Solicitation:3rd game 2 - 2/5


誰も居ない廊下を、柳生と紫希は檻に向かって進む。

「はあ・・・」
「お気の毒ですが、捕まってしまったものは諦めて頂きますよ?」
「ええ、それは勿論です・・・捕まってから道中で逃げるのはルール違反ですし。」

一度捕まると、檻に辿りつくまでは強制移動となる。
その間に再逃亡した場合は失格となるのでそれは出来ない。

「・・・・・・」
「・・・春日さん。」
「はい・・・」
「私が言うのもなんですが、これはゲームですので、そんな悲壮な泣きそうな顔をなさらないで下さい。」

ともすると、ちょっと涙ぐんでいるのではないかとさえ思える。
これは流石にちょっと心が痛む。

「すみません、困らせてしまいまして。つい・・・」
「お気持ちは分かりますが、捕まった人は他にも居ます。春日さんが責任を感じる事ではありませんよ。」
「違います、違うんです・・・」
「はい?」
「私もう情けなくて・・・ただ捕まっただけなら兎も角、人数の事を考えて助けないとと思って出て行ったら、その直後に捕まるなんて・・・」

たらればの話をしても仕方がないが、こんな事ならあそこに止まって居た方がまだ幾らかマシだったと思う。
不得手なくせして何かしようと行動を起こしたらご覧の有様だ。

「私、ただでさえこういうゲームではチームの足を引っ張るのに・・・」
「・・・・・・」
「有能な敵より無能な味方の方が有害と言いますけれど、今の私は正にそれです・・・」
「良くそんな説を御存知ですね。」

自分を責める材料なら幾らでも出て来る紫希。
なまじ知識があるだけに、こういう時は悪い材料ばかり数多く目についてしまう。

「・・・春日さんは、開き直り方が足りませんね。」
「はい・・・?」
「大凡見当が付きます故ずばり言ってしまいますが、仁王君から言われてはいませんか?もしも捕まりそうになったなら、女性の武器を使うようにと。」
「・・・!」

その通りである。
遠慮は要らないから、存分にやれと事前に言われていた。

ただ。

「でも、具体的にどうして良いか分からなくて・・・」
「先ずは、上目使いからですね。」
「上目使い・・・?って、どうやれば、」
「あまり意識しなくてよろしいんですよ。只下から覗き込むようにして、相手を見れば良いんです。」
「下から覗き込む・・・」
「その上で、見逃して貰えるように可愛らしく強請ってみては?」
「可愛らしく強請る・・・」

上目遣いで相手を見つめて。
可愛らしくおねだりして自分の要求を通す。

「・・・無理です。」
「出来ませんか?」
「行為そのものを頑張る事は出来ますけれど、私がやった所でというか・・・」
「ああ、そういう意味でしたか。」

その一連の動作は、紀伊梨が人に何かを頼む時いつも無意識的にやっている事である。
ああ可愛いなといつも思うが、逆に言うとあれは紀伊梨の様な女の子だから可愛いのであって。

「それに、それが通る相手が其方側に居ないような・・・」
「それはそうでしょうね。この手が有効なのは、寧ろ其方チームの真田君や、桑原君や、精々丸井君という所でしょう。」

引き換え、柳生チームの男性陣と言ったら、柳生に幸村に柳。
無理だろう。
この動じない人間を固めたような面子に向かって、媚を売って見逃して貰うなんて。

「あ。」

「おや。」
「幸村君!」

丁度階段を降り切った所だった。
部屋を調べ終えたのであろう、幸村と2人は鉢合わせした。

「あれ?春日は捕まったのかい?」
「ええ、先程ばったりと。」
「はい・・・」

沈む紫希に、幸村は少し笑ってしまう。
そんな、大罪を犯したみたいな風にならなくても。

「そうか。じゃあ今から、檻に連れて行く所だね?」
「ええ。」
「分かった。又後で。」
「ええ、後程。」

そう言って、柳生と紫希は中庭へと向かうべく幸村と逆方向へ足を向けた。

「ああ、そうだ。柳生。」
「はい?」


「合言葉は?」


(えーーーーー)


パン!


と音がして、反射的に目を瞑った紫希が再び目を開けると、ラケットを構えた幸村と。
それから、ボールの威力で鬘の飛んでしまった、伊達眼鏡姿の仁王が隣に居た。

「・・・・え、」
「春日、向こうじゃ!逃げんしゃい!」
「は、はい!」

何がどうなってるのかさっぱり分からないが、リーダーが行けと言ったのは分かる。
紫希は大慌てで幸村とは逆方向へと駆けだした。

「・・・春日の方を行かせて良かったのかな?」
「どういう意味じゃ?」
「仁王が逃げ遂せた方が良かったんじゃないか、っていう意味だよ。」
「ほう?それは暗に俺は捕まえられるとして、っちゅう話じゃのう。」
「勿論。この状況で逃げられるとは思ってないだろう?」

ポンポンと左手でボールを放る幸村。

さもありなん、である。
此処から背を向けて逃げた所で、幸村にボールを当てられて終いだ。

でも良い。

(あそこは俺じゃ行けんのじゃ)

だからこれで良い。
これで良いのだ。

「・・・どうやら逃げる気はないみたいだね。」
「さて、どうかのう。」
「ふふふっ。流石にハッタリが上手いけれど・・・ブラフをするなら、もう少しさりげなくやらないと。」

恐ろしい。
ここまで綺麗に見透かされると、もう逆に清々しい。

「さて・・・という事は逆説的に、春日を逃がす事で何か狙いがあるんだね。追いかけないと。」
「ほう?どうやってじゃ、俺を見逃すんか?」

一度泥棒を捕まえると、檻へ連れて行かなければ次の泥棒は捕まえられない。
先の紀伊梨のように2人同時なら兎も角、一人づつなら道中泥棒にあっても警察側は見逃さなければならないのだ。

従って、紫希を追いたいのなら仁王を見逃す事になる。

「いやだな、そんな事はしないよ。」
「ならどうする。ルール上は同時捕獲じゃない場合、1人づつしか捕まえられんぜよ。」
「うん。だからね。」

「ルールに則って、一人づつ捕まえさせて頂きますよ。」

だら、と冷や汗が伝う仁王の背中。
その後ろで、柳生がーーー部屋で幸村と一度合流し、1人残っていた本物の柳生が佇んでいた。

「柳生。俺は春日を追うから。」
「ええ。私は仁王君を連れて行きましょう。」

涼しい顔をして、仁王を追い越して紫希の逃げた方へ駆けて行く幸村。

やられた。

「さて、では参りましょうか仁王君。」
「・・・良いタイミングじゃの。」
「ええ、偶々居合わせまして幸運でしたよ。」
「行く前に聞かせてくれんか。」
「はい?」
「合言葉っちゅうんはなんじゃ?」
「ああ、その事ですか。私達は仲間と仁王君を区別する為に、お互いと合流した際の合言葉を設けているんです。」

イリュージョニスト、仁王。
変幻自在の変装のエキスパート。

「貴方を出し抜くなら、この位の事はさせて頂かなくては。そうでしょう?」
「・・・プリッ。」