Solicitation:3rd game 1 - 1/5



「気の毒ねえ。」
「どういう意味だ?」
「この面子はあっちにはきついんじゃない、って話。」

千百合と柳は、あちこちにボールが設置されているボールだらけの廃墟の中を並んで歩いていた。

昼食兼ドラフトを終え、テニス部メンバー分けのくじを引いて、リーダー同士でジャンケン。
どちらが泥棒側でどちらが警察側かという所まで決めて、ゲームスタートと相成ったわけだが。

「それはスペックという意味合いでの話か?」
「スペックっていう意味ならテニス部多い向こうのが有利でしょ。じゃなくて、仁王が泥棒で警察が柳生とか凄いそのまんまだなと思って。」
「成程。確かにしっくりくるな。」
「でしょ?引き換え、あっちには紫希とか桑原とか、雰囲気に呑まれるっていうか「悪い事して追われる立場」ってのに慣れて無さそうな奴も居るし。」

そう。今、仁王チームは泥棒側。メンバーは紫希と、テニス部からは丸井に真田、それから桑原である。
逆に警察側は柳生をリーダーとして紀伊梨に千百合。テニス部からは幸村と柳だ。

「少なくとも私だったら一気に萎える。」
「ほう?」
「だって、紀伊梨は兎も角このメンバーに追われるとか嫌。柳生もあんたも精市も、逃がしてくれなさそうじゃん。」
「・・・・・・」
「何?・・・あ。」

しまった。
やってしまった。

誰も居ないし柳だしという安心感が、うっかり千百合の口から「幸村」でなくて「精市」を引っ張り出す。

「・・・くっそ。」
「気にしなくて良い。俺としては寧ろ喜ばしい。」
「は?」
「お前が2人の時は幸村を名前で呼んでいる事には薄々気が付いていた。だからこそ逆に、俺達の前で幸村と呼んでいる所を見ているにつけ、お前からのある種の警戒心の様な物を感じていたんだ。」

今のメンバーに、幸村と千百合が恋人同士である事を知らない者など居ない。
にも関わらず、千百合は頑なに幸村の事を「幸村」と呼び続ける。

勿論恥ずかしい気持ちはとてもよく分かるが、それは裏を返すと「此奴らの前で恥を晒せない」という、千百合のバリアの様な心理に起因していると柳は感じていた。

「だから幸村がどうのと言うよりは、単純に友人としてお前との距離が縮まっているのが分かって喜ばしいんだ。」
「はー・・・成程ね。」

そう言われると納得する。

「なんかごめん。そういうつもりで名前呼びしてなかったわけじゃないんだけど。」
「いや、黒崎にそういうつもりがなかった事も分かっているさ。これは深層心理と言うか無意識・・・言うなればお前の理性の外にある発想だからな。」
「無意識ねえ。」

無意識と言う奴は難しい。
自分でどうにもならない部分だから無意識と言うのであって、それ故にコントロールが出来ない。

「でも私、柳の事はこれでも結構信頼してんのよ。しっかりしてるし、落ち着いてるし。」
「そうか?それは光栄だ。俺もお前の事は安心して見ていられる。」
「・・・・・・・・」
「?なんだ、何かおかしな事でも言ったか?」
「・・・いや、本当かよと思って。」

柳と関わる時千百合は大概幸村とも一緒に居る。
なので非常に不本意だが、柳には格好悪い所ももう既にちょくちょく見られているわけで、だからお前本当に私の事安心して見てるのかよ、と疑ってしまうのだ。

疑心で色づく眼で柳を見やると、柳はクスッと笑った。

「あまり気にしなくて良い。」
「どうだか・・・」
「確かに幸村と関わる時のお前は平常心とはとても言い難い。」
「おい。」
「ただ、恋人の前では誰しも多かれ少なかれ体裁が乱れる物だ。偶々俺達の中で内部に恋人が居るのがお前達だけだから目につくだけなのであって、本質的には誰もそう変わらない。」
「ふうん・・・柳も?」
「勿論だ。もしもいつか恋人が出来たとしたら、俺も似たような事になるだろうとは思っている。」
「へえ。」

柳らしい意見だと思う。
感情を踏まえつつ、あくまでロジカルに物事を見ている辺りが。

(逆に柳って好きな人が出来たら、それこそこういう筋道だった物の考えが出来なくなったりとかすんのかしら・・・)

そんな事あり得るか、と本気で思うが、まあ柳の言う通り体裁が崩れるのが恋愛ならそうなるという事になる。
それにしたって想像が難しすぎて全然ピンと来ないが。

「・・・待て。」
「え?ごめん何、聞いてなかっーーー」
「物音がした。」