(どうしましょう・・・何処に居ましょうか・・・)
紫希は隠れながら早くも城の中に逃げ込んでいた。
足の遅い自分だから、開けた庭に居るより建物の中に居たいのだ。
(落ち着いて、落ち着いて、作戦上はなるべく2階が良いのであって、)
「見付けましたよ。」
「!」
振り向くと、柳生が居た。
(に・・・逃げないと!)
「お気の毒ですが、逃がしませんよ!」
ダッと駆けだす紫希。
しかし、駆けだしたは良いが、ここからが問題である。
(ど・・・どうしましょう、どうしましょう、私は足が遅いから撒けないし、それにこの位置は・・・!)
仁王の「作戦」。
それは、トラップで警察を囲い込んでしまうと言う、泥棒側からの「攻撃」であった。
閉じ込める事で行動不能に追いこんでしまうのだ。
真田も桑原も、作戦開始の通達をLINEで知っていたから紀伊梨を閉じ込める事が出来たのである。
ただ、これには難点が2つある。
当たり前だが時間が経つと脱出されるので、ゲーム開始から前半では殆ど使えない事。
それから、どこでもトラップがあるわけではない故に、トラップのある場所まで移動せねばならない事。
紫希の居る一階大広間前は、どのトラップも遠い。
そこまで逃げる自信が無い。絶対に追いつかれる。
(・・・となると、自力で撒くしか・・・!ええと、ええと、)
足で逃げるのは無理。
何処かに隠れないと。
そう考えた紫希は、手近な部屋に取り敢えず入った。
「ここは・・・」
ストックルーム。
所謂、食料貯蔵庫である。
隠れる場所は沢山あるにはあるが。
(床下収納・・・は、扉が丸見えですから、さっきと違ってすぐ見付けられてしまいます・・・そこの戸棚の下・・・も、分かり易い、どうしましょう・・・!)
人間が入れるサイズの所なんて、限られている。
さして広くも無い、出入口も一箇所しか無い所で隠れてやり過ごすのはかなり難しい。
まして相手は柳生である。
どこぞのはさみ男みたいな、目に見えている相手を何故か見逃すような温い事はしてくれるまい。
(落ち着いて、落ち着いて・・・走って逃げられないなら、隠れるか、トラップに頼るかのどちらかしか無いんですから、)
ガチャ
「・・・春日さん?」
柳生は扉を慎重に開けながら、きょろりと部屋を見回した。
その扉。
の、死角になる位置に紫希は立っていた。
今、柳生と紫希の間には開かれた扉が一枚あるきりである。
(お願いします、お願い、こっちを見ないで下さい・・・!)
隠れるか、トラップしかない。
そしてトラップまで逃げるにはどうするか。
要は、その地点まで逃げ延びれば良いのである。
一度しか使えない手ではあるが、これで逃げることが出来れば再度距離を稼げる。
こうやって騙し騙しトラップポイントまで行くしかない。
元来地頭の良い紫希は、パニックでもこれだけの事を考えられるだけの機知はあった。
後は、どうにか柳生が入って背を向けている間に出て行く事だ。
「・・・ふむ。」
柳生は扉を開けたまま、直ぐ傍の所を探し始めたようだった。
紫希からは扉しか見えないが、がさがさと音がする。
もう少し。
もう少し奥を調べてくれ。
部屋の最奥まできてくれ。
「・・・まあ、良いでしょう。」
(えっ、)
何という事だろうか。
紫希の目の前で、扉は閉まった。
柳生は引き返したのだ。
(・・・た、助かりました?いえ、でも何故・・・)
罠か。
こうして居なくなったとみせかけ、外で待ち伏せのパターンかもしれない。
暫く此処にこうして居ようか、と紫希は今の姿勢を続ける方針を頭で決めた。
途端。
ガチャ!
「えっ、」
ガチャ、シュルシュル、ガチャガチャ、シュルッ!
「・・・まさか!」
紫希は慌てて扉に手をかけた。
開かない。
ビクともしない。
「や、柳生君!」
「やはり其処に居ましたか。」
ドア越しに声が聞こえる。
バレていた。
しかもこれは。
「あの、これは、」
「申し訳ありません。比較的広いですし天窓があるから明るいとはいえ、女性を閉じ込めるのは心が痛みますが・・・これも作戦の内です。」
会話の間にも、何らかの紐かロープの音が聞こえる。
ドアノブがどんどん縛られて、固定されて行く音が。
「ご心配なく、最後には必ず解きますから。ゲーム終了の直前に、ですが。」
やがて音が止み、柳生の足音は遠ざかって行った。
「か・・・」
ずる、と紫希は扉の前にへたり込んだ。
やられた。
「・・・返されました・・・」
正に、返されたのだ。
こっちがやろうとしていた事を、あっちにそのままやられてしまった。
「・・・!こ、こうして居られません、携帯、携帯・・・!」
せめて伝えなくては。
チームの皆に、この事を。
向こうも、同じ作戦を考えている事を。
「・・・ううう・・・ごめんなさい・・・!」
なんて情けない。
さっき逃がして貰ったのに、もう捕まってる。
涙ぐみながら、紫希はグループLINEに連絡を送った。