Solicitation:Break time 2 - 6/6


「私柳生のチームが良い。あんたのチーム嫌。」

何を言う前から、もう待ち構えていたかのようにバッサリ切って落とす千百合。

「嫌われたもんじゃのう。傷つくナリ。」
「どの口が言うのだ、どの口が!」

「まあ、千百合としては当然の反応だね。」
「でしょうね。私も黒崎さんは此方を希望して頂けると思っていましたよ。」

さしもの真田も、この件に関しては千百合の側に一も二もなく回る。
1個目のゲームを踏まえて、ランダムでもなんでもなく勧誘合戦されるとしたら、仁王にすっかり協力する気0を通り越してマイナスになっている千百合は勿論柳生を選ぶだろう。

「でも妹ー、それはちょっとどうかと思うよ?」
「ああ?」
「睨むなよう、悪かったって・・・でもさ、お前らは原則くじとかじゃなくてドラフトで選ばれてくわけじゃん?だから仁王は嫌だ柳生が良いって言ってこれから先の3戦、ずっとお前柳生チームに居る気なの?」
「・・・・・・・」
「・・・確かに、そうなるとゲームバランスに関わってくる事は避けられないだろうね。」

棗に言われるのも癪だが、基本的にはこの意見は正論である。

そもそもの根本の話を考えるなら、今日一日のこの催しは仁王の為であり、テニス部の為なのだ。
だから長い目で見て、此処は怒りを抑えるのが全員の為なのである。

「むう・・・」
「不満そうですね、真田君?」
「無論だ!黒崎棗の言う事に理があるのは確かだが、言うなれば被害者側である黒崎千百合が折れねばならないという成り行きは、理不尽ではないか。」
「そうですね。私も真田君の意見に賛成です。ゲームバランスの為だから、後後の事を考えるとそちらの方が良いから、などと言い続ける方は楽かもしれませんが、その陰で我慢を強いられる人が出てしまうわけですから。」

「んん・・・此処まで話が大きくなってしまうとは、予想外ぜよ。」
「寧ろなんで予想外なのかそっちを聞きたいわ私。」

今この場には正論しかない。
棗の言う事も正しいし、一方で真田の主張も正しい。

皆と仲良くゲームに興じて柳生にテニス部に入って貰う、という目的の、「皆と仲良く」の部分に軸足を置いているのが真田の意見。「ゲームに興じて」の部分に軸足を置いているのが棗の意見。
あちらを立てればこちらが立たず。

「分かった。」

幸村がパン、と手を叩いた。

「なら、こうしよう。」
「どうするの?」
「先ず、今日の目的のゲーム性が損なわれるのは千百合も避けたいだろう?だから、今回のこの件に関しては、もう手打ちという事にしよう。それよりも、どちらかというと再発防止を徹底すべきじゃないかな。」

千百合を良く知っている幸村は、その実千百合がそれほどもう怒ってない事を分かっている。元々過ぎた事をぐちぐち言うタイプではないし、事態が本末転倒になる事も千百合は好まない。

ただ、今許すと2度3度と同じ事になる事態がある。
千百合はそれを警戒して、仁王のチームに入りたがらないのだ。

「と、仰いますと?」
「今度ああいう事があった場合、ペナルティを付けよう。」
「ペナルティってお前・・・簡単に言うけど、実際どうすんのよ?」
「その時点でそのゲームは加害者側の敗北としてしまったらどうだ?」
「それは少々早計でしょう。重みとしては十分ですが、事と次第によっては驚くくらい早期に決着がついてしまう事態になり兼ねません。そう致しますと、本来の交流と言う目的が損なわれます。」
「じゃ、チームの誰かを1人相手側に寄越すっていうのは?」
「それもちょっとなー。単純に+1されるなら兎も角、移動となると-1と+1で人数差が2になっちゃうわけじゃん?そうなると力量差が付き過ぎて消化試合になるよ。」
「どんどん話がややこしい方へ向かうのう。もっとシンプルで良いんじゃなか?」
「「「誰の所為だ。」」」
「プリッ。」

発端の本人が一番けろっとしているというのはどういう事だろうか。
まあ仁王がしおらしくしている図というのも考えづらいのだが。

「いや。ゲーム絡みでペナルティを課すのは止そう。メリットもあるけれど、デメリットがどうしたって出てしまうからね。それに、巻き込まれるチームメイト側が気の毒だ。ちゃんと真面目に一生懸命やってるんだから。」
「じゃ、ゲーム外でペナルティするって事?」
「うん。具体的にだけど、おそらく何かペナルティを適用せざるを得ない事態になる時は、十中八九テニス部の誰かだと思うんだ。」

テニス部の誰かと言うか、ほぼ仁王だ。

「だから?」
「だから、

もし違反した場合その人は向こう1週間、試合形式の練習の時の相手は俺。という事でどうかな?」

ピシ。
と仁王と、同じくテニス部である真田の顔が固まった。

本気だ。
幸村は本気だ。

「お前仁王と1週間も試合すんのw」
「ふふっ。正直、ペナルティ云々を抜きにしても多少興味があるんだ。仁王は良く居なくなってしまうから、試合する機会が他の部員より少なくてね。柳もデータを取りたがっていたし、部にとっても良い事だよ。」
「でもそれって仁王のペナルティになってなくな・・・あんた達何固まってんの?」
「黒崎。」
「何よ。」
「悪かった、もう二度とああいう事はせん。」
「は?何急に。」
「どうしたwサボらずに練習するのがそんなに怖いのかw」

