受けても、歪まない枠とはな。」
「此処が、元々サバイバルゲーム会場である、というのが幸いしたのだろう。衝撃を受けても、ある程度までは耐えうるように元々作られているわけだ。」
「成程・・・」
「・・・なんなら、分析しようか?」
「出来るのか!?」
「ああ。お前は先日、マシンを壊したばかりだからな。設備にもある程度の丈夫さが必要、と考えていた所だ。」
「すまない、柳・・・」
「いや、何。パワーがあるのは良い事さ。」
「・・・真田君と柳君は、何を話しておいでなのです?」
「雲の上の話ってやつかな・・・」
「あー・・・・怖かったあああ~・・・」
「おい、安心すんのは良いけど、地面に座るな。汚れるだろい。」
「汚れてもいいも~ん。そんな事よりゆっきーの気が済んだ事の方が大事だよ~・・・」
滅多に怒らない人間が怒ると怖い、をこれほど地でいく人間も他に居るまい。
そのくらい怒った幸村は怖い。
「あの・・・幸村さん。」
「うん?」
「ゲームの方・・・進めてよろしいでしょうかね・・・?」
「ああ、うん。そうだったね。じゃあ仁王、又後で。」
(遠慮したい)
【任意の人間を2人選び】
「仁王・・・」
「・・・!」
「・・・は、さっき当てられてたから止めた方が良いね。」
ホッと溜息を吐く仁王。
あの飄々とした仁王が、ここまではっきりと怯えている辺りに、いかに幸村が怖いかという事が端的に表れている気がする。
「じゃあ、柳に・・・折角だから柳生。良いかな?」
「分かった。」
「はい、勿論。」
【何か質問する】
「これは、柳がやっていたのと同じだね?」
「そうねw質問系は何度かやっても面白いから。」
「成程。」
なら、自分の質問は1つ。
「じゃあ、好きな女の子のタイプは?」
「「「「「!?」」」」」
何人かの間に動揺が走った。
穏やかな態度で何をいきなり。
「・・・幸村にしては、なんというか俗っぽい質問だな。」
「実はさっき、柳生とこの話になってね。ゲームで機会があれば聞こうと思ってたんだ。」
「ええ。しかし本当に聞かれてしまうとは・・・」
別に良いんだけど、ちょっと恥ずかしい。
出来れば避けていたかった話題だ。
「ふふっ。駄目だよ、ゲームだからね。リーダーとしても、チームの為にちゃんと答えて貰わないと。」
「ええ、分かっています。しかし・・・そうですね、一言で端的に言うなら・・・」
「無理して纏めんでも、長々と語ってくれて構わんぜよ。」
「お前本っっ当に立ち直り早えな!」
丸井はいっそ感心する。
あれだけさっきまで怯えていたのに、もう仁王は気を取り直している。
起き上がりこぼしばりの打たれ強さである。
「仁王君。」
「ん?」
「あの、ほっぺの方。血が出ているので、消毒を。」
「ああ、悪いな。そんじゃ頼もうかの。」
「・・・・・・」
仁王に手当する紫希。
その光景に、近づく癖に全力で目逸らしする者が1人。
紀伊梨である。
「あの、紀伊梨ちゃん、あまり無理しないで・・・」
「い、いやいや?ほら、心配じゃないですかー!ニオニオはリーダーだし・・・」
「どうしたナリ、急にきょどって。」
「そ、それにほら、死んじゃうかもしれないし?」
「なんで俺が死ななきゃならんのじゃ。」
「だって血が出てるじゃん!」
心配だから近づいてしまうのだが、血は怖いから見たくない。
「そんな傷で大事になる方が難しいだろい。」
「大事とかそういう事じゃないのー!痛そうなのー!痛いの嫌なのー!」
「ほーお・・・そうか、お前さんは血が怖いんか。そうか。」
「仁王君・・・」
頼むから懲りて下さい。
周りの心の叫びだろうが、そんなの丸無視するのが仁王という男である。
「・・・はい。出来ました。」
「すまん。」
「五十嵐、絆創膏貼ったぜ。」
「おお!」
ニオニオ大丈夫?痛い?とか言って、急に平常運転になる紀伊梨。
「五十嵐。」
「うにゅ?」
「ほれ・・・」
「止めてえええ!剥がそうとしないでえええ!」
「に、仁王君!」
「逆に凄えな。感心するだろい。」
人をおちょくる為なら自分の体を張る事を厭わない。
ここまで根性見せられると、一周回って見直してしまう。