Solicitation:3rd game 5 - 5/6


丸井には当てがあった。

仁王だ。
仁王なら刃物の一つや二つは絶対持っている。


[ナイフ持ってねえ?]


[なんじゃ、藪から棒に]


[春日のトラップ解除に要るんだよ]


「お?」
「どうした?」
「着信・・・はい、もしもし?」
『丸井か。』
「おう。なあ、ナイフーーー」
『ナイフは持っとる。』
「なら貸してくれ。返すからさ、な?」

『持っとるが、貸す気はないダニ。諦めんしゃい。』

はっきりした声音だった。

「・・・なんで?」
『ええか丸井、今はお互い引っかけあいしとる段階ぜよ。こうなったら、時間のかかるトラップに味方が引っかかったからっちゅうて、いちいち解除はしとれんのじゃ。気の毒じゃがな。」

仁王も別に、紫希が憎くてこう言っているわけではない。
ただ、勝つ為にはその方がより良いのだ。

「ちょっと貸してくれるだけだろい、」
『貸すのは一瞬じゃが、その道中はどうするつもりじゃ?受け渡ししようと無理に動いて捕まったら、目も当てられんぜよ。』
「それは・・・」
『よしんば貸すところ迄は出来たとして、解除にもある程度時間がかかる。どんなトラップか知らんが、一瞬で解放出来るようなもんじゃないじゃろ。』
「・・・・・・・」

正論且つ正解である。
確かに刃物があれば作業は楽になるが、ここまでぐるぐるだと楽になるだけ。
一瞬でパッとドアが開くようにはなるまい。

『それにな、丸井。厳密に言うと春日は捕まっとらんぜよ。』
「は?」
『閉じ込められとるだけじゃ。別に警察側に拘束されとるわけじゃないき、そのまま放置しておけば逃げてる人数としてカウントされる。まあ向こうもそれは分かっとるダニ、タイムアップの頃には迎えに来るじゃろうが、そっちの方がまだ目がある。』

例えば、その迎えに来た奴を足止めしてタイムアップを狙ったり、紫希が部屋の中で隠れ直したり。そういう対処が取れれば、こっちの勝ちが見えてくる。

『そういう意味では、春日の場合逆に逃がすと悪手とも言える。』
「・・・捕まるから?」
『そうじゃ。まあ敵としても春日は狙い目とはいえ、逃してやってから捕まり直す迄のスパンが短過ぎる。こう言っちゃなんじゃが、逃がすだけ無駄じゃ。』

それは丸井もよく分かる。
自分も同時に逃げたのだから、紫希が閉じ込められるまで如何に時間がちょっとしか経っていないかは、本人と同じくらい知っている。

『解放してやりたいっちゅう気持ちも分からんじゃないがの。』
「・・・・・」
『ただ今は状況が状況じゃき、下手な無理はしないに限るんじゃ、ええな。』

そうね。
その通りね。

と、まあ普通は思う。
丸井も思った。

「・・・分かった。」
『よし、ならそういう事で。』

そこで通話は切れた。

「・・・ブン太、俺にも聴こえてきてたけど。」
「うん。」
「・・・どうするんだ?」

桑原は漏れてきた声がたまたま聞こえてきただけである。
紫希はおそらく聞こえていまいが、なんとなく雰囲気で感じ取っているだろう。

「・・・やっぱり、駄目ですよね。」

「あ・・・いや、あのな、」

「良いんです、桑原君。有難う御座います。でも・・・やっぱり、勝つ為には助けない判断だって、必要ですよ。」

「お前それ、自分が助けられない側に回ってるからそう言ってるだけだろい?」

自分じゃなくて他の誰かだったら、紫希は何か手立てを必死に考えるに違いない。
そういう子なのだ、この子は。

「・・・ま、良いや。分かった。」
「ブン太・・・」
「どうせ言ったって聞かねえもんな。春日も仁王も。」

どんなに自分が反対したって、この2人は意見を翻さないだろう。
ならもう、言うだけ無駄だ。

「行こうぜ、ジャッカル。」
「・・・ああ。」

「すみません、お二人共・・・有難う御座いました。」

来てくれて嬉しかった。
それは本当だ。
助けられなくても、来てくれただけで。

閉じ込められてからこちら不安しか無かった紫希の心は、今落ち着いていった。






「・・・で?」
「ん?」
「どうするんだよ。」
「どうって?」

「惚けるなよ。仁王も春日も言い出したら聞かないのかもしれないけど、お前だってそれは同じだろ。」

寧ろ桑原からしてみれば、言い出したら聞かないの代表格は丸井なのである。
頑固と言うよりは我儘というか、駄目と言われてはーいとさっくり引っ込むような性格はしてない。

「・・・やっぱ、分かる?」

振り返った丸井は二イッと笑っていた。

「当たり前だろ。何年の付き合いだと思ってるんだ?」
「いやー、流石ジャッカルだな!話が早くて助かるぜ。」
「はいはい。で?具体的にどうするつもりだ?」

「仁王を捕まえる。」

要は、である。
全てがスピーディーに、損する事なく運べば文句はない筈だ。

警察に捕まる事なく、時間のロスも無しで、最小限且つ最適な動きを以て刃物の受け渡し及び救出を行う。
それなら許される。

「・・・簡単に言うけどつまり、捕まらない事が大前提だな?」
「そ。期待してるぜ、スタミナ自慢♪」
「おい、俺かよ!」