仁王の、「警察側を逆に閉じ込めてしまおう」作戦。
だが柳生チームは、実はこれを予想していた。
仁王ならおそらく攻撃に転じて来る。
おそらくそう見て間違いないと柳生は言った。
では、どのようにして反撃するか?
其処で出たプランが、プランC。
「泥棒」を閉じ込めよう作戦、である。
泥棒を閉じ込めて意味があるの、と思うかもしれないが、実はこれはかなり有効だ。
何故かと言って、先ず檻に居るわけではないから、檻に人員を割かなくても良い。
見張りが要らなくなる。
そして、所在が分かる。
閉じ込めておけば、誰が何処に居るのかを固定することが出来る。
極めつけに、閉じ込める事によって行動不能にする。
相互での逃がし合いが出来なくなる。
捕まえて、逃げられて又捕まえて・・・なんて、そんな事しなくても良い。
分かる場所でじっとしてくれれば、捕まえるのはゲーム終了直前で全然構わない。
おまけに、警察側は誰に姿を見られようと関係ない。
追われる立場になる事はないのだから、堂々とトラップまで案内すれば良い。
これが、柳生と柳と幸村が考え出したえげつない閉じ込め返し作戦である。
それを踏まえた上で、千百合は今ブラリと館の2階を歩いていた。
(えーと、こっち側のトラップがあるのがこの部屋と、あそこと、そこと、)
これは確認の意味もあるが、柳生の推測が正しいとすると、こっちのトラップが無い所は逆に向こうのトラップがある可能性が高い。
だから、極力そこに近づいてはいけないのだ。
「ん。」
「あ。」
廊下の曲がり角。
其処で千百合は丸井と鉢合わせした。
「おす。」
「よっ、さっきぶり。」
「・・・逃げないの?」
「捕まえねえの?」
お互い、一向に動こうとしない。
トラップに引き込もうと、今双方に思いあっているのである。
ならば。
「結局正攻法かよ。面倒くさい・・・なあっ。」
「おっと!」
情け容赦なく、手近にあったラケットとボールで奇襲を仕掛ける千百合。
丸井は間一髪で返したが、千百合はそれを更に返す。
「お前、やっぱ筋が良いな。なんでもそつなく熟すとか言われるだけの事はあるだろい。」
「誰と比べてんの?」
「春日。」
「紫希は運動苦手だから。」
「本人もそう言ってたしな。知ってるけ・・・どっ!」
「!ちっ、」
流石テニス部である。
あしらうようにあっさりと抜かれ、一瞬目を離した隙に丸井は結構距離を取った位置まで離れてしまった。
「逃げないの?其処まで行ったのに。」
「ちょっとした作戦でな。リーダーのお達しだろい。」
「はん。」
(罠があるって分かってて、引っかかる馬鹿が居るか)
どうも丸井は、自分の知能を紀伊梨レベルだと勘違いしてないだろうか、と千百合は思う。
流石に紫希程成績は良くないけれど、基本的に頭は良いんだぞ、これでも。
『基本的に、此方のトラップが無い所は向こうのトラップがあると思って居て下さい。』
柳生の声がリフレインする。
『なんで?』
『向こうもトラップは仕掛けたいと思っている筈です。ですが、向こうからしてみると、同時に我々警察に近づきたくもない。そして、トラップを仕掛けるにはそれなりに時間が要るのです。』
『つまり、トラップの為に俺達が特定の部屋に長居していればいる程・・・』
『その部屋には泥棒側は、入るに入れない可能性が高い。自然、俺達がノータッチのままにしている部屋を使う機会が多くなる。そういう事だね?』
『ええ、御明察です。まあ、あくまで可能性の話なので何事も例外はありますが、大凡そのように推移・・・もとい、そうなると考えて良いでしょう。』
『はー、成程。』
『?????ごめん、どゆ事?』
『取り敢えず、お前はむやみに部屋に入らん事だ。俺達のトラップがある場所を覚えて、追いつけないと思ったら其方へ追い込め。』
『分かった!』
『あんた、自分で自分のチームのトラップとかに引っかからないでよ?』
『しないよー!多分!』
(あの話からすると、今居る階にはこっちのトラップが多めで・・・逆に、向こうのトラップは少なめっぽい、と。)
『もし、トラップ合戦になった場合、此方が圧倒的優位に立てるポイントがあります。』
『そうなの?』
『ええ。我々警察は追うのが仕事。泥棒は罠に誘い込もうにも、警察が乗らない限りどうにもなりませんが・・・』
