「・・・・・い、よっしゃあああああ!!!」
高らかに万歳をする紀伊梨。
の、頭を柳は持っていた私物のファイルで叩いた。
「痛!」
「今の俺が加えた力加減、及びこのファイルの質量と密度から言って、痛いというのはお前の過剰反応である確率、98.4%だ。それから、職員室前では騒ぐな。」
「はーい・・・」
紀伊梨は課題を職員室に届け終えた所であった。
勿論柳に見て貰ったので、点数は満点だ。
逆に手伝って貰ったのがバレはしないかと少しビクビクしていた紀伊梨だが、教科書迄見て良いと言われてるのに100点取れない方がおかしいのだから問題はあるまい、というのが柳の見解である。
「さてさて、今のお時間は・・・おおお!凄い!早いよ!まだお昼休み20分しか経ってないよ!」
「今の課題は、1年生に生徒を絞ったとしても凡そ8割の生徒が2分で片付けられる確率93.256%。」
「・・・良く分かんない!」
「つまり、十分時間がかかったという事だ。」
「えー!」
会ってからの僅かな間で、ある意味で柳は紀伊梨に感心さえ抱いていた。
よくもまあ此処までころころ表情を変えられるものだ。
今だってちょっとぶすくれていたかと思いきや、パッとスイッチが入るように笑顔になる。
「ま、良いや!もしかしたら始まる迄に間に合うかもしれないしっ!」
(始まる迄・・・?)
始まる迄も何も、紀伊梨が居なければ始まらないのではないのか。
どういう事なのか聞こうとした柳は、いつの間にか腕を紀伊梨に取られていた。
「・・・聞きたいんだが、俺は何故お前に手を引かれて居るんだ?」
「え、やなぎーもライブ行こうよ。」
「何故そうなる。」
「良いじゃん良いじゃん!お世話になったし、ゆっきーのお友達なんだし!」
「それとこれとは関係ないだろう。」
「良いのー!それとも嫌?何か用事ある?」
無いのだが、此処で無いと言うと連れて行かれる。
どうしたものか、なんて考えている間に、紀伊梨はぐいぐい柳を引っ張って音楽室へと歩みを進めていく。
「俺が行っても招かれざる客になるだけではないか?」
「招かれ・・・?」
「・・・邪魔じゃないかという事だ。」
この会話のしにくさはどうにかならないだろうか、なんて柳が考えている事など露知らず、紀伊梨はニッと笑った。
「なーんだ!そんな事気にしなくて良いってー!」
「しかしだな、」
「やなぎーの事邪魔だなんて思う人なんか居ないよー!やなぎーは良い奴だもーん!」
「良い奴・・・」
なんとまあ、陳腐かつ自分にそぐわない響き。
別に取り立てて意地悪なわけじゃないが、常日頃どちらかというと「凄い奴」「細かい奴」「頭の良い奴」などと言われる方が圧倒的に多い柳にとって、「良い奴」というのは今迄ありそうでなかった評価だった。
(・・・だが、そうだな。)
「・・・・・・」
「およ?どしたの黙っちゃって。」
「・・・いや。」
悪い気はしないな。
そう思った柳の足が自主的に歩き出したのを見て、紀伊梨は笑顔を尚更明るくするのだった。