その足の真下で、紫希は誰かに口を押さえられている。
(・・・何、何が、何がどう、何、)
部屋に隠れようとして。
入ったら、そこは荒れ放題の倉庫で。
そしてどこに隠れようかと思った時、紫希が見つけた物。
それは床下の収納庫への扉だった。
ここに隠れて、扉を閉める時にカーペットで入口を覆えば良い。
そう思って開けたら、勢いよく中に引きずり込まれた。
収納庫内は真っ暗。
状況把握が出来ない。
混乱と恐怖で身動き出来ない紫希の耳元に、囁きが落ちた。
(しー・・・大丈夫大丈夫。静かにしろい。)
ああ、聞き知った声。
紫希の体から力が抜けたのを感じたのか、背後の人間も口から手を離した。
(丸井、君・・・!)
紫希を引っ張り込んだのは丸井だった。
後ろを振り向くと、相変わらず暗いけどちょっと目が慣れてきて、丸井が笑ったのが分かった。
(どうしてこんな所に・・・)
(え?お前も探しにきたんだろい?)
(え?)
(え?)
何か変だ。
話がずれてる気配。
(・・・あの、私仁王君から指示を。)
(おう、俺も。)
(・・・梯子を探す様にと。)
(そう。あれ?こういう所にあるもんじゃねえの?)
ない。
勘違いする気が分からないでもないが。
(廊下のもっと向こうの方にあるのではと・・・)
(マジ?)
(おそらく)
(そっか。じゃあ、此処から出ねえとな。)
しかし出ると言ったって一筋縄ではいかない。
「あれ?おかしいな、何処に居るんだろう。」
((・・・!))
心臓が飛び上がる2人。
そう。
出ようと思ったら、先ず部屋で目下捜索中の神の子様が、何も気づかないで出て行ってくれないと話にならない。
(マジで怖え・・・)
(見つかりませんように・・・!)
そうは願うが、何せ相手はあの幸村である。
もう、次の瞬間にも此処に気づいて扉を開けないとも限らない。
(ああ、心臓が煩い・・・!どうしましょう、幸村君に聞こえてたら・・・!)
そんな事あるわけないだろ、と冷静に考えれば思えても、人間こういう時は自分の鼓動とか、呼吸とか、そういう音が煩すぎる位耳に付く。
(・・・・・・・)
丸井はちょっとだけ床に着いていた手を浮かせた。
浮かせて。
隣に有った紫希の手に重ねた。
「・・・!」
今声が出なかったのは奇跡だと紫希は思った。
暖かい左手。
丸井の手だ。
(丸井君・・・)
真意が分からなくて、そうっと隣を見やる。
閉ざされている収納庫の入口。
カムフラージュのカーペットの所為で、隙間からの光さえ入らない其処を、丸井は真顔でじっと見つめている。
別に余裕があって笑っているわけではない。
でも、紫希みたいに怯えても居ない。
丸井はもう腹を括って居るのだ。
見つかったら、見つかった時。
見つからなかったら、見つからなかった時。
どっちに転ぶかは分からないから、注意は払っておかないといけないけれど。
でも。
(・・・気の所為なんでしょうか。いえ、きっと気の所為なんです、私がそう思いたがってるだけの話なんですけれど・・・)
重ねた手が言ってくれてる気がする。
もし、見つかっても。
見つからなくても。
傍に居るからと。