怖いのは練習ではない、幸村との連続試合である。

この完全無欠最強無敵の神の子様と1週間も試合、もとい一方的に敗北させられてみろ。
2、3日で「仁王、テニス辞めるってよ」な事態になる事受け合いだ。心が折れる。部活に居たくなくなる。

「まあ、良く分かんないけど私今の案で良いよ。ペナルティは部活での試合で有効っぽいし、この件はこれで終わりって事で。」
「分かりました。黒崎さんがそれで良いと仰るのでしたら、私共も異論はありません。他の皆さんもそうでしょう。ですよね、真田君・・・真田君?」
「・・・む?ああ。そうだな、俺も幸村がそう言うのならばそれで上手くいくだろうと思う。」
「オッケーwじゃあそれでいこうw」
「それを踏まえまして、黒崎さん。再度お聞きしますが、どちらのチームがよろしいですか?」
「そう・・・そうね、どうしよっか。」

今一度フラットな目で物を見た時、どちらに着きたいか。
紀伊梨と違って、紫希と千百合は仁王と柳生、どちらのチームにも1度づつ入っており、偏りが無い。

「でもやっぱり柳生かな。」
「因みに理由はなんじゃ?」
「だってあんた、それでなくても2ゲーム連続で女子2人入れてるじゃん。ここ等でバランスとっといた方が良いでしょ。」
「確かに、人数比という意味では偏っているね。」

千百合は基本、どっちでも良い。
どっちでも良いから、こういう時の判断基準はゲーム準拠になる。

「そういう理由で今向こうに着かれると辛いんじゃが。」
「知るか。」
「お前にべもないなw」
「ふふっ。因みに柳生、春日と五十嵐はどっちを希望してるんだい?」
「春日さんは仁王君。五十嵐さんは私をご希望です。割れましたので、このまま進めようかと。」
「となると、仁王側には春日が1人。柳生側には、五十嵐と黒崎千百合が付くという事だな。」
「ええ、そういう事になりますね。」

「紀伊梨と一緒か。」

千百合はぽつんと言った。

「嫌かい?」
「っていうか、なかなか紫希と一緒にならないなって。紀伊梨とは第一ゲームでも一緒になったけど。」
「ああ、確かに。でも、まだ2ゲームあるから、流石に何処かでは一緒になるよ。」
「まあ、そうか。最悪ドラフトだし、状況見て1回位紫希と一緒にしてくれって頼んでも良いかな。」
「・・・・・・」

徐にじっ・・・と千百合を見つめる幸村。

「・・・何?」
「俺と一緒のチームは希望してくれないのかい?」
「は、」

箸からお浸しが落ちて、もう一回弁当箱にお帰りなさいした。
良かった下に落ちなくて。

じゃなくて。
じゃなくてだな。

「・・・あのね、」
「ふふふっ。」
「何笑ってんのよ・・・」
「千百合が動揺してて可愛いと思って。」
「あんたね、」
「ああ、ごめん違った。動揺してる千百合も可愛い、が正しいね。日本語はちゃんと使わないと。」

囀ってんじゃない、と内心で悪態を呟いてみても、じわじわ顔に熱が上がって行くのはどうしても避けられない。

「チームの事は冗談だよ。冗談と言うか、一緒になれたら勿論嬉しいから嘘を言ったわけじゃないけれど、そんな気にしてるわけじゃないさ。ただ、春日が羨ましくてね。」

ちょっと拗ねてみたんだ、と言ってこれまた珍しく悪戯っぽく笑って見せる幸村は、本当に然程気にしているわけじゃない。
ただ、ちょっと拗ねたい気分になったから拗ねてみただけ。
序に可愛い恋人が、自分が拗ねると言う世にも珍しい事態にどういうリアクションするのか見たかった。

その余裕はがっちり千百合にも伝わっている。
だから人の反応で面白がりやがってという腹立ちと、まがりなりにも妬いてくれているという嬉しさと、それから拗ねて見せる幸村と言うのが珍しいのは確かなので、ある意味では良いものを見たと言う3竦みの感情がせめぎ合い。

「千百合っちー!」
「・・・・・・・」
「紫希ぴょんがフルーツポンチゼリー作って来てくれてたよ!あっちで一緒に・・・あり?どったの?」
「なんでもない。」
「そお?・・・って、あー!千百合っち、それ紀伊梨ちゃんのゼリー!」
「思い出した。」
「何を!?何が!?」
「今日お前に紫希のデザートは食べさせないって決めたんだった。」
「何故よ!?あー!止めて!無くなる!止めて!」
「ふう、御馳走様。さて、紫希に私の分のゼリー貰って来よう。」
「今食べたでしょ!?ねえ、どーしてー!紀伊梨ちゃん何かした、あー!ブンブン余り食べないでー!紀伊梨ちゃんの分が無くなるから!本気で無くなるから!」

「どうやら、フレンドリーファイアの件の意趣返しのようですね。」
「彼奴も黙ってやられてる性格はしてないからなw」
「やり返されとる本人は、何がよろしくなかったのか分かっとらんようじゃがの。」
「あれは放っておいて良いのか?」
「良いんじゃないかな。最終的には、五十嵐にもちゃんとゼリーが回るよ。」

勿論、ゼリーが回るのはそうしないと紫希が自分の分を譲ってしまうからであって、
フレンドリーファイアが許容されたからではない。断じて。