Solicitation:3rd game 5 - 6/6


「マジか。」

千百合は誰も居ない小ホールでポツンと言った。

今しがたLINEにて、「時間が無いから助けられない。すみません。」のお知らせが来たのだった。

まあ、実際泥棒側とて、逃げられるような時間が無い状態に追い込んでからトラップを発動させているので、原則逃げられないのは千百合も想像がついてはいた。
ついてはいたが、こうしていざ、「無理!」と言われるとちょっと。
まあ良いけど。

(ま、動けないんだから活動できなくてもしょうがないよねって事で。時間までだらだら過ごすかな・・・)

などと思った直後だった。

「・・・ん。」

何か音がする。
これは、誰かが逃げて来たな。
もしくは追ってきたか。

誰だろう、と思っていると、果たして扉が静かに開いた音がした。

「黒崎さん?そちらにおいでですか?」

「ああ、柳生。」

柳生だ。
姿は見えないけど、柳生の声である。

「通りがかったので立ち寄ってみたのですが、ご無事ですか?怪我などしていませんね?」

「ああ、それは大丈夫。別に平気。」

というか、ゲーム中に「通りがかり」とか「立ち寄り」とかって、偉く余裕だなと千百合は思う。
不思議と、それがまた柳生らしくもあるけど。

「それは何よりです。しかし先程連絡は致しましたが、状況次第ではありますが原則救出は出来ません。」

「ああ、良いよそれは別に。」

「申し訳ありません。女性をこのような所に何時までも閉じ込めておくのは、此方としても心が痛むのですが・・・」

「良いって。作戦でしょ、別に恨んだりとかしてないから。」

寧ろ千百合的にはラッキーと言えばラッキーなのである。
楽と言えば楽が出来るので。しかも大手を振って。

「そう言って頂けると、有難いです。ただ、重ねて言いますが、状況が許せば必ず助けますので。」

「はいはい。でも、警察側の全滅には気をつけなさいよ。言われるまでも無いと思うけど。」

「ああ、それは勿論。」

「そう言えば、今他に誰か捕まったりしてんの?」

「いえ。今は黒崎さんだけですね。」

「ふうん。」

紀伊梨辺りも捕まってるのでは、と思ったが捕まって居ないらしい。
なんだかそれはそれでちょっと当てが外れて残念。
彼奴は絶対捕まってると思ったのに。

「ああ、しかし先程までは五十嵐さんも捕まっておいでだったようです。」

「そら見ろ。」

こんな事だろうと思った。

「でもじゃあ、彼奴は逃げたの?」

「ええ。トラップも簡易式でしたし、偶々ですが幸村君がすぐ助けられる位置に居ましたので。手早く救出して頂けたようです。」

「ふうん。」

やっぱり彼奴は運が良い。
というか、最近食い物関連の事で丸井にやられているから忘れがちだが、基本紀伊梨は運が良いのだ。

そう。
運が良いのだ。

「・・・・・」

「黒崎さん?どうかしましたか?」

「ん?何が?」

「いえ・・・なんでもないなら良いのです。お気になさらず。」

うん、そう。
なんでもない。
なんでもないから。

「・・・黒崎さん。」

「うん?」

「すみません。」

「いやだから、良いって。気にしてないって。」

「助けられない事だけではありません。折角こうして皆でゲームしているのに、黒崎さんが参加出来ていないような形になってしまう事が申し訳ないのです。」

「それこそ変な話よ。確かに何もしちゃいないけど、これはこれで参加の形じゃん。」

一時隔離されている状態には違いないが、それは「一時隔離状態に持って行く」というゲーム性の果てにこうなったのであって、それだって立派な参加形態である。

「しかし、色々な形で漏れ聞こえてきますが、黒崎さんは本来こういった催しに対して乗り気ではないでしょう?」

「それは、まあ。基本面倒なの嫌いだし。」

というか、この手の企画は大概紀伊梨が言いだしっぺで時点で棗。基本千百合ではないと言うか、殆ど千百合から言い出しはしない。
今回の事だって、千百合は確かに珍しくGWの際に「何かやろう」とは言ったが、棗が各種ゲームを揃えて来た時には「うわ、面倒くせ」「もっとシンプルで楽い手無いのかよ」と思わなかったと言うと嘘になる。

「その上でこういった形になってしまうのは、やはり気にするなと言われても少々申し訳なく。」

「気持ちは分かるけどね。でもやっぱりっていうか、そもそも企画したのは私達だし。そんなに嫌ならその時に言えよって感じっていうか、面倒なのも込みで納得ずくだから良いよ。」

「いえ、そうは言いますがやはり、やる気の無いものをさせておいてこの状況は。」

「やる気無いように見えてると思うけど、此れでもやる気ある方なのよ、一応。」

「そうなのですか?」

「そうなの。紀伊梨や紫希と比べて見えないだろうけど。」

「ほう・・・分かりました、そうなのですね。」

「そう。」


「安心しました。それならば心置きなく、作戦への協力を仰げると言うものです。」


え”。
と変な声が出たが、柳生まで届いたかどうか。

「いやあ助かりました。少し考えて居た事があったのですが、これは黒崎さんの協力が必要不可欠ですので。」

「おい。」

「元々こういったゲームはお嫌いのようですし、断られるとばかり思っていたのですが。」

「こら。」

「それほどまでにやる気になって頂けているのなら、問題はありませんね。では早速準備に取り掛かりましょう。」

「ちょ、」

「はい、何か?」

「・・・・・・・」

此奴。
此奴、此奴、此奴。

顔が見えないからって、いとも簡単にこっちの事引っかけてくれちゃって。

間仕切りで分からないけど、分かるぞ。
絶対此奴今、いっそ清々しい位の良い笑顔をしているに違いない。

「・・・一個言って良い。」

「はい、どうぞ?」

「あんた仁王と超お似合いよ。」

「そうですか?私としては、黒崎さんと幸村君の方がよりお似合いかと存じますが。」

ガシャン!と千百合が間仕切りを蹴る音を聞いて、柳生は愉快そうに笑った。