Solicitation:3rd game 6 - 1/6


「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、」

紀伊梨は走る。
あてどもなく走る。

待ち伏せは飽きたので、どうせもうそろそろ終盤だし足で泥棒を探す事にした。

紫希が捕まっている事は連絡が入った。
が、他の泥棒は結局まだ見つかっていない。
捕まえるのはもっと終了直前でも良いが、そろそろ閉じ込めださないといけない。

「おりゃ!・・・あれー?此処にも居ないなー。皆何処行ったんだろー!」

(それが居るんじゃ、実はな)

紀伊梨が入った寝室には、実はクローゼットの中に仁王が身を潜めていた。

このクローゼットは実は床の底が抜けていて、下部の引き出しまで貫通している。
だから蹲って布を被れば、人などとても居ないような小さい荷物にしか見えないのだ。

ただ、まずい事が2つ。
1つ、自分は未だ変装を解いていない事。
紀伊梨の恰好のままなので、仲間の振りをして「トラップ仕掛けてたんですよー」の言い訳が出来ない。

そしてもう1つ。

「あり?これなんだろー?紐?」

(バレたか・・・)

そう。
此処はA・B、両チーム共にまだトラップ未設置の真っ白部屋であった。
だから新規でトラップを仕掛けてやろうと思っていた所に紀伊梨が入ってきて、その所為でトラップを仕掛けようとしていた痕跡だけ残っているのだ。

(あそこまで「やりかけです」感があると、つまりまだこの部屋に居る筈っちゅう発想に普通はなるが・・・いや、諦めるな。五十嵐の脳味噌の出来がアレなのは分かっとる事ダニ、このまま無視してくれるかも・・・)

「ふんむー・・・あ!分かった!名探偵、紀伊梨ちゃんは分かっちゃいましたよ!これはズバリ・・・」

(・・・ズバリ?)

ズバリなんなのだろう。
此処で当てられるかどうかは今後の状況判断に関わって来るから、早くその先が聞きたいのだが。

「・・・ズバリー!」

(・・・・)

「つまりー!」

(・・・・)

「えーと、だからー!」

(つまり、良く分かっとらんのじゃな。)

どうやら勢いで喋ってるだけらしい。

しかし、それならそれで諦めて出て行ってくれればトラップ作成の続きが出来るのに。
流石にこの調子でずっとここに居られると、簡易的に閉じ込められているも同然ーーー


BBBBBBB


(・・・!)

「!・・・誰か居るっ?」

しまった。
携帯のバイブが鳴った。

普通はスマホの振動音如き鳴っても聞こえないが。

(五十嵐は耳が良い。此奴を音で誤魔化すのは無理じゃ。)

ほら。
今も、あんな微かな音でがっちり方向まで掴んで、真っ直ぐクローゼットまで向かってきた。

「・・・此処だー!」

ガチャ!
と扉を開ける紀伊梨だが。

「って、ありー?誰も居ないー!」

そう、開けられてもまだ大丈夫。
パッと見、誰も居ないように見える。

「うーん・・・でもでも、絶対聞こえたんだけどなー。何か、ブーって音が!うーん?虫さんでも居るかなー?」

(まずい、)

なんだ人は居ないな、で流してくれれば良いのに、耳に自信のある紀伊梨は、音がしたのは間違いないと分かってしまっている。
もう終盤なんだから、泥棒が居ないなら時間の無駄になる事はしない・・・とはならないのが紀伊梨の紀伊梨らしい所。

(まずい、これはまずい。今見つけられたら間違いなく捕まる。)

何せ完全に袋小路なのである。
この状況下では、見つかる事と捕まる事がほぼ=だ。

どうする。
どうしよう。

そう思った時、仁王はふと思いついた。

どうせだ。
どうせ捕まるなら、駄目で元々。

「・・・・しい・・・」

「うお!何か聞こえた!やっぱり何処かに居るなー、どろぼーめ・・・・」

「恨めしい・・・・」

ぴき。
と空気が凍ったのを、仁王は肌で感じた。

いける。
これはいけるぞ。

「・・・・え、え、だ、誰・・・」

「恨めしい・・・恨めしい・・・どうして・・・」

「だ、誰!?誰!?何処!?ねえ!」

「どうして・・・恨めしい・・・どうして・・・」

「う、ううう・・・!」

(効いとる効いとる)

仁王はただ、女子の声真似でそれっぽい事を適当に言っているだけ。
ただそれだけなのだが、紀伊梨にはそれが本当に恐ろしい。

誰も居ない(ように見える)クローゼットから突如聞こえた物音。
そして知らない少女の声。

ここまで来ると、さっきまで平気だったこの壊されつくされた部屋や、中途半端なトラップの痕跡さえも、紀伊梨の恐怖を煽る舞台装置でしかない。
泥棒めーと言っていたさっきまでの勢いはもう何処へやら。

「恨めしい・・・ああ恨めしい・・・」

「ううう・・・あうううう・・・!」

紀伊梨はもう、さっきから泣きかけのガクブルである。
もう怖くて、逆に逃げる発想がなくなる所まできている。

もう一押しで落ちる。
何かそれっぽい、駄目押しの一言無いかな、と仁王が思った瞬間だった。


カタン!


「う・・・・うああああああん!誰か助けてええええ!」

もう駄目だった。
ただの家鳴りが、今の紀伊梨にとっては完全にポルターガイストである。

紀伊梨は転げるようにして部屋を飛び出して、一目散に走って行った。
部屋のドアも何も、全て開けっ放しで放置したまま。

「・・・ちょっとやり過ぎたかのう?」

誰も居なくなった部屋で、仁王がひょこんと顔を出した。