「よっす、精市。柳も。」
「ん?ああ、千百合。」
「黒崎か。」
幸村と柳は、未だ梯子の真下に居た。
今上ってから8分。
10分って割と待つと長いな・・・とか2人して思っていたのだが。
「交代よ。」
「交代・・・という事は、逃げられたんだね。」
「ん。桑原が逃げちゃったし。」
「やはり、丸井を相手にテニス部抜きでは厳しかったか。」
「そういう事だね。」
幸村も柳も頭の回転が速い分、切り替えも早い。
無駄な事はしない。そんなことしてる暇があるのなら、その労力は他に割くべき。
「ってわけだから、あんた達は逃げてるのを捕まえてよ。」
「分かった。ものの序だ、俺からプランAの話も柳生に提案しておこう。」
「そうだね。タイミングとしては、今を逃すと後がないかもしれない。」
「ああ。下手に出し惜しみして、結局作戦を使えないまま敗北・・・というパターンは避けたいからな。」
「じゃあ、千百合は此処に居て春日と丸井を捕まえてくれるんだね?」
「ん。」
「話は纏まったな。では、散会だ。」
柳と幸村は梯子の傍を離れ、廊下の向こうへと駆けて行った。
・・・行くはずだったのだが。
「・・・・・」
「?どしたの?」
「幸村?どうかしたか?」
幸村は不意に足を止めて、千百合を振り返った。
「・・・千百合、1人で大丈夫かい?」
「は?・・・ああ。」
丸井の事だろう、と千百合は当たりをつけた。
今袋の鼠状態とは言え、1対2でしかも片方はテニス部なのだ。
「大丈夫。なんかつけ込むみたいだけど、紫希は高い所が苦手だからそんな機敏には動けないでしょ。丸井は紫希を見捨てて一人で逃げたりはしないと思うし。」
「桑原の事は見捨てたようだが?」
「それは彼奴の桑原への扱いが雑なだけだから。酷い奴よね。」
自分だって紀伊梨に対する扱いが時折雑なのに、その辺を丸っと棚上げする千百合。
クールな真顔で言っているが、内心ではペロッと舌を出して居るのが分かって、幸村は可愛らしさを感じて思わず微笑んでしまう。
「・・・そう言うなら、任せるよ。でも、何かあったら連絡して。」
「逃がしたらね。」
「想定外が起こったら、だよ。」
「はいはい。」
今度こそ幸村と柳は駆けて行った。