お願いです。
なんでもしますから、自分を明るい所へ連れて行ってください。
そんでもって、1人にしないで下さい。
人が本気でお化けや幽霊の類に会った時ーーー少なくとも本人がそう思い込んでいる時、願うのは大凡上記のような事であろう。
紀伊梨も御多分に漏れなかった。
「誰かーーー!ねえーーー!誰か居ないのーーーーー!?」
そもそも全体の人数に対してフィールドが広いのだから、そんなにしょっちゅう他の誰かと巡り会うわけではない。
ないのだが、今の紀伊梨にはそんな当たり前の事すらも、今はお化けの呪いパワー(?)で1人になってしまうようになっているんだ!とパニックを加速させる。
だから、進行方向に真田の姿が見えた時、紀伊梨は大真面目に真田が天使か何かに見えた。
「真田っちーーーーーー!」
「ぐっ!五十嵐か・・・!」
まずい。
というか、詰んでる。
紀伊梨は足が速い。
そんなに簡単には振りきれない。
しかもただ会っただけなら逃げられただろうが、今真田は丁度柳から追われている所であった。
前門の紀伊梨後門の柳。
行くも敵、戻るも敵。
どうしたものか、と考えるより先に、腹部にロケット頭突きが入った。
「真田っちいいいい!」
「ぐふっ!」
鳩尾は人体の中でも、鍛えようの無い部位と言われている。
其処にもろに入った気がした。
たまらず真田は後ろに尻餅をついたが。
「真田っちいい!真田っち、真田っち、真田っち助けてえええ!」
「げほっ、くそ!一体何・・・五十嵐?」
捕まえに来たのだと思ったが、違う。
紀伊梨はひしと自分にしがみついて震えている。
「追いつい・・・真田、これは何だ?一体どうした?」
「柳。いや、俺にも事の次第が分からん・・・」
「うえええ・・・!真田っちいいい・・・!やなぎいいい・・・!」
終いにぽろぽろ泣き出す紀伊梨。
こうなると、柳はともかく真田は弱い。
女子に泣かれると対処のしように困る。
「お、おい・・・泣くな!たるんどるぞ!」
「真田も落ち着け。五十嵐、どうした?何があったんだ?」
「お、おば・・・おば・・・おば・・・」
「叔母?」
「家族に何かあったのか?」
「違ううう!お化けが出たのーーー!」
言い終えると、改めて自分は幽霊に会ったのだという思いと、今目の前に真田も柳も居てくれているという安心感とで、又大きな目からポロポロと涙を零し始める紀伊梨。
「お化けが・・・」
「出ただと・・・?」
真田と柳はそっと目を合わせた。
紀伊梨がこんなに怯えて泣いているのだし、嘘だ冗談だとか言う気は無い。
言う気は無いが、反面真田も柳もお化けだとか幽霊だとか、そういう物をみだりに信じたり怯えたりする性格でもなかった。
「五十嵐、兎に角落ち着け。少なくとも此処にはお前と真田と俺しか居ない。安心して良い。」
「ほんど・・・?」
「ああ、本当だ。だから先ずは泣き止むんだ。ゆっくり息をしろ。」
「う”ん”・・・」
ぐす、ぐす、と鼻を啜る紀伊梨。
さっとハンカチを出してやる柳は、残念ながらティッシュは持っていない。懐紙ならある。
「・・・落ち着いたなら改めて聞くが、なんだ?物の怪だと?」
「も/のの/け姫・・・?」
「それじゃない。が、今説明している時間は無い。兎に角、何処で何があったのか、それを説明してくれ。」
「う”ん・・・あのね”、あっちの部屋でね”・・・」
紀伊梨は話した。
寝室と思しき部屋に入った事。
物音がしてクローゼットを開けたけれど、誰も居なかった事。
恨めしい、どうして、と声が聞こえた事。
「そいで、逃げてきた・・・」
「・・・そうか。」
「・・・事の次第は分かったが。」
事の次第が明らかになった所で、1つ。
それ、思い込みじゃない?
