Solicitation:3rd game 4 - 3/6


丸井が全員を逃がした後。
つまり檻が空になった後であるが、警察が此処にずっと居ても仕方がないので、残っていた紀伊梨と柳生も散会した。

然るに、千百合が丸井と紫希を連れて向かっていて、未だ到着していない現在、檻周りは無人。
全員が何処かをうろついて居るという事になる。

(確保されただと!丸井だけでも逃げられるかと思っていたが・・・やはり待ち伏せされている状態でその見通しは甘かったか、敵もさるもの!)

真田は現在、元厨房の一角で腰を下ろしてスマホを見ていた。
紫希と丸井から捕まった、の一報が入ったのだ。

分かっては居た事だが、これはキツい。
3人捕まった状態で時間が来ると負けなのに、2人捕まっているという事はもうリーチがかかっているのだ。

(いや、焦るな!逆に考えると、この状況を保ったまま時間が来れば此方の勝ちだ!今逃げているのは俺、仁王、桑原。俺も桑原もスタミナとスピードには自信がある、滅多な事では捕まるまい。後は仁王が・・・)

「この辺かな?」

はい、来た。
滅多な事で捕まるまいと思っていたのに、その「滅多な事」がピンポイントで来てしまった。

(幸村・・・!)

きょろきょろと厨房を見回しながら入ってくる神の子様は、ああ何故だろう、あんなにあどけない穏やかな顔をしているのにすんごく怖い。
隠れ遂せる気がしない。

「ううん・・・あ、此処が開くんだ、面白い。」

厨房器具を楽しそうにガチャガチャ開ける幸村。
あまり詳細に探索しないで下さいと心で願うも、幸村がそんな甘い手合いでない事は真田が一番良く知っている。

(くそ!出るに出られん・・・たるんどるぞ真田弦一郎!此処で捕まっては、柳と黒崎千百合に捕まえられた時の二の舞ではないか!)

又ああやって捕まってしまうのか。
もうこうなったら飛び出して行ってテニス勝負に持ち込もうかな、などとやけくそ気味な事を考え始めた時だった。

「せーい!・・・あー!ゆっきーだー!」

厨房に勢いよく飛び込んできたのは紀伊梨だった。
幸村は振り向くと、微笑んで手を振った。

「やあ五十嵐。お疲れ様。」
「お疲れちゃーん!ゆっきーも此処探してたのー?」
「うん。とは言っても、今しがた入ったばかりなんだけれどね。そっちはどうだい?誰か捕まった?」
「それが全然なんだよー!何かきゅーにむつかしくなっちゃったなー!」
「あはは。まあ、逃げてる人数がそもそも3人しか居ないからね。見付けるのも難しくなるよ。」

5人居るのと3人しか居ないのとでは、たかだか2人されど2人。
少人数の方が何事も小回りが利くのは何に付けても同じだ。

「逆に言うと、2人は捕まえてるわけだからね。後1人捕まえられれば、一気に形勢逆転だよ。」
「おー!そっか、そーだったねー!千百合っちが紫希ぴょんとブンブンを連れてきてくれたし、いやー、楽が出来ますなあ!」
「・・・・・」
「・・・あり?ゆっきー?どったの?」

何か変な事言っただろうか、と自らを反芻する紀伊梨。
あれだろうか。楽が出来るとかその辺のくだりが癪に障ったのだろうか。
いやでも、その辺に対してがみがみ言うのはどちらかと言うと真田だし、楽が出来るとかラッキーとか紀伊梨が言うのは今に始まった事じゃないし。

?を飛ばして居たら、幸村は暗いとまでは言わないが神妙な表情で顔を上げた。

「・・・五十嵐、千百合が交代で来てくれるまで、千百合とは檻の所で一緒に居たよね?」
「?うん、居たよ!私と、千百合っちとやーぎゅでブンブンとしょーぶしてたんだかんね!」
「その時、何か変わった事はなかった?」
「んにゃ?」

変わった事。
変わった事とはなんだろうか。

何かあっただろうか、何か千百合に関する事で。

「・・・あ!何かボーっとしてたかも!」
「ボーっと?」
「うん!真田っちがどーしたーって聞いてたお!直ぐいつもの千百合っちに戻ったけど。」
「・・・その前は?
「その前?」
「そう、ボーっとする前。」
「その前ー?うーんと、うーんとー、」