警察側は奇襲が出来る。
「・・・来ないならこっちから行くわよ。」
「うお、マジ?」
ダッシュを始める千百合。
丸井は反応が若干遅れ、折角取った距離がちょっと縮まってしまった。
「大人しく捕まってよ、走るの怠いんだから。」
「なら追いかけなければ良いんじゃねえ?」
「そうも言ってられないでしょ、一応。」
チームメイトだし、これでも主催者の1人なので。
(・・・!よっしゃ、ラッキー。)
丸井が角を左に曲がった。
あの先は行き止まり。
唯一入れる部屋が一応、あるにはあるが。
だが、あそこはこっちのトラップゾーン。
「そおー・・・れっ。」
「げえっ!容赦ねえなお前!」
折角行き止まりなので一発打ってみたが、ギリギリ部屋に逃れられた。
惜しい。
丸井に続いて千百合が入った部屋は、部屋と言うより小ホールである。
ここだけ天井が高く、小さなステージがあり、その隣には控えスペースがあって、小道具や衣装などをしまう家具も見受けられる。
隠れる所はいっぱい、あるといえばある。
ただ、距離が近いので今の丸井に隠れる暇は無い。
奥のステージに向かって走る背中が丸見えである。
それを追う千百合。
先を走る丸井。
そしてとうとう、丸井がステージの上に上ろうかという時。
(今!)
千百合は壁際に走り、幾つかあるスイッチの一つを押した。
こうする事で、ここのステージは床の半分が落ちる。
高さ1mも無いが、プチ奈落の様な物があるのだ。
だから今のタイミングで押すと、床が抜けて丸井が落ちるから、そしたら再度スイッチを押して床を元通りにして閉じ込められる。
ーーー筈だった。
「・・・あれ?ちょっと、」
カチ。
カチカチ。
確かに押しているのに、ステージはウンともスンとも言わない。
ボタンの押し間違いかと思ったが、他のどのボタンを押しても同じ事。
しかも丸井は急にステージ前で方向転換した。
サッと向こうの壁際に寄って、そして。
バツン!
「ちょ、」
照明が落ちた。
小ホールであるこの部屋は、窓が無いのでこうなると何も見えない。
ガシャン!ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ・・・
「おい、ふざけんな!」
何だ。
何が起こっているのだ。
それに、照明は目くらましで片付くとしてもこのガシャガシャ言う音はなんだろう。
ごく近くから聞こえては来るが、こう暗くては何も見えない。
そうしてやがて、ガシャン!という音を最後に鳴り止むと、照明は再び点けられた。
「・・・嘘。」
今、千百合の背後には大きな壁が出来ていた。
(待ってよ、こんなものさっきまで・・・これ、壁じゃないのか!)
それは、可動式の間仕切りであった。
控室スペースとステージ周りを区切る為に付けられた、簡易の内壁。
「ちょっと、出せ。」
「ダーメ。」
壁の向こうから丸井の声が聞こえる。
矢張り逃げていたか。
「何よこれ。っていうか、こっちの仕掛けはどうしたのよ。」
「こっちの?何だ、お前らも此処に何かしてたのかよい?」
(・・・そういう事か。)
しまった。
想定しておくべきだった。
罠を張った部屋が、何時までもその状態のまま保存されるわけじゃない。
誰かが罠を張った後、別の誰かが別の罠を仕掛ける事だってあるのだ。
「・・・・・」
「うおおっ!?吃驚した、蹴るんじゃねえよ!」
「しょうがないじゃん、出してくれないって言うんだから。」
「だからってこれかよ。しょうがねえだろ、大人しくしてろい。ゲームが終わったら出してやるから・・・だから蹴るなよ!壊れるだろい!」
「おらっ、おらっ、」
可動式間仕切りは、文字通り所詮は間仕切り。
ちゃんとした壁ではないのだから、乱暴すると簡単にたわみはするが、流石に壊れてはくれない。
「諦めろい!良いな、出してやるから、其処に居るんだぞ!」
言い残して遠ざかって行く丸井の足音。
完全に閉じ込められた。
「・・・ふう。」
(取り敢えず助けて、って言わないと。えーと、位置が小ホールで、トラップ形式が間仕切り可動の閉じ込めで部屋ごと隔離、た、す、け・・・)
助けて。
一応そう打って、千百合はその場に座った。
なるべく誰も助けに来ないと良いのだが。
動かんで良いし、と思いながら。