「結局、一つ一つの事に対して結果がそうだった、というだけで何一つ原因が明らかになっていないな。」
「たるんどる!不可解な事が起こったのなら、怯える前に自分の目で確かめんか!」
「出来ないよ!怖いよ!」
「それがたるんどるというのだ!怖いなら尚更、自分で確認しろ!幽霊の正体見たり、枯れ尾花だ!」
「かれおばなってなーに?」
「・・・・・」
「まあ、今は後にしよう。兎に角今は・・・」
「今は?」
「先ず、現場に行かねば始まらないだろうな。」
その柳の正論が、紀伊梨には死刑宣告である。
「嫌だああああ!行きたくないーーー!行かないーーー!」
「泣くな!来い!」
「やだ!」
「ならば此処に1人で残るか?」
「う!」
今の状況で、1人になれというのもかなりの辛さ。
「ううう・・・で、でも行きたくないよう・・・!」
「しかし行かなければ、お前はこれから今日此処を出るまで、いつまでも「ここには幽霊が居るのかも」と思いながら過ごす事になるぞ。」
「うう、それもやだ・・・!」
「我儘を言うな、我儘を!俺達と見に行くか、此処に1人で残るかどちらか選べ!」
「どっちもやだー!」
「貴様という奴は・・・!」
「まあ待て真田。五十嵐、良いか良く聞け。」
「う・・・?」
「お前がお化けお化けと騒ぐから、便宜上幽霊と呼んではいるが。だが、実際の所は幽霊などではない確率の方が高い。」
「えーーー!?」
そんな事あり得るのだろうか、いやあり得ん!と紀伊梨はついつい思ってしまう。
「だってだって、声聞いたよー!」
「それがそもそも聞き間違いではないのか?」
「いや、五十嵐の耳の良さは折り紙付だ。声が聞こえた、というのは本当だろう。」
「ほらー!」
「む・・・しかしそれにしても幽霊などと、」
「それも違う。俺は、声が聞こえた事と幽霊が居る事はイコールでは結べない、と言いたいんだ。」
「・・・つまりー?」
「幽霊ではない・・・つまり、人間が其処に居てそいつが声を出していた、という事か?」
「ああ。」
なんと正確な推測か。
マスターの名は伊達ではない。
「・・・って事は、もしかしてニオニオ?」
「人間ならば十中八九仁王だろう。それにもし人間が居なかったとしても、そのクローゼットに携帯など仕掛けておいて、音声を流したなどの可能性もある。」
「確かに、姿は無く音声のみ聞こえたというならば、それもあり得るか。」
「いずれにしろ、幽霊でない可能性は十分高い。が、同時にもう一度現場を見ない事には、推測の域を出る事も出来ない。」
「やはり、その部屋に赴かねばなるまいな。」
「ああ。というわけで・・・五十嵐。」
「う!・・・ううう~~~~!」
嫌である。
凄く嫌である。
でも、行かないといつまでも怖い事も紀伊梨は分かっている。
「怖いのなら来い!幽霊など居らんという、確たる証拠を自分で掴め!」
「何も1人で行けと言っているわけではない。俺と真田も同行しよう。」
「う~~・・・絶対だよ!絶対1人にしないでよ!途中で置いてっちゃったりとか、閉じ込めて電気消すとか、そーいうの絶対無しだかんね!」
「何処の外道だ、そんな事をする輩は。」
「黒崎か仁王辺りだろうな。」
(流石柳じゃ、よう分かっとるぜよ)
仁王は今、3人の後方の壁の陰に隠れて話を伺っていた。
ちょっと面白そうだったので紀伊梨の後を追ってきてみたら、なんと真田と柳と合流した上に、ゲームを束の間棚上げして幽霊を確かめに行く流れになってしまった。
まああの2人なら、ちょっと見たら人が隠れられる事には気づくだろう。
問題はその後の話だ。
「こんな経緯で真田が捕まってしまうとは・・・誤算だったぜよ。」
これで真田が捕まるのはほぼ確定だ。
真田は幸村を真面に相手取らない限り逃げ切れる前提で考えていたのに、計算が狂った。
紫希は閉じ込められているし、これで2人消えたとなると、後1人で詰む。
「・・・他にイレギュラーが無ければいいがの。」