Encounter 2 - 6/6


自販機の前。

・・・を、少し過ぎた所で千百合はちょっと立ち止まっていた。

其処から動かない千百合の目の前を、制服姿の女生徒が何人か連れ立って横切って行った。



「早く早く!幸村君の試合始まっちゃうよ~!」
「ちょっと待ってよ、そんなに走らなくても・・・」
「何言ってるの!早くいかないと、皆フェンスにへばりついちゃって何にも見えないじゃない!」

「・・・・はーあ。」

溜息を禁じ得ない。

この自販機。

の、裏側に回って、そのまま真っ直ぐ行けば男子テニス部の部活が見えるスポット迄辿り着ける。

でも嫌だ。
行きたくない。

「・・・・・・」

上履きを履いた自分の爪先と、ぴったり延長線上にある自販機の角を見つめて、千百合は考えていた。

どうしてこんなに頑なになるのか?

それは恥ずかしいのもあるが、それ以上にこの手の無理は続かない事を分かっているからだ。

一回、二回、その場その場で済む無理ならば幾らでもしよう。
でも、そうじゃない。
これから先、幸村も自分も成長して行って、世界は広がるし関わる人も増えていく。

今はまだその始まりに過ぎないのに、今の時点で焦っていてどうする?
そんな事で付き合いを続けられるか?
そうする事でしか続かない恋人関係なんて、どちらにしろいずれ破綻するのではないだろうか。

(・・・私は、私のしたい事しか頑張らない。精市にも、精市のしたい事をしてて欲しい。)

千百合は信じたいのだった。
あるがままの自分とあるがままの幸村の2人で、きっとやっていけると。

いつか無理をしなければいけない日が来るかもしれないけれど、それは多分今じゃない。
こんな所で躓くようでは駄目だ。
今みたいな会話くらい、余裕綽々で流せるようじゃないと。

まあ、それはそれとして気になるものは気になる。それは認める。
だから一生懸命普段通りを続けているけれど、突っ込まれるとどうしても焦ってしまって気にしてしまって、ボロが出てこんな自販機迄来てしまうのだ。

多分、紫希は此処まで分かってくれている。
だからあまり強く言っては来ないのだろう。

甘えているのかもしれないけれど。

(・・・でも、まだまだよ。こんな所で音なんかあげないんだから。)

やっぱり自分は信じていたい。

そう結論づけて、千百合は自販機の前に立ち直した。

ジュースを買ってくると言った手前は買わないと。
喉は乾いているし。

「えーと。」

お茶か、コーヒーか。
迷っていると、自販機の裏から足音が聞こえてきた。

誰か来たか。
自販機に用かもしれない。

(さっさと選ばないと邪魔になるわね。)

お茶のボタンを押したのとほぼ同時に、足音の主が自販機の裏から姿を現した。

知らない顔だ。

でも、知ってるユニフォーム。

(男子テニス部か。)

十中八九飲物を買いに来たのだろう。
やはりさっさと決めてしまって良かった。

そう思っていると、ガコンという音と共に自販機はお茶を吐き出し、序でにおまけのルーレットを回し出した。

7が揃えばもう一本。

とかいうけれど、実際こんなもの当たった試しがない。

良いや、と見切りをつけて自販機から体を背けた時だった。

「おい、当たっとるぜよ。」

「え?」

振り向くと、パッパラッパーという軽快な音楽と共に、全部のボタンが点滅している。

マジか。
初めて見たぞ。

「・・・良いや。私要らない。あんたが好きなの選んだら?」
「ええんか?」
「私、1本で十分よ。」
「プリッ。そうか、恩に切るぜよ。」

(変な喋り方ね此奴)

何処かの方言なのだろうが、何処の方言か分からない。西か東かそれすらも見当がつかない。

でも、珍しい言葉の持ち主は覚えておく癖が千百合にはある。
作詞の為に知らない言葉にはストイックである紫希の為だ。

(銀髪で、男子テニス部で、口元にホクロ・・・)

これだけ覚えておけば柳に聞けば分かるかな、などと思いながら千百合はその場を去った。

わざわざ覚えておかなくても関わる事にはなろうとは、今の千百合はまだ知らない。