「なんだと・・・!」
「嘘だろ・・・」
真田と桑原は頭を抱えたくなった。
柳生に連れられて3人目の泥棒がーーー仁王が捕まってしまった。
「おう、お疲れさん。なっちんも、此処におったんか。」
「おう、お疲れw」
「ああ、お疲れ・・・」
「お疲れではないわ!他の者なら兎も角、リーダーが何をのこのこと捕まっとるんだ!」
リーダーと言うのは、所謂本丸。
軍を率いる大将なのだ。
「その大将がこうも簡単に・・・戦ならこれで勝敗が決してしまっているところではないか!」
「ま、まあまあゲームなんだし。な?」
「そもそもこれは戦争じゃないきに。」
「やーぎゅ!お疲れちゃん!」
「五十嵐さん、お疲れ様です。」
現在檻の見張りをしていた紀伊梨は、仁王を連れてきた柳生とハイタッチを交わした。
「これで3人ですな!」
「ええ。この状態をもしキープする事が出来れば、こちらの勝利ですね。」
「ぬかせ!まだだ、まだ丸井と春日が・・・」
「お言葉ですが真田君。この状況で体力の弱い丸井君と春日さんに、逆転の目がそう多くあるとは思えませんよ?」
「ぐ!ぐう・・・!」
柳生の言う事は尤もである。
よりにもよって残ったのあの2人かよ感は否めない。
特に丸井は兎も角、このゲームに於いて紫希に向かって何を望めるだろう。
「・・・とはいえ、油断は出来ません。」
「そなの?」
「ええ。仁王君は、春日さんを敢えて逃がしました。何か考えあっての事でしょう。」
「レディファーストじゃ。」
「冗談も休み休み言えよw」
この男がそんなフェミニンな考え持っているわけがない。
「五十嵐さんは、どなたを捕まえられたんです?」
「私ねー、プランBで桑ちゃんの事捕まえたんだよ!」
「そうですか。それはご苦労様です。足の速い桑原君が捕まったのは、大きな収穫ですね。」
「えっへん!」
「おい、プランBだとはなんだ?」
「あっちの作戦だよ。」
「ひっかかったんか。」
「ああ、転んだフリをされたんだ。怪我したのかと思って駆け寄ったら・・・」
「むう・・・人の心配につけこむとは!」
「いや、作戦としては王道じゃ。俺だって逆の立場なら同じ指示をするナリ。」
「たわけ!そのような卑怯な手で、」
「ま、まあまあまあ!ルール違反してるわけじゃないんだから、卑怯とかそういうのじゃないだろ、な!」
正直、仁王もこれは期待していた。
所謂女子ならではの力を存分に発揮して相手の弱い所をつくのは、この手のゲームでは有効。
ただ、こっちは女子1人になってしまった上、相手チームの男子があの面子。
苦しい。
考えの息詰まる仁王をにやにや眺めつつ、GM棗はスピーカーのスイッチを入れた。
『皆さーんw仁王君が捕まりました、後2人でーすw』
「自分の名前が上がると流石に悔しいのう。」
「そお?」
「お前は呼ばれ慣れ過ぎて麻痺してんじゃないかw」
「どういう事ですか?」
「だって此奴しょっちゅう迷子になって呼出かけられるんだもんw今は携帯があるから良いけど、小学生の時は本当に苦労したのよw」
紀伊梨達が携帯を持たせて貰えるようになったのは、小学校6年の時。
お受験に当たり、塾通いを一時始めたのをきっかけに皆買い与えて貰えたが、そうなる前は出かける度に紀伊梨は一度は迷子になった。
「たるんどる!後先考えずふらふらとうろつくから逸れるのだ!」
「だってー!」
「だってではない!周りがどれだけ心配するか少しは顧みろ!」
「被害者はかく語りきw」
「被害者・・・と言いますと?」
「GWの時に、真田の甥が迷子になったんじゃ。もう少しで誘拐されるところじゃったき。」
「だから、探す側の心理が今真田はよく分かるんだ。」
「それはなんと・・・」
あの時は本当に心臓が止まるかと思った。
今迄自分が迷子になった記憶は1回2回あるかないかくらいだが、探す側に回った事がなかった真田にとって、迷子という存在が如何に焦りと恐怖を齎すものか。それがやっと分かったのだった。
「でもでも、私だって迷子になりたくてなってるわけじゃないよー!それに、迷子側だって怖いんだよ!誰も居ないし!」
「自ら離れて行っとるんだろうが!」
「1人になりたいわけじゃないもん!皆居ると思っちゃうだけだもん!本当に怖いんだよあれー!誰か傍に居ると思って遊んでたのに、いつのまにか誰も居なくなってるし!」
厳密には左助はその場から離れたいと思って敢えて一人になった。
だから戻れないとなっても、そもそもは自分から離れたので、そこまで大きく取り乱す事は無かった。
それに引き換え紀伊梨は、いつも皆が自分と行動を共にしているつもりで動く。
自覚するその寸前まで「自分は1人ではない」と信じ切っていて、だから迷子だと気付いた瞬間のショックは左助の比ではない。
「そのうえ暗かったりするともうお前駄目よねw紫希の田舎に遊びに行った時とか、」
「言わないでー!今思い出しても怖いのあれはー!」
「春日の田舎?って事は、山とかで迷ったのか?」
「いや、からくり屋敷でねw」
「ほう?からくり屋敷とは風流だな。」
「まあ風流ではあるよwそもそも、紫希の母方の爺さんが建築と言うか、大工と言うかそっちの人でさw」
紫希の祖父、圭太郎は頑固気質だが孫には甘かった。
そして建築を愛していた。
だから面白い建物に目が無くて、ある日皆で遊びに行った際、良かれと思って車を出して少し遠方のからくり屋敷に連れて行ってくれたのだ。
「で、着いてみて暫く普通に遊んでたんだけどね?」
「その途中ではぐれてしまったと。」
「でも、遊ぶ施設なんだろ?そんなに暗い所なんかあるのか?」
いくら迷いやすいとはいえ、あくまでからくり屋敷なのである。
お化け屋敷ではない。だから暗いとかお化けが出るとか、そういう事は無い筈だと思うのだが。
「それがさー!皆を探そーと思ってドアをどんどん開けてたら、パイプがいっぱいの所に入っちゃってー。」
「そうそう、此奴機械室の中に入っちゃったのよw」
「悪い、そもそも機械室ってなんだ?」
「発電機だとかそういうでかい設備が置いてある所じゃ。配管が通っている場合も多いな。」
建物には水道や電気と言った各種設備がある。
その本体である受電機等を纏めておくのが機械室である。
大きさは様々だが、アミューズメント施設のように大がかりな設備が要求されるところでは、それだけ機械室も広く大きくなる。
しかも入るのが子供となると尚更だ。
「何故そんな所に入るのだ!危険ではないか!」
「普通は鍵がかかっとるんじゃがのう。」
「空いてたんだよねー。運が悪かったというか間が悪かったと言うかw」
「しかし、開いたとしても引き返しませんか?」
「でも皆居るかもしれないと思ったんだもん!」
暗いし様子が他の所と違うしで超怖いが、この向こうに皆が居るかもしれない。
そう思って、幼い紀伊梨は無駄に勇気を振り絞ってしまった。
ゴウンゴウンと唸る機械の向こうへ行き、交差する配管を乗り越え、奥へ奥へと。
通常機械室にも電灯のスイッチはあるが、幼い紀伊梨には届かなかったしそもそも気づきもしなった。
それでなくてもお化けだとか暗いだとか苦手な紀伊梨が泣き出すのに、そう時間はかからなかった。
間もなく大声を上げてわあわあ派手に大声あげてしまったが。
「何時もだったら、誰かは来てくれるのに泣いても泣いても誰も来てくれないしさー!皆どころか人が1人も来てくれないんだよー!」
「当たり前だろw」
「あんな所で子供が泣いてても気づかんじゃろうな。」
「そもそも、幾ら迷子だとてそんな所に居るとは思わないでしょうしね。」
「放送とかもかからないんだろうな、そういうスペースは。」
「して、どのようにして解決したのだ?」
「紫希がねwパイプシャフトに居るんじゃないかって言い出してw」
パイプシャフトとは、完全にパイプしか通っていない修理用スペースの事である。
ただ、子供なら入れるだけのスペースがある時もある。
「まあ実際はパイプシャフトじゃなかったけど、それでじいさんの方が機械室の事を思い出してねw鍵まで開いてたからもう此処じゃないかってw」
「そうか、それで見つかったんだな。」
「見つかったから良かったようなものの・・・たるんどる!何故自ら危険な方へ危険な方へ向かうのだ!」
「だってー!」
「良いか!迷ったのならその場を動かずじっとしていろ!」
「無理!」
「何が無理か!」
「だってだって、もうちょっと先に行ったら誰か居るかもしれないんだよ!?それなのにじっとしてろなんて出来ないよー!」
この角を曲がれば紫希が居るかも。
この階段の先に千百合が居るかも。
このドアの向こうに棗が居るかも。
この部屋の中には幸村が居るかも。
紀伊梨は何時でも希望を捨てない。
今、この場で行動を起こしたら何かが変わるんじゃないかと信じていつも生きている。
それ故に、困った事になればなるほど紀伊梨はジッとしない。出来ないのだ。
「まあ、確かに。偶々裏目に出てしまう事もありますが、基本的に前向きで行動的なのは良い事ですね。」
「ねー!」
「ただ、行動を起こす時はもう少し慎重になさらなければ。」
「あう!」
「難しいかもしれないけど・・・でも、基本的にはお前の為だから。な?」
「うう・・・」
「む、仁王?何を笑っているのだ?」
「良い事聞いたきに。」
これはいける。
きっと。