ボーっとしてた、というのは、言うなれば結果の部分なのである。
その前に何かボーっとの切っ掛けがあるから、ボーっとするのだ。

「えー?でもそんな変な事なかったと思うんだけどなー?」
「じゃあ、変な事でなくても良いよ。有った事を。」
「ううん?ブンブンが上から打ってきてー、一旦引っ込んでー、も一回打って来たと思ったら、桑ちゃんが逃げちゃったっしょ?そんでゆっきーとやなぎーと交代してねってやーぎゅに言われて、千百合っちが行っちゃってー・・・」
「・・・それで終わり?」
「うん、そんでお終い!」

普通だ。
至って普通の流れだ、何も可笑しい所等無い。

「・・・そうか。有難う五十嵐。」
「それは良いけど、どったの?千百合っちが何か変?」
「うん。」

ここで即答できるのが幸村の幸村たる所以である。

別にそのボーっとしていた現場を見たわけでもなんでもないのに、合流した時千百合が何か若干違う事を瞬時に察した。
何がと具体的には流石に分からないが、何時もと違うのは確か。

だから1人で大丈夫かと聞いたけれど、千百合は気づかれていないと決め込んで、ゲームの事だろうと勘違いしていた。

(・・・そなの?でもゆっきーが言うなら多分そーなんだよね?どしたんだろ・・・)

そもそも変かどうかも分からなかった紀伊梨だが、もし幸村の言う通り何かがあったのだとして、どうして言ってくれないのだろうか。

などと。

「・・・相談してよ、なんて千百合に言うだけ無駄だとは思うんだけどね。」
「ねー。千百合っちにも困ったものですなあ!」

何かが有った時に言わないのは紫希も千百合も似た所があるが、種類が違う。

紫希は言いたいけれど、言うと迷惑になると思うから言わない。
反対に千百合は、言っても良いと頭で思っていても言わない。言いたくないのだ。

自分の事は自分で解決したい。
迷惑がとかそういう事ではなく、これは千百合のプライド。そういうポリシーなのである。

だから紫希は助けて貰うと本当に有難いと思うが、千百合は有難いと思う時もあり、逆に真剣に迷惑と思う時もある。

私の問題。人に手出しされたくない。だから手伝わないで。
そういう考えで居る時が、千百合には確かにある。

だから千百合を助けるのは難しい。
何時いかなる時も、手を差し伸べさえすれば良いと言うわけではないから。

勿論、誰だって多かれ少なかれそういう事はある。
悩む度に何かにつけて手伝われると、自分では何も出来ないと思われているようで自尊心が傷つくものだが、千百合のような性格のものは特にそれが顕著だ。

「そーいえば真田っちもそんな感じだよねー。」

(待て!何故其処で俺が出て来るのだ!)

こんな状況でなければ全力で突っ込みたいと思っている真田本人が、直ぐそこに隠れている事など紀伊梨はさっぱり気づかない。

「ふふっ。人に頼りたがらない所が?」
「そー!前に左助君を探した時もさ、すんごい言い辛そうな感じで助けてくれって言ってた、ってなっちんが!」
「そうだね。まあ性格と言うか、自分が情けないと思ってしまう所があるんだろう。」
「えー!?情けないかなー!?私すぐ助けてーって言っちゃうけどなー。」
「五十嵐は助けを求め過ぎだね。」
「えええ!?」
「流石に起きるのくらいは一人で出来るようにならないと。もう中学生なんだし。」
「こーこーせーになったら頑張るお!」
「3年遅いかな。」

小学校に上がった時点で既に一人で起床する習慣の付いていた幸村としては、紀伊梨を通り越して五十嵐家がちょっと心配になる。
こんな紀伊梨を放置していて良いのか、ねえ、五十嵐一家よ。

「・・・でもやっぱり、千百合っちには話して欲しいなー。」
「放っておいてあげたら?」
「ゆっきーは放っとくの?」
「様子を見つつね。助けてあげたいのは山々だけど、タイミングを見誤って千百合を傷つけるのは本意じゃないから。」

そう。
本当は悩みがあるのなら全部解決してあげたい。
出来る事があるなら喜んでやるし、何時でも頼って欲しい。

でも、千百合はそう言うのが好きじゃないのだ。

見ようによっては面倒な性格だが、しょうがない。
そういう千百合だから、好きになったんだから。

「だから五十嵐も気にはなると思うけれど、あんまりしつこく聞いたりしちゃいけないよ。」
「むーん・・・はーい。」

ガラガラ、ピシャン。

と音がして、真田は部屋に取り